4-3:組織のカタブツ上司、だいたい話が通じない説
「あなた達が、夜城レイと観測者ですね」
茂みから現れたのは、黒い詰襟の制服に身を包んだ、五人の男女だった。
逆光で表情はよく見えないが、冷たい空気を纏っている。
そして、その胸元には、レイのものと同じ鏡守の紋章が、鈍く光っていた。間違いなく『鏡守』の隊員たちのようだ。
(完全に敵対組織のエンカウント演出やん! ゲームならBGMが不穏なやつに変わってるわ!)
肌を刺すような緊張感。まるで、オープンワールドのゲームでフィールドを歩いていたら、いきなり警告なしでムービーが始まって、フィールドボス戦に巻き込まれた気分だ。
(これ、セーブポイント通過してへんのに強制イベントバトル始まるやつや!)
≪補足。敵対者の脅威レベルを測定中――≫
(今、それどころやないねん!)
中心に立つ、ひときわ体格のいい中年男が、一歩前に出た。
彼の視線はレイを通り越し、真っ直ぐに私を射抜いている。その瞳には、鋼のような意志が宿っているように見えた。
私は思わず『情報視』を発動させた。
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【解析結果:陣内】
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【名前】: 陣内
【役職】: 鏡守第一部隊隊長
【戦闘能力】: S-
【性格】: 規則至上主義者
【信念】: 疑似生命体は排除すべき敵
【弱点】: ??? ★解析不能
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(弱点が見えへん!? これ、完全に格上の敵やん! ゲームで言うたら、レベル10でレベル50のボスに挑むようなもんや!)
「私は、鏡守第一部隊隊長の陣内だ。夜城レイ、貴様を組織への背信行為及び、危険指定疑似生命体『ミラ』との許可なき接触容疑で拘束する」
(うわ、出た。話の通じない、規則絶対遵守マンみたいなカタブツのオッサン!)
(学校の風紀委員にもおったわ、こういう融通の利かへん人! 『色のついたリップ禁止!』『スカート丈が短すぎる!』しか言わへんAIスピーカーみたいなやつ!)
(絶対、自分の正義を疑わないタイプの厄介な敵やん!)
レイは剣を構え直し、私たちをかばうように一歩前に出る。
彼の銀髪が、夕日にきらめいた。
「お待ちください、陣内隊長。彼女たちは我々の敵ではありません。暴走する疑似生命体自身を救うため、協力してもらっているんです」
「問答無用!」
陣内は、レイの言葉を鼻で笑った。
「疑似生命体は、管理し、必要とあらば速やかに排除する。それが我々の正義だ。貴様も、亡き龍崎教授の『共存』などという甘い思想に毒されたか」
(龍崎教授……? どっかで……)
≪検索。鏡守内のデータベースにアクセス。龍崎教授……元幹部。10年前に組織を離反。現在、消息不明。かつては共存派の筆頭だった人物のようです≫
(元幹部!? なんか話がどんどんややこしくなってきたで! にしても、きのこ派とたけのこ派ぐらい、わかり合えないんちゃう?)
≪興味深いことに、龍崎教授は、セツの祖父――≫
(後で! 詳しい説明は後で! 今は目の前の危機が優先や!)
陣内の鋭い眼光が再び私を捉える。
まるで、虫けらでも見るかのような、冷酷な眼差しだ。
「おとなしく、その観測者を引き渡せ。それに、その能力者も危険因子。我々が管理してやる」
「断る!」
レイは、即座に答えた。
「俺は、俺の信じる正義を貫く。そして、彼女たちを守る!」
レイが銀の剣を再び構え直す。
キン、と硬質な音が響き、夕暮れの光を受けて刃が鈍く光る。
それを合図とするかのように、陣内の背後に控えていた部下たちが、一斉に私たちに襲いかかってきた。
「ユズ、下がろう!」
私はユズの腕を掴んで、レイの背後に一緒に身を隠すように促す。
レイは、部下二人の攻撃を相手にしながらも、互角以上に渡り合っていた。
流れるような剣捌きと、鍛え上げられた体術。彼の剣は対人戦にその神髄があるようだ。まさに達人という動きだ。
(さすが、脅威レベルA+は伊達やない! 動きが業務用のハイスペックPCくらい滑らかやん!)
だが、残りの三人は、じわじわと私とユズを包囲し始めている。
(やばい、完全に囲まれる! これ、狼の群れに囲まれた子羊の状況やん!)
≪補足。包囲完了まで、あと15秒≫
(カウントダウンすな! 余計焦るやろ!)
だが、相手は多勢に無勢。
そして、何より――
「甘いな、夜城レイ!」
陣内の実力は、明らかにレベルが違った。
ゴォッ!
陣内が持つ、身の丈ほどもある巨大なバトルアックスがレイの剣を叩き伏せる。
ガキィン!
火花が散る。レイの剣に、小さなヒビが入った。
「武器が……!」
≪警告。夜城レイの剣の耐久度:残り32%≫
(武器が壊れたら終わりや! あと何発耐えられる!?)
≪計算上、あと2〜3回の直撃で破損します≫
(絶望的すぎるやろ!)
「くっ……! この馬鹿力め……!」
(パワー系の武器て! ゲームの序盤でエンカウントしたらアカンやつやん!)
≪解析完了。陣内の戦闘能力は【S-】と判定。夜城レイとの戦力差は――≫
(聞きとうない! 絶望的な数字見せんといてくれ!)
「ユズ、手伝えないの!?」
私が叫ぶと、ユズは悔しそうに顔を歪め、首を横に振った。
「だめ! 動きが速すぎて狙えない! レイくんまで巻き込んじゃう!」
ユズの声が震えている。
私は、彼女の横顔を見た。唇を噛みしめ、拳を握りしめて、涙をこらえている。
(ユズ……お姉ちゃんを助けるために、力が欲しいって言うとったのに……今、何もできへん自分が悔しいんやな……)
≪天海ユズの心拍数が上昇。強い感情の高ぶりを検知≫
(ミラ、それ言わんでええねん……)
(このままじゃ、レイがやられる……!)
私は『情報視』でレイの状態を確認する。
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【戦闘状況:夜城レイ】
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【HP】: 62%(黄色ゲージ) ★WARNING
【スタミナ】: 48%(消耗中)
【武器耐久度】: 32%(破損寸前)
【戦力差】: 劣勢
【勝率】: 23%
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(やばい、HPゲージがもう黄色や! このまま行ったら赤に点滅するやつやん!)
私の脳裏に、『GAME OVER』の文字が浮かんだ。
(どうする……! 私に、何ができる!?)
選択肢が、頭の中に浮かぶ。
A:逃げる(生存率:78%)
B:戦う(生存率:12%)
C:???
(逃げたら助かる……。でも、レイを見捨てることになる……)
(戦っても、勝てへん……。でも……)
ユズの震える手が、私の袖を掴んだ。
「セツちゃん……私、どうしたらいいの……?」
(……ああ、もう! 知るか! ゲームみたいに正解の選択肢なんて、最初からないんや!)
(なら、私が信じる道を行くしかないやろ!)
その時――
私の手が、無意識に前に伸びていた。
≪警告! 契約者セツの意識が――≫
視界が、一瞬だけ、真っ白に染まった。
そして、私の口から、自分でも驚くような言葉が飛び出した。
「――【反射盾】、展開!」
次の瞬間、陣内のバトルアックスが、空中で――
カァァァンッ!
金属音が、広場中に響き渡った。




