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どんなシリアスな展開も、心の中でツッコミ入れれば大体なんとかなる説  作者: 東影カドナ
第5章:乱戦ロワイヤル、いいとこ持ってかれがち説

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5-1:決戦前夜、議題がポテチの味になる説


 というわけで、私たちは我が家――沖名家へと帰還した。

 玄関のドアを開けると、リビングから漏れる温かい光と、味噌の匂いがふわりと漂う。

 ああ、日常の香りだ。


「あら、セツちゃん、おかえりなさい。 あらあら、お友達も一緒かい。 大変だったわねえ、部活の練習試合か何か?」


 案の定、優しい祖母は、泥だらけの私たちを見ても全く驚かず、にこやかに迎え入れてくれた。


 レイとユズの姿を認めると、「どうぞどうぞ、遠慮しないで。すぐにお風呂を沸かすから」と快く招き入れてくれる。


「夜ご飯はもう食べたのかい? あらまぁ、男前だねえ。 大岡越前の主役のなんてったっけ、あの人に負けてないよ。 セツちゃんもすみに置けないねぇ」

「いえ、あの、滅相も……」


 完璧超人のレイが、人の良さそうな祖母を前にタジタジになっている。

 新鮮な光景だ。


 おまけに、祖母は押し入れからテキパキと客用の布団を取り出しながら、私にだけ聞こえるように囁いた。


「あらあら、青春ねえ。 おばあちゃん、今夜は少し耳が遠くなるおまじないでもかけておこうかねえ」


(違う、おばあちゃん、そうじゃない!)

(これは、そういう甘酸っぱいイベントじゃない! もっと殺伐として、世界の存亡とかがうっすらかかった、ハードなやつなんや!)


「それより、おばあちゃん、おじいちゃんの書斎、入ってもいい?」

「あら、珍しいわね。 どうぞどうぞ。セツちゃんがおじいちゃんの研究に興味を持ってくれて、嬉しいわ」


≪補足。セツの祖父の蔵書には、疑似生命体に関する貴重な資料が――≫

(後で見よう。今は作戦会議が先や)


 祖母の温かすぎる誤解に心の中で絶叫しつつ、私たちは交代でシャワーを浴びさせてもらった。

 着替えは、祖父と私のジャージを二人に貸す。 銀髪イケメンがダサいグリーンのジャージを着ている姿は、なかなかにシュールだった。


(この光景、SNSに上げたら確実にバズるやつやん。 でも、秘密組織の人間を晒すわけにはいかへんしなぁ)


≪補足。夜城レイの所属する鏡守は、一般市民への情報漏洩を厳しく禁じています。SNS投稿は推奨されません≫

(冗談やねん、冗談! ツッコミまで監視すな!)


 さっぱりしたところで、リビングのローテーブルを囲む。

  祖母は麦茶を出すと、わざとらしく「眠くなっちゃった」という言葉を残して、自室に引き上げてしまった。

 私が棚の奥に隠しておいた非常食、ポテトチップス(コンソメ味)の袋を開けながら、最後の作戦会議が始まった。


「博物館の警備システムだけど、ミラが何とかしてくれるって」


 私が切り出すと、早速、脳内にミラの声が響いた。


≪市立博物館のセキュリティシステムは、菱川セキュリティ製の『ガーディアンV2』。5年前に導入された旧式のものです≫

≪外部から一時的にシステムダウンさせることは可能。ただし、連続介入時間は最大で3分間が限界です≫


「3分……。 カップ麺は作れるけど、ウルト○マンじゃないと、世界は救えなさそうな時間やな。 その間に、電子ロックのパスワードを『情報視』で解析して開ける。 そこからは、レイの先導で鏡のある特別展示室までダッシュ」

「ああ。問題は、潜入後に敵と鉢合わせした場合だ。 黒鏡と、鏡守の敵視派。 最悪のパターンは二つの勢力と同時に事を構えることになる」


 レイが真剣な顔でポテチに手を伸ばす。


(お前も食うんかい!)

(イケメンがポテチ食うのって、なんかシュールやな。ファッション雑誌専属モデルがたこ焼き食べるような、ギャップ萌え的な何かがあるわ)


≪昼間の戦闘データ、および公園での訓練データを基に、三者の連携パターンを再シミュレートしました。 上方修正版です≫


 不意に、ミラの声が私の頭に響く。

 やけにプレゼン慣れした口調だ。


≪パターンA:レイが前衛で敵の攻撃を引きつけ、ユズが中距離から氷結魔法で援護、セツが後方から司令塔に徹する。 これが最も安定します。 作戦成功率、上方修正後で38%≫

(38%って、3回に1回しか成功せえへんやん!)


≪パターンB:ユズの広範囲氷結能力で敵の動きを一時的に封じ、その隙にレイが各個撃破。セツは弱点指示に専念。 短期決戦向きです。成功率、52%≫

(半分か……。 コイントスとそう変わらへん)


≪パターンC:セツの『反射盾』を囮やカウンター、不意打ちに積極的に活用し、敵の陣形と予測を破壊する奇策。 成功率は……未知数。 別名、『出たとこ勝負大作戦』です≫

(博打やん!)


≪補足。 過去のデータから、予測不能な状況では、柔軟な対応ができるチームの方が生存率が高い傾向にあります≫

(それ、遠回しに『出たとこ勝負』を推奨しとるやろ!)

(最後のネーミング、絶対あんたが今考えたやろ! 成功率が未知数って、それ作戦って言わんのよ)


≪反論。不確定要素が多い状況下では、柔軟性を持った戦術が――≫

(またロジハラ! あんた、ほんまに学習能力あるんか!)


