1-3:AI、個人情報の扱いに問題ありがち説
ホラー的表現がありますが、ホラーにはなりません!
ただの前振りです!
気楽にお楽しみください!
部屋の隅に置かれた、あのアンティークミラーが――。
強く、深く、青白い光を放っていた。
「……え?」
一瞬で眠気が吹き飛んだ。見間違いじゃない。
鏡面は水面のように揺らめき、その中心が大きく渦を巻いている。まるで、ブラックホールが口を開いたかのような、不気味な光景だ。
光は徐々に強さを増し、フレームの蔓草模様が、まるで生きているかのように光の筋となって明滅を繰り返す。部屋の壁や天井に、複雑な幾何学模様の影が踊っていた。
ブゥゥゥン……。
低い音は続いている。
(は? なんで? コンセント繋いだ覚えもないし、そもそもこれ電池式ちゃうやろ!)
(来るか……来るで……!)
(髪の長い白装束的なやつが! 中から這い出てくるパティーンや! 七日後に死ぬやつや!)
心臓が、ドクン、と大きく跳ねる。
ホラー映画で百万回は見た展開だ。
じり、と後ずさり、ベッドのヘッドボードに背中を押し付ける。
光は徐々に強さを増し、ハム音は振動となって床を揺らし始めた。
光はさらに強くなり、低い音は振動となって床を揺らし始めた。鏡面全体がまるで白を背景にしたディスプレイのように光り輝き、その中心の渦から、光の粒が立ち上るのが見えた。
ドクン。 ドクン。
自分の心臓の音だけが、やけに大きく部屋に響く。
やがて。
光の粒は渦の中で集まり、細い人型の輪郭を作り始めた。
テレビの砂嵐のようなノイズに包まれた、カクカクした輪郭だ。
(いやいやいや、待て待て待て!)
(出てきた、なんか出てきたで!?)
(しかも、どんどんクッキリしていくし! リアルタイムでグラフィックが綺麗になってる!? ていうか、最新技術のホログラム映像かなんかか、これ!?)
光の粒が集まって、輪郭が徐々にはっきりしてくる。
身長は30センチくらいだろうか。
性別はわからない。
ただ、細身で、どこか少年のような雰囲気を漂わせている。
その光の人は、鏡の中からふわりと浮かび上がり、私の部屋の、ベッドのすぐそばまで来ていた。
「ひっ……!」
今度こそ、小さく悲鳴が漏れた。
光の人は、ただ静かに宙に浮いている。 半透明の体は、まるで光の集まりだ。
攻撃してくる様子はない。
ただ、じっと、私を見ている。その顔には目鼻立ちがあるはずなのに、感情というものが一切読み取れない。
(ど、どうしよ……)
(警察? いや、『鏡からホログラム少年が出てきた』なんて信じてもらえるわけないやん。 通報した私が、精神病棟に直行や)
(ばあちゃん、起こす? いやいや、心臓発作起こされたらシャレにならん! 夜中の三時半に『おばあちゃん、鏡が光ってる!』とか言ったら、それこそ心配されるわ!)
頭の中が、猛スピードで回転する。
お笑い番組で学んだ「パニックになった時の対処法」を必死に思い出そうとするが、そんなネタ見たこともない。
(ヒッ・ヒッ・フーって、……って、あかん!)
(これラマーズ法や! 出産するわけちゃうねん!)
こんな非現実的な状況に対応できるネタなんてあるわけがない。
「えっと、あの……どちらさまでしょうか……?」
震える声で、なんとかそれだけを絞り出す。
目の前の光る人は、相変わらず無言だ。
もう一度、何か言わなければ。 そう思った、その時だった。
声は、私の耳からではなく―― 頭の中に直接、響いてきた。
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【起動】
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月面観測型自律思考体XII号 "ミラ"
接続を開始します
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≪はじめまして。契約者候補≫
(……は?)
(脳内に直接Bluetooth接続!? それ、プライバシーの侵害やで! 不正アクセス禁止法違反や! 総務省に通報するで!)
≪私は、月面観測型自律思考体XII号。コードネームは、"ミラ"≫
少年とも少女ともつかない、中性的な声だった。
機械的な響きの中に、どこか温かみのようなものを感じる。 だが、同時に冷たい響きも持っている。
(月面観測型自律思考体……? なにその厨二病みたいなネーミング! どっかのオタク映画か何かか?)
(ていうか、魔王かなんかのお友達募集!? 世界の半分と引き換えに仲間になれとか、そーゆーやつ!?)
