4-2:戦闘訓練、なぜかリアクション芸の練習になる説(前編)
市立博物館への潜入。しかも、レイの脳筋作戦案によれば「力ずく」。
成功するビジョンが1ミリも見えない。あまりにも無謀な計画に、私とユズは当然ながら猛反発した。
「だめだめ! 『力ずく』とか、脳みそまで筋肉でできてるタイプの主人公が言うセリフでしょ!」
「そうだよレイくん! そんなことしたら、私たちただの強盗犯じゃん! 明日にはニュースで『イケメン高校生ら、博物館で大立ち回り。容疑は建造物侵入及び器物損壊』とか報道されちゃうよ!」
しかし、レイは至って真剣だった。
「無論、正面から突入するわけじゃない。夜間、警備が手薄になったタイミングで潜入し、『星詠みの鏡』を回収する。「警備システムは事前に停止させ、監視カメラも一時的に無効化する」
「だが、そこで黒鏡や敵視派と遭遇してしまった場合、戦闘が避けられない可能性がある。その場合に備えて、我々三人の連携訓練が不可欠だ」
彼の言葉には妙な説得力があり、私たちを犯罪者にはさせないという言葉を信じさせられた。
ほかに良い案も浮かばず、私もユズもその無謀な作戦に乗るしかなかった。
レイが、ふと、ポケットから小さな手鏡を取り出した。彼がいつも使っている剣を出すためのものではなく、もっとシンプルで、装飾のないものだ。
「あと、セツにはこれを」
「……手鏡? あんた、私にまで剣装備しろって言うんか?」
「違う。それは、ミラとの接続を安定させるための中継器だ。君の部屋にある本体の鏡から離れていても、それがあれば、ミラのサポートを最大限に引き出せる」
レイの言葉を肯定するように、ミラの声が頭に響く。
《契約者セツの外部活動における、接続安定性の向上が期待されます。ポータブル・インターフェースとして、常時携帯を推奨します》
(なるほど。つまり、携帯ミラになるわけやね。めっちゃ便利やん!)
私は、その小さな手鏡を受け取った。ひんやりとしたガラスの感触が、なんだか、これから始まる戦いの重みのように感じられた。
◇
翌日の放課後。
私たちは先日カッパ(業務用)と戦った因縁の公園、そのさらに奥にある、近所の小学生すら寄り付かない薄暗い広場に来ていた。
レイ曰く、「実戦形式のチュートリアルのスタート」である。
「いいか。俺が前衛で敵のヘイトを集める回避盾兼アタッカーだ」
「ユズは中距離から氷結系の魔法で敵の妨害や攻撃を行うサブアタッカー兼サポーター」
「そしてセツが、後方から『情報視』で弱点を正確に把握し、守備に徹しながら指示する司令塔役」
「これが基本陣形だ。 まずはそれぞれの役割を完璧にマスターする」
(めっちゃ流暢にゲーム用語使うやん! 普段とのギャップがすごいな。意外とゲームオタクなのかな? 知らんけど)
≪対象『夜城レイ』の個人情報を再スキャン。 好きなゲームジャンルはMMORPG及び、SRPG。 好きなアニメは『銀河英○伝説』。 司令塔という言葉を好む理由と判明しました≫
(いらない情報までありがとう、ミラ! ていうか、プライバシー侵害の度が過ぎるわ!)
(しかし、実名でオンラインゲームするなんて、個人データがダダ漏れでいいのか、このイケメン!)
訓練が始まった。 レイの剣技は鋭く、ユズの氷結魔法も見事なコントロールだ。
問題は、私だった。
「いいぞ! セツ、次はお前の番だ。 俺が今から本気で斬りかかる。 それを何とかして防いでみろ!」
「えっ? ちょ、本気で!?」
突然の無茶ぶりに、私は素っ頓狂な声を上げた。
「観測者としての力をここで成長させてみろ」
「成長させろって言われても! 私、まだ自分の能力のこと、全然わからない!」
そう。『情報視』ですら、Lv.2への進化もできていない。
私は『情報視』を発動させ、自分の身を守る方法を必死に探った。
(イメージ検索……『守る』『防御』『絶対防御』……!)
脳内に、ありとあらゆる「守り」のイメージが浮かんでくる。
鉄壁の城門、重装騎士の大盾、亀の甲羅、果ては……なぜか、昭和のコントで使われる金ダライまで。
(なんでタライが出てくるねん! 私の防御イメージ、貧弱すぎるやろ! 防御力、磯辺焼きの海苔くらいしかないやん!)
レイが目の前まで迫り、銀の剣が訓練とは思えない鋭さで私に向かって振り下ろされる。
一瞬がスローモーションのように感じ始めた。
(これ、走馬灯を見るとこやろ!)
(硬くて、透明で、絶対に剣に壊されない守るヤツ出てきて! って、そんなチート能力、私にあるわけ……!)
≪警告。契約者:沖名セツの生命の危機を予測。防衛意志力の強化を検知。スキル『反射盾』の限定的アクティベートを実行します≫
ミラの声が、システムアラートのように頭に響く。
私が混乱している間に、剣の切っ先が、私に届く寸前で――
カーン!
乾いた金属音を立てて、銀の剣が不可視の何かに弾かれた。
弾かれた剣は、振り下ろされた剣筋をたどるように反射され、彼の耳元を掠めていく。
「おおっ!」
「すごい、セっちゃん!」
ユズが目を輝かせるが、やった本人が一番わかっていない。
「え、えっと……私もよくわからんけど……見えない壁、みたいなのが……?」
(今の音、絶対タライの音やったやん……)
≪補足。 セツの防御イメージが『金属製のタライ』で固定されているため、反射盾の音響特性がそれに準じています≫
(ちゃうねん! 私が悪いんちゃう! とっさに出てきたんがタライやっただけや! せめて、騎士の盾とか、もっとカッコいいイメージなかったんか!)
≪それは契約者の深層心理を反映した結果です。 変更は困難と思われます≫
(一生、タライで戦わなアカンのか! 恥ずかしすぎるやろ!)




