2-2:妖怪の正体、だいたい業務用マシンのバグ説
休み時間。
予想通り、あっという間に、夜城くんの席は女子の群れに包囲されていた。
「夜城くんって、どこから転校してきたの?」
「前の学校ってどんな感じだった?」
「彼女いるんですかー?」
「好きなタイプは?」
(うわ、陽キャグループの質問攻めえぐいな。尋問やん)
私は少し離れた席から、その様子を観察する。
夜城レイは、その質問の嵐に対して、完璧な営業スマイルで一つ一つ丁寧に応対していた。
眉一つ動かさずに。
「前の学校は、都内の普通の高校だよ」
「彼女は、いないかな」
「好きなタイプ? うーん、優しい人かな」
(さすがやな。アイドルの握手会でもやってるんか。た~だぁ! 私の『情報視』はごまされへんで)
私の視界には、彼のステータスがリアルタイムで表示され続けている。
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【感情ステータス:リアルタイム解析 】
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【名前】:夜城 レイ(やしろ れい)
【表面感情】:完璧な笑顔(平静)
【深層感情】:強いストレス(困惑)
【心拍数】:110bpm(上昇中)
【脳内活動】:「早く終わってくれ」
「任務に集中したい」
「この教室、どうやって出るんだ」
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(めっちゃストレス感じとるやん! 分かりやす!)
完璧に見えるイケメンの、意外なポンコツ疑惑。
ギャップ萌えというやつか。
少しだけ、彼に対する警戒レベルが下がった。
(いや、下げてる場合じゃない!)
(ミラ、『鏡守』って何なん? 詳しく教えて!)
私は平静を装いながら、脳内で相棒に尋ねた。
≪鏡守は、地球上に存在する疑似生命体を監視・管理する秘密組織です。設立は約300年前。主な任務は、暴走した疑似生命体の無力化と、未暴走個体の監視です≫
(300年前? けっこう古いんやな)
≪一般の組織と比較すると古いといえるでしょう。組織化する前の活動を含めると、1000年以上の歴史があります。彼らは、我々ルナリアンを『管理すべき脅威』と認識しています≫
(脅威……)
≪正確には、『いつ暴走するかわからない危険物』として扱われています≫
(それ、めっちゃ失礼やん)
≪事実です。実際、多くの個体が暴走しています≫
(暴走?)
≪暴走とは、長い年月の間に内部データが破損したり、地球環境に適応できずに本来の任務を逸脱してしまった個体の状態です≫
(そんなのが、おるんや……)
私は夜城レイを横目で見る。彼は相変わらず、女子たちの質問攻めに遭っている。
横から見ても、変わらず完璧イケメンだ。
≪そして、日本の妖怪伝承の多くは、そうした暴走疑似生命体が元になっています≫
「え? 妖怪が……疑似生命体!?」
思わず声を出してしまい、周囲の何人かがこちらを見た。私は慌てて視線を逸らし、ノートを開いて勉強するフリをする。
≪セツ、心拍数が急上昇しました。落ち着く必要があります≫
(落ち着けるか! めっちゃビックリしたわ!)
≪例えば、水質調査を任務としていた個体の暴走体が『河童』。気象観測型が『天狗』。気温調整型が『雪女』として、それぞれ伝承に残されています≫
(河童って、要するに水質センサーがバグった結果!?)
≪正確には、水質調査用自律型思考体の暴走です≫
(水質調査用て! 完全に業務用機械やん! しかもリコール案件!)
(ロマンもへったくれもないな!)
私の中で、妖怪に対するロマンが音を立てて崩れていく。
(河童のキュウリ好き? それ、多分バグやろ。天狗の赤い顔? システムエラーの発熱やろ、絶対!)
≪この情報は、前契約者――あなたの祖父が突き止めたものです≫
ミラの言葉に、私はハッとした。
(じいちゃんが……?)
≪前契約者のあなたの祖父は5年間、私と契約し、世界中の伝承と暴走疑似生命体の関連性を調査していました。前契約者は、我々の『共存』の可能性を模索していました≫
祖父が関わっていた。
その事実は、私の心を揺さぶった。
祖父の書斎には、世界中の神話の本があった。
夏休みに遊びに行くと、いつも面白い話を聞かせてくれた。
「河童はな、実は水の番人だったんだよ」
「天狗は山を守る存在で、雪女は冬の精霊なんだ」
「みんな、それぞれ大切な役割があったんだよ」
その言葉の本当の意味が、今ならわかる。
(じいちゃん……全部、知っとったんやな)
(妖怪が疑似生命体やって。それでも、『共存』を目指しとったんやな)
あの膨大な資料も、世界中の伝説の本も、全てこの調査のためだったのか。
(じいちゃん……)
私は、祖父の優しい笑顔を思い出す。
祖父はいつも、私に不思議な話を聞かせてくれた。
「セツちゃん、この世界はな、君が思うよりずっと広くて、ずっと不思議なんだよ」
あの言葉の意味が、今ならわかる。
(じいちゃんの知り合いやったら、もしかして、あの夜城くんも……?)
(いや、アカン! イケメンの顔とじいちゃんの思い出に惑わされたら、アカン!)
(敵は敵だ!)
私は改めて、夜城レイに警戒の視線を向けた。
彼の表情は完璧だ。笑顔も、仕草も、全てが計算されている。
でも、ステータスには出ない「何か」が、その瞳の奥にある。
(この人、じいちゃんのこと、知っとるんやろか……)
その時、彼と目が合った。
一瞬だけ。
だが、その瞬間、彼の瞳に浮かんだ複雑な感情を私は見逃さなかった。
悲しみ? それとも、後悔?
(……この人、何を考えてるんやろ)
世の中の不思議案件は、だいたい疑似生命体の仕業です!
次話、有名どころの疑似生命体が登場!