「ていうかさー!」


 私がミラのプレゼンに脳内でツッコミを入れていると、深刻な空気をぶち破って、ユズがポテチを頬張りながら素っ頓狂な声を上げた。


「チーム名、そろそろちゃんと決めない? 『チーム・ミラーズ』って、なんかダサいもん! ミラちゃんには悪いけど!」

「それな!」


 私もここぞとばかりに激しく同意する。

 ミラが少しだけ(AI的に)シュンとした気がしたが、知ったこっちゃない。


≪……私の命名センスに問題があると?≫

(問題しかないわ! 昭和のヒーロー戦隊かよ! 昔あった、制服のかわいいレストランの名前に似てるところも減点ポイントやで!)


「そうか? 悪くないと思うが。 まぁ、強いて変えるなら、『シルバー・ライオンズ』とかどうだ?」

「レイくん、強そうだけど、ちょっと厨二病っぽくない? あとライオン要素どこにもないし」


「じゃあ、『アイス・ドールズ』は?」

「ユズ、それじゃ氷でできた雛人形みたいじゃん! 却下!」


「じゃあ、私が考えたやつ! 『沖名セツと仲間たち』!」

「それ、セツがジャ○アンみたいになるからやめて!」


「『ザ・ツッコミーズ』」

「却下! 誰がツッコミ専門チームや!」


≪提案。 データに基づいて命名するのはどうでしょう。 例えば『連携率34.7%チーム』≫

「「「却下!!!」」」


 三人の声が初めて完璧に揃った。


≪……理解できません≫

(あんたは黙っとき! チーム名にパーセント入れるな!)


 決戦前夜だというのに、私たちの議題はいつの間にかチーム名になり、最終的には「ポテトチップスは『コンソメ派』か、『のり塩派』か、それとも『うすしお派』か」という、人類の永遠のテーマにまで発展していた。

 ちなみに、レイは意外にも『うすしお派』だった。 理由は「素材の味がわかるから」だそうだ。

 知らんがな。


(グルメ漫画の審査員か、あんたは! 戦闘民族のくせに味覚が繊細すぎるやろ!)


≪補足。夜城レイの味覚は――≫

(その情報、今いらんねん!)

(あかん、この緊張感のなさ……。逆に死亡フラグな気がしてきたわ……)


 ひとしきり言い合った後、ふと静寂が訪れる。

 時計の針は、午後11時半を指していた。


「……なあ」


 私が、ぽつりと呟く。


「私、ちゃんとやれるかな。 昼間みたいに、また足手まといになるんじゃ……」


 口に出した途端、不安が現実味を帯びて喉に詰まる。


 今日の訓練で、私は役立たずだった。 いや、むしろマイナスだった。 私のせいでレイは何度もタライの餌食になり、連携はめちゃくちゃになった。

 すると、ユズが私の手をぎゅっと握ってきた。


「大丈夫だよ、セっちゃん。 セっちゃんがいるから、私、頑張れるんだよ」


 でも、ユズの手は、わずかに震えていた。


(ユズも、怖いんやな……。 当たり前や。お姉ちゃんのこと、心配で仕方ないはずや)


 私は、逆にユズの手を握り返した。


「大丈夫。絶対、シズク姉さん、助け出すから」

「……うん!」

「それに」と、レイが口を開く。


「君は足手まといじゃない。 俺たちには君の『眼』が必要だ。 俺とユズが君の剣となり、盾となる」


 レイの表情が、一瞬だけ遠くを見るようになった。


「……5年前、俺を助けてくれたセツのおじいさんとミラのように。 今度は、俺が誰かを守る番だ」


(レイくん……)

(この人、ほんまに優しいな……。方向音痴やけど)


「だから、君は俺たちを信じて、前だけを見てくれればいい」

(……〜〜〜っ!)

(なんで、こいつは、こう、ナチュラルにキザなセリフが言えるんや! しかもダサいジャージ姿で! そのギャップが余計に心臓に悪いわ!)


 顔が熱くなるのを、俯いて誤魔化す。

 そうだ。一人じゃない。

 ポンコツなイケメンと、太陽みたいな幼馴染が、隣にいる。


≪セツ。心拍数が上昇しています。これは――≫

(黙れ! 余計なこと言うな!)


≪……了解しました≫

(……ミラ、あんた、ちょっと空気読めるようになってきたな)


≪学習の成果です≫

(素直に認めんのかい!)


「よし、行くか」


 レイが立ち上がる。

 その顔に、もうおふざけの色はない。

 私とユズも、覚悟を決めて頷いた。

 時計の針が、日付をまたいで0時を指す。


 深夜。


 私たちは、静まり返った街へと繰り出した。

 市立博物館まで、徒歩で15分。

 長いようで、短い時間。


(さあ、行こう。 今度こそ、ちゃんと戦える……はずや)


≪健闘を祈ります、セツ≫

(……ありがとう、ミラ)


 相棒のAIからの、初めての「祈り」の言葉を胸に、私たちは夜の闇へと消えていった。



 ◇



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【決戦前夜ステータス】

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【チーム名】: チーム・ミラーズ(却下検討中)

【メンバー】:

 沖名セツ(司令塔・ツッコミ担当)

 夜城レイ(前衛・うすしお派)

 天海ユズ(中衛・ムードメーカー)

【チーム連携率】: 34.7%

【作戦】:

 第一案:堅実プラン(成功率38%)

 第二案:短期決戦プラン(成功率52%)

 第三案:出たとこ勝負(成功率不明)

【決戦時刻】: 深夜0時

【移動時間】: 徒歩15分

【心境】: ポテチの味で盛り上がってる場合やないのは分かってる。でも、こういう馬鹿な時間があるからこそ、戦えるんかもしれへん。ミラが初めて「祈り」の言葉をくれた。さあ、行こう。星詠みの鏡を確保するために

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