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どんなシリアスな展開も、心の中でツッコミ入れれば大体なんとかなる説  作者: 東影カドナ
第3章:昨日の敵は今日の味方、展開早すぎる説

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4-1:方向音痴の「近道」、遭難フラグでしかない説(前編)


「で、これからどうすんのよ」


 翌日の昼休み。

 

 昨日、ユズの姉であるシズクさんが暴走疑似生命体『ユキオンナ』と化し、謎のゴスロリ少女クロエに連れ去られた、あの忌まわしき屋上。

  コンクリートの床には、まだうっすらと霜が溶けた跡が残っている。

 そんな生々しい現場で、私はフェンスに寄りかかりながら、目の前の二人に向かって切り出した。

 

 メンバーは、私こと沖名セツ。

 銀髪のイケメンで秘密組織『鏡守』共存派のメンバー、だけど致命的な方向音痴の夜城レイ。

 そして、私の幼馴染で、実は雪女の血を引く半妖だったことが発覚した、太陽みたいな陽キャの天海ユズ。


 昨日、場の勢いで結成された『チーム・ミラーズ』――命名はミラ、絶賛却下検討中――の、記念すべき第一回作戦会議である。

 

 議題はもちろん、シズク姉さん奪還について。


(チーム名、ダサすぎるやろ……。もうちょいマシな名前なかったんか、ミラ。センスが昭和のヒーロー戦隊やぞ)

≪統計的に、チーム名の印象と成功率に相関関係はありません。名称の良し悪しは主観的判断に過ぎず――≫


(それをロジハラっちゅうねん! 黙ってろちゅーの!)

≪理解不能です。論理的な説明がロジカルハラスメントに該当する理由を、データに基づいて――≫


(あんたなぁ、優秀なAIなら空気読む機能、必須やで!)


 そんな私とミラの不毛な脳内バトルをよそに、レイがまるでデキるリーダーみたいに、真剣な表情で口を開いた。


「まずは三人の情報共有と、今後の具体的な作戦会議が必要だな。 ここは人目につきすぎる。 放課後、どこか落ち着ける場所に移動しよう」


 その提案に、私とユズは頷く。

 姉を連れ去られたユズは、昨日あれだけ泣きじゃくっていたのが嘘のように、今は強い決意を瞳に宿していた。

 落ち込んではいるだろうが、それ以上に「自分がやらなければ」という責任感が勝っているようだ。


「駅前のファミレスでよくない? ドリンクバーあるし、ポテトフライもあるし!」


 ユズが努めて快活に言うと、レイは「わかった」と、またしても完璧な営業スマイルで頷いた。

 その笑顔に、近くで弁当を食べていた女子グループが「キャッ」と小さな悲鳴を上げている。


(顔面偏差値の暴力や、ほんま……。その笑顔一つで、女子の致死率、軽く3割は超えとるで)


 そして、レイは胸を張って、自信満々に微笑み、決定的な一言を放った。


「俺が案内しよう。この学校から駅までなら、よく知っている近道がある」


(……近道、ですって?)


 自信満々に微笑むイケメンの顔と、私のスキル『情報視』が今もくっきりと映し出している【特記事項:重度の方向音痴(レベルMAX)】という絶望的な文字列が、脳内で激しく衝突事故を起こす。


(だめ! それ、絶対だめなやつ!)

(『よく知っている』は死亡フラグ! 方向音痴の『近道』は、だいたい異世界か遭難現場に繋がってるんやで!)


 一抹の、いや、九割九分の不安が、私の脳裏を嵐のように駆け巡った。



 ◇



 そして、その不安は、一時間後に寸分の狂いもなく、完璧な形で現実のものとなった。


「……遅いね、レイくん」


 私とユズは、駅前のファミレスのボックス席で、すでにドリンクバーを二往復していた。

 約束の時間から、とっくに30分は過ぎている。


 「セっちゃん、レイくんに連絡してみたら? もしかして、また女子に捕まってるとか?」


「そうだね……。あの人、ファンサには手を抜かないしね」


 私はスマホを取り出し、昨日交換したばかりの連絡先に電話をかける。

 数回のコールの後、彼が出た。


『もしもし、セツか』

「もしもし、じゃないわよ! ていうか、あんた今どこにいるの! まさかとは思うけど、迷子じゃないでしょうね!?」

『いや、それが……少し道が混んでいてな。地図アプリによれば、もうすぐのはずなんだが』


 電話の向こうから、車の走行音や街の喧騒ではない、何か別の音が聞こえてくる。

 ザアァァ……という木を揺らす風の音と、やけにクリアで、のどかな鳥のさえずり。ピチチチ、みたいな。


「……ねえ、レイくんその鳥の声、すごくリアルだね」

『そうだろう? この辺りは自然が豊かで……ん? 今、目の前に『熊出没注意』の看板が……』

「あんた、まさか、山の中にいない?」

『…………なぜ、わかった?』


(やっぱりかー! この超弩級のポンコツがァァァ!)


 私は、テーブルに突っ伏した。

 近道を知っている、案内するとまで豪語した男が、なぜか駅前とは真逆の方向にある、市民の森ハイキングコースの入り口で遭難しかけている。


(あんたの方向感覚、金魚すくいのポイくらい頼りないわ! いや、オカンのダイエット宣言くらい信用できへん!)


 結局、私が電話でリアルタイムナビゲーションを行い、「右手の木じゃなくて! アスファルトの道の方!」「その看板は農家の人が立てただけだから、ランドマークにしないで!」「川を渡るな!」などと絶叫に近い指示を飛ばし続け、さらに30分後。

 レイは、泥だらけの靴と、心なしか憔悴しきった顔でファミレスに現れた。


「すまない……」

「ほんと、方向音痴にもほどがあるから! 開発途中でサービス終了した上に、サーバーも爆発してるでしょ!」

「うぅ……面目ない……」


 完璧超人然としていた彼は、見る影もない。

 今はただの、しょんぼりした大型犬だ。


「まぁまぁ、無事着いたんだからいいじゃん! ね、レイくん、メニュー決めた? ここのチョコパフェ、すっごく美味しいんだよ!」


 ユズが、太陽のような明るさで笑い飛ばしてくれる。

 その優しさが、今はレイには沁みているようだ。


 このチーム、意外とバランスが取れているのかもしれない。

 レイがコーヒーを注文して、ようやく私たちの第一回作戦会議は本格的に幕を開けた。


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