2-3:手鏡、武器出すのに使うヤツもいる説
結局、昼休みの間に話しかけるタイミングを逸してしまい、放課後。
一人で帰路につこうとした、その時だった。
「沖名さん」
背後から、あの爽やかな声が聞こえた。
振り返ると、そこには案の定、夜城レイが立っていた。
「……なに?」
できるだけ素っ気なく返す。
心臓がうるさい。
(なんで私やねん! 他にも女子いっぱいおるやろが!)
≪対象の心拍数、平常値を維持。セツに対する敵意は検知されません≫
(そら、監視任務やもん。敵意むき出しにするわけないやろ)
「少し、話がしたい。一緒に帰らないか?」
「は? なんで私が……」
「君、この辺に詳しいんだろう? 少し道を教えてほしい」
…
……
………
(道案内……やと?)
私は彼のステータスを再確認する。
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【対象情報:解析完了 】
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【名前】:夜城 レイ(やしろ れい)
【年齢】:17歳
【身長】:182cm
【所属】:鏡守第三部隊
【階級】:B級監視官
【任務】:観測者『沖名セツ』及び、
疑似生命体XII号『ミラ』の監視
【脅威レベル:A+
【戦闘能力】:A
【知能】:A-
【特記事項】:重度の方向音痴(レベルMAX)
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(ステータスの『重度の方向音痴』って、ガチやったんか! いやいや、胡散臭すぎるやろ!)
断ろうとした。
なのに、彼の真剣な眼差しに、なぜか「嫌だ」と言葉にできなかった。
(くっ……! 顔面偏差値の暴力、恐るべし……!)
結局、私は夜城レイと並んで歩くことになった。
気まずい沈黙が続く。
ふと、彼がしきりにキョロキョロと辺りを見回しているのに気づいた。
明らかに、道を確認している。
(ほんまに道、わかってへんのやな……)
私は呆れつつ、公園を抜ける近道へと足を踏み入れた。
「こっちの方が早いから」
「そうか。助かる」
短い会話。
夕日が、公園の池に反射して、オレンジ色の光を放っている。
綺麗だな、と思った。
その時だった。
ゴボッ!
公園の中心にある池の水面が、不自然に泡立つ。
(え?)
ゴボッゴボゴボ……
気味の悪い音と共に、水の中から緑色のぬめっとした何かが現れた。
人間の子どもくらいの大きさ。
背中には金属質の甲羅。
そして、頭の上には青白く発光する円盤状のパーツが乗っている。
目は、まるで赤いセンサーライトだ。
(なんや、あれ……)
≪警告。暴走した疑似生命体を検知しました≫
ミラの声が、緊張感を帯びて響く。
≪水質調査型、コードネーム『カッパ』です。脅威レベルC+。攻撃性、高。セツ、すぐに距離を取ってください≫
(河童……!?)
頭では理解していたはずだった。
妖怪の正体が、暴走した疑似生命体だって。
でも、実際に目の前に現れると、恐怖が体を支配する。
カッパは、ギョロリとした赤い目でこちらを見ると、甲高い奇声を発した。
「ギギギギ……ギャアアアアッ!」
そして、猛スピードで突進してきた。
(速っ!)
もうダメだ、と思った瞬間。
「沖名さん、下がっていろ!」
夜城くんが、私を背後にかばうように立つ。
私の前に立った夜城くんを新たな標的と定めたのか、カッパは奇声を上げながら更に加速した。
その時、夜城くんが懐から小さな手鏡を取り出した。
(は? 手鏡? このタイミングで化粧直しでもするんか!)
ツッコミを入れる暇もなかった。
彼が手鏡を前にかざすと、鏡面がまばゆい光を放ち――
その中から銀色に輝く剣が、ずるり、と引きずり出されるように現れたのだ。
「うそ……」
剣は、まるで水面から浮き上がるように、するりと鏡から出てくる。
夜城くんは、その剣を手に取ると、カッパの突進を真正面から受け止めた。
キィィィン!
甲高い金属音が響き渡る。
目の前で繰り広げられる光景は、あまりにも非現実的だった。
銀髪のイケメンが、鏡から出した剣で、妖怪(業務用)と戦っている。
(……マジか。私の平穏な日常、完全に終わったな)
夜城レイの剣技は、見事なものだった。
流れるような動き。
無駄のない軌道。
剣が美しい弧を描くたび、銀の光が夕日を反射してきらめく。
だが、カッパの動きは予測不能だ。
右に跳ねたと思ったら、重力を無視して左に飛ぶ。
まるでバグったプログラムみたいに、物理法則を完全に無視して、左右にジグザグに跳ねながら襲いかかってくる。
(完全にバグっとる! 物理法則、仕事しろや!)
「チッ……!」
夜城くんが舌打ちする。
彼の額に、汗が浮かんでいる。
(やばい……押されてる……!)
初めて目の当たりにする本物の戦闘に、私は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
(私、何もできへん……!)
(夜城くんが……やられたら……!)
拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込む。
悔しい。
情けない。
こんな時、じいちゃんやったら、どうしたんやろう。
(このままじゃ、あかん……!)
その時、私の脳内に、ミラの冷静な声が響いた。
≪セツ。あなたにも、できることがあります≫
疑似生命体『カッパ』登場!




