表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんなシリアスな展開も、心の中でツッコミ入れれば大体なんとかなる説  作者: 東影カドナ
第2章:イケメン、必殺技を持っている説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/25

2-4:完璧超人、意外と致命的な弱点ある説


 夜城レイの銀の剣が、カッパの鋭い爪と何度も火花を散らす。


キィン!

キィン!


 金属音が、夕暮れの公園に響き渡る。


(速い、だけじゃない。動きが読めへん!)


 カッパの動きは、まるでバグったプログラムみたいに不規則だ。

 右に跳ねたかと思えば、急に左へ。

 上に跳び上がったと思ったら、突然低く突進してくる。

 熟練しているはずの夜城くんですら、対応しきれていない。

 そして、その隙を突いて――


「っ!」


 カッパの爪が、夜城くんの腕をかすめた。

 制服の袖が裂け、血が滲む。


(まずい……!)


 その時、私の脳内に、ミラの解析データが流れ込んできた。


≪解析開始────≫

≪対象:暴走疑似生命体 Type:W-03"カッパ"≫

≪データ読み込み中…10%≫

≪パターン解析中…35%≫

≪弱点特定中…68%≫

≪完了。結果を表示します≫


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【対象情報:解析完了 】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【名前】:暴走疑似生命体 Type:W-03"カッパ"

【弱点】:頭頂部のコア(皿)

【耐久度】:C-

【推奨攻撃】:物理的衝撃

【備考】:コアが破損すると、

     システム全体が停止します

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(あれを壊せば……!)


 恐怖よりも、何とかしなければという焦りが勝った。


「夜城くん!」


 私は、ほとんど叫ぶように彼の名前を呼んだ。

 夜城くんが、一瞬だけこちらを振り向く。

 その隙を突いて、カッパが突進してくる。


「危ない!」


 だが、夜城くんは冷静だった。

 彼は剣を振るい、カッパの突進をかわす。

 そして、私に視線を向けた。


「沖名さん、逃げるんだ!」

「そいつの弱点は、頭の皿よ! 光ってるそこを狙って!」


 私の言葉に、夜城くんが一瞬だけ驚いたように目を見開く。

 だが、彼はすぐに私の言葉を信じたようだった。


「……っ、わかった!」


 彼は一度大きく後ろに跳躍し、カッパとの距離を取る。

 そして、今までとは違う、低い姿勢で剣を構え直した。

 その構えは、まるで居合のようだった。

 カッパが再び奇声を発し、直線的に突っ込んでくる。


「ギャアアアアッ!」


 夜城くんは、じっとその突進を見据えている。

 まるで、タイミングを計っているかのように。


 3メートル。


 2メートル。


 1メートル。


 そして――

 夜城くんが、紙一重で体を横にずらした。


 ひらり。


 まるで舞うように躱した。

 目標を失ったカッパがたたらを踏む。

 そして、その隙を見逃さず、すれ違いざまに銀の剣が閃光を描いた。


シュパッ!


 空気を切り裂くような音と共に、剣は見事にカッパの頭上のコアを捉えていた。


パリンッ!


 コアはガラスのように砕け散り、青白い光の破片が宙に舞う。


「ギ……ギ……」


 カッパは悲鳴を上げる間もなく、その体を光の粒子に変えて霧散していった。

 まるで、ゲームのモンスターが消滅するかのように。

 キラキラと輝く光の粒子が、夕暮れの空に溶けていく。


 …

 ……

 ………


 静寂。

 公園には、夕暮れの風の音と、夜城くんの荒い息遣いだけが響いていた。


「はぁ……はぁ……」


 彼は、剣を地面につき、肩で息をしている。

 額には玉のような汗。

 私は、その場にへたり込みそうになる足を、必死で叱咤した。


(終わった……?)


≪解析完了。暴走疑似生命体の反応、消失しました≫


 やがて、夜城くんは息を整えると、手鏡を再び取り出した。

 すると、剣は光の粒子に変わり、さっきの光景を巻き戻すかのように鏡の中へと吸い込まれていく。

 手鏡をポケットにしまうと、ゆっくりとこちらに振り向いた。

 その瞳は、もうクラスメートに向けるそれとは全く違う、鋭い光を宿している。


「沖名さん」

「……なに」


 私の声が、少し震えている。


「なぜ、あれが弱点だとわかったんだ?」


 まっすぐな質問。

 もう、誤魔化しは効かない。

 私が言葉に詰まっていると、彼はゆっくりと私に近づき――

 そして、深く頭を下げた。


「君の力がいる。協力してほしい」

「……え?」


 予想外の展開に、私の思考が停止する。


「俺は、暴走した疑似生命体を無力化する任務を負っている。だが、俺の力だけでは、万全に対応できるわけじゃない」


 夜城くんは、頭を下げたまま続ける。


「君のように、敵の弱点を正確に見抜く能力があれば、もっと多くの人を、そして……疑似生命体自身をも、救うことができる」


 顔を上げた彼の瞳は、驚くほど真剣だった。

 夕日に照らされたその横顔は、悔しいくらいに端正で――

 私の心臓が、また少しだけ、トクン、と音を立てた。


(……イケメンの必殺技や、これ。こんな真剣な顔で頭下げるとか、反則やろ!)


 だが、私はここで流されるほどチョロい女やない。

 警戒心を解かずに、私は目の前の完璧超人(仮)をじっと観察する。

 さっきから、彼は私に話しかけながらも、やっぱり落ち着きなくキョロキョロしている。

 視線が、あちこちに泳いでいる。


(確信したわ……)


 私はゴクリと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。


「その前に、一つだけ聞かせてもらうけど」


「……なんだ?」


「夜城くん、もしかして」


 …

 ……

 ………


「帰り道がわからないんじゃないですか?」


 私の指摘に、夜城くんは――

 夕日よりも真っ赤な顔で、ピシリ、と固まった。


「……」


 彼の口が、パクパクと金魚のように動いている。

 だが、声が出ない。


「やっぱりか……」


≪セツ、対象の心拍数が急上昇しています。恥ずかしさによるものと推測されます≫


(ミラ、それ言わんでええねん)


 私は深くため息をついた。


「夜城くん。あなた、さっきから同じ場所を3回も見てたでしょ」


「……見てない」

「見てた」

「見てない」

「ステータスに『重度の方向音痴』って書いてあったで」

「なっ……!?」


 夜城くんの顔が、更に赤くなる。


「お、お前……『情報視』が使えるのか……!?」

「使えるから、あんたのこと全部バレバレやで」


 私はため息をつきながら、彼の肩を叩いた。


「で、どこまで送ればええん?」

「…………駅」


「どこの?」

「…………わからない」


「住所は?」

「…………覚えてない」

「…………」


(こいつ……アカンわ!)


 完璧超人の弱点が、致命的だと理解してしまった瞬間だった。

 結局、私は夜城くんを駅まで送り届けることになった。

 道中、彼は終始無言で、耳まで真っ赤にしていた。

 その姿は、教室で女子に囲まれていた時の完璧なイケメンとは、まるで別人だった。


(なんか、ちょっとだけ可愛いやん……)


 いや、待て。

 敵の一味やぞ、こいつ。

 油断したらアカン。


 でも――


≪セツ、あなたの心拍数が上昇しています≫


(うっさいわ!)


 駅に着くと、夜城くんは改めて私に向き直った。


「沖名さん、今日のこと……」

「わかってる。誰にも言わへんから」

「そうじゃなくて……」


 彼は少し躊躇ってから、真剣な顔で言った。


「ありがとう。君がいなければ、俺は負けていたかもしれない」


 そして、再び深く頭を下げた。


「改めて、お願いする。俺に、協力してくれないか」


 …

 ……

 ………


 私は、その真剣な瞳を見つめた。

 この人は、敵なのか。

 味方なのか。

 それとも――


「……考えとくわ」


 私はそれだけ言って、踵を返した。


「沖名さん!」

「明日、返事する。それより、あんたがちゃんと家に帰れるかどうか心配やけど」

「っ……!」


 背後から、夜城くんの悔しそうな声が聞こえた。

 私は思わず、クスリと笑ってしまった。


(イケメンやけど、なんかこの人、放っておかれへんな……)


 家に帰る道すがら、私は考えた。

 夜城レイという人間について。

 鏡守という組織について。

 そして、これから私がどうするべきかについて。


≪セツ、どうしますか?≫

「……わからへん」


≪夜城レイを信じますか?≫

「わからへん」


≪では――≫

「でも」


 私は立ち止まり、夕焼けに染まる空を見上げた。


「じいちゃんが目指してた『共存』……それが本当にできるんやったら」


 …

 ……

 ………


「ちょっとだけ、信じてみてもええかもしれへんな」

≪……観測は継続します≫


 ミラの声が、いつもより少しだけ、優しく聞こえた気がした。

 翌日、私は夜城くんに協力することを伝えた。


 そして、私たちの奇妙な共闘関係が――

 本格的に始まることになる。

夜城レイは方向音痴というレベルではありません!

迷わないという選択肢はありません!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