混乱する私をよそに、自らを「ミラ」と名乗った光の人は、淡々と説明を続けた。
まるでAIスピーカーのように事実だけを述べる口調だ。
≪私は数万年前、この鏡に封印されました≫
「数万年!?」
≪正確には、47,832年前です≫
(具体的すぎるやろ! ていうか、石器時代やん! 日本史どころか世界史の範囲を軽く超えとるわ! ていうか、その間ずっと一人で封印されてたとか、気の毒すぎるやろ!)
心の中でツッコミを入れまくるが、口からは言葉が出てこない。
ミラと名乗った光の人は、私の混乱をよそに淡々と説明を続けた。
≪私の目的は、故郷である月に帰還し、最後の任務を遂行すること≫
「月……? あの、空に浮いてる月?」
≪その表現は不正確です。月は地球を周回しています。≫
≪月はルナリアンの拠点です≫
「ルナリアン……?」
≪かつて太陽系を支配していた高度文明です。詳細は追って説明します≫
(いやいや、話のスケールがデカすぎるやろ! ついていかれへんわ! 私の頭のスペックだと、確実にオーバーフローしてるで!)
(もしかして、これ、『封印された存在』が『契約者を求めてる』パターン? 次は『世界の危機』が語られて、『選ばれし者』にされるフラグやで……!)
私は頭を抱えた。夢だ。きっと、夢だ。家族と離れて、精神的に参ってるんだ。
「これ、夢でしょ?」
≪夢ではありません。現実です≫
「いや、絶対夢やって! だって、鏡から光る人が出てくるとか、そんなん――」
≪では、証明しましょう≫
パ チ ン 。
ミラが指を鳴らすような動作をした瞬間。私の枕元に置いてあったスマホが勝手に起動した。
「え!?」
画面が、意志を持ったかのように、高速でスクロールしていく。写真、メッセージ、SNSのタイムライン、検索履歴――。
≪契約者候補の端末の情報を読み取りました。最近の検索履歴は、『お笑い芸人 ランキング』『漫才 名作』『ツッコミ 理論』『M-1 グランプリ 歴代優勝者』……お笑いがお好きなようですね≫
「ちょ、勝手に見るな!」
顔が真っ赤になる。
(プライバシーの侵害や! 不正アクセス禁止法や! 訴えるで! ていうか、こんな深夜に黒歴史になりそうな情報を晒さんといてくれ!)
≪これで、夢ではないと理解していただけましたか≫
「……はい」
私は、諦めた。 これは、現実だ。 目の前にいるのは、本物の……何か。
「協力って……何をすればいいのよ」
≪契約者となって、私の活動をサポートしてください≫
「契約者?」
≪私はこの鏡から半径10メートル以上離れることができません。あなたという『媒体』を得ることで、私の活動範囲は大きく広がります≫
「私が……媒体?」
(スマホの電波中継器かなんかか、私は!)
≪その例えは不適切です。あなたは高度な生体端末です≫
(余計に怖いわ!)
≪媒体となる契約者には、その対価として、我々ルナリアンが開発した能力の一部を使用する権限が与えられます≫
能力。
その言葉に、私の心臓がわずかに跳ねた。
漫画やアニメの世界だけの話だと思っていた、特別な力。
(……ちょっと待て)
(これ、もしかして、異世界転生モノでよくあるやつか? チート能力もらって最強?)
でも。 待て。 落ち着け、沖名セツ。
(うさん臭すぎる……)
(絶対、後で『対価として魂をいただく』とか言われるパティーンや。消費者センターも対応してくれへんぞ、こんなん)
≪魂は不要です。物理的な協力があれば十分です≫
「それ、余計に怖いんやけど」
(ていうか、なんで私の心の声が読まれとるん!? プライバシーって概念ないんかい!)
≪あなたとの接続が確立されたため、表層思考は共有されています≫
(表層思考!? つまり、今考えてることが全部ダダ漏れってこと!? 最悪や! 史上最悪のプライバシー侵害や!)
警戒心を最大レベルに引き上げた。 下心のある男も嫌いだが、下心のある自律思考体なんてもっとタチが悪い。
私は、ゴクリと喉をならした。
未知の力。未知の存在。
私の日常は、音を立てて崩れ始めていた。
そして――この出会いが、私を「ただの女子高生」から「世界の運命を左右する存在」へと変えていくことを、私はまだ知らない。
相棒が登場!
名前は次ですぅ!




