3-5:少年漫画、とりあえずチーム結成しがち説(前編)
屋上には、気まずい静寂だけが残された。
急速に熱を取り戻していくコンクリート。何事もなかったかのように流れ始めた夕暮れの風。
それがかえって、さっきまでの出来事が悪夢ではなかったと、私たちに突きつけているようだった。
「……お姉ちゃん……うぅ……」
ユズが、その場に泣き崩れた。。
その場にへなへなと座り込み、子供のように声を上げて泣きじゃくる。
ガンッ!
レイは何も言えず、ただ悔しそうに近くのフェンスを力任せに殴りつけた。
そして、私は――何も言葉が見つからなかった。
(これが……本当の戦い……)
カッパの時とはわけが違う。遊びじゃない。
頼みの『情報視』ですら、役に立たなかった。
『黒鏡』と名乗った、クロエ。
彼女の目的は何なのか。姉を連れ去ってどうするのか。
何もわからない。
圧倒的な力の差。
(無力すぎる……)
何もできなかった。ただ、見ていることしか。
夕日が、やけに目に沁みた。
◇
結局、その日は何も解決しないまま、解散することになった。
泣きじゃくるユズを家まで送り届け、私は重い足取りで自分の家に帰る。
「……ただいま」
誰もいない家に、私の声が虚しく響く。
部屋に入ると、鏡の中から、ミラが静かに姿を現した。
≪セツ。落ち込む必要はありません。今回の敗北は、戦力差を考えれば当然の結果です≫
「そういう問題じゃない……!」
私は、ミラに八つ当たりするように叫んだ。
今まで堪えていた感情が爆発した。
「友達が、目の前で泣いてるんだよ! 姉を連れ去られて、絶望してるんだよ! それなのに、私は何もできなかった! こんな力、何の意味があるの!?」
≪……≫
ミラは何も言わない。
ただ、光の人型が、わずかに揺らめいたように見えた。
「クソがっ……!」
私はカバンを床に叩きつけ、私はベッドに突っ伏した。
悔しくて、情けなくて、涙が溢れてきた。
(なんで……なんで、能力もらったのに、こんなに弱いんや……)
枕に顔を押し付けて、声を殺して泣いた。
友達を守れなかった。何もできなかった。
その夜は、結局ろくに眠れなかった。
◇
次の日。
学校に行くと、ユズは休んでいた。
太陽を失った教室の教室の雰囲気も、どことなく重い。
自席に座るレイの横顔も、どこか思い詰めているように見えた。
放課後。
私は、ユズの家に向かっていた。
チャイムを鳴らすと、やつれた顔をしたユズのお母さんが出てきて、私を部屋に通してくれた。
ユズの部屋のドアを、そっとノックする。
「……ユズ? 私、セツ」
「……」
返事はない。
私は構わず、ドアを開けた。
カーテンが閉め切られた薄暗い部屋。
ベッドの上で、ユズは布団を頭までかぶってうずくまっていた。
「……帰って。今は、誰とも話したくない」
「……そうか。わかった」
私はあっさりと引き下がり、部屋を出ようとドアに手をかける。
「……なんで、帰るのよ」
布団の中から、くぐもった声が聞こえた。
「普通、こういう時って、『そんなこと言わないで!』とか言って、無理やり話を聞こうとするもんじゃないの……?」
「そういうお節介、嫌いやろ、あんた」
私が振り返って言うと、ユズはもぞもぞと布団から顔を出した。
目は、泣きはらして真っ赤だ。
「……うん、嫌い」
「でしょ? だから、帰る。……けど、これだけは言うとく」
私は、ユズの目をまっすぐ見て言った。
「あんたが泣いてるの、腹立つわ」
「……は?」
「親友が泣いてるのに、何もできなかった自分が、めちゃくちゃ腹立つ。だから、絶対に許さへん。あんたを泣かせた『黒鏡』とかいう奴らも、何もできんかった私自身も」
「セっちゃん……」
「だから、今は泣いとけ。でも、いつまでもメソメソしない。絶対に、お姉ちゃん、取り返すんやろ」
「……どうやって? 私たち、あの女に全然敵わなかったじゃん……」
「知らん。けど、方法は絶対にあるはず」
私の言葉に、ユズの瞳から、また大粒の涙が零れ落ちた。
でも、それは昨日見た絶望の涙とは、少しだけ色が違うように見えた。
「……バカだね、セっちゃん」
「なんやと!?」
「バカで、無茶苦茶で……でも、ありがと」
ユズが、泣きながら、でも少しだけ笑った。
◇
ユズの家を出た後、私は、ミラに頼んでレイを探した。
彼なら、きっと一人で無茶なことをしようとしている。
そんな予感がしたからだ。
案の定、レイは公園の奥にある広場で、一人、木の枝を相手に剣の素振りを繰り返していた。
ビュッ! ビュッ!
その剣筋は鋭く、速い。
だが、焦りが見える。悔しさを、ただ力に変えようとしているだけの、空虚な剣。
「……一人で強くなっても、昨日の奴には勝てへんで」
私が声をかけると、レイは動きを止め、ハッとしたようにこちらを振り返った。
「セツ……」
「ユズ、泣いてたわ。あんた、このまま一人で突っ込むつもりやったんちゃうやろな」
「……俺が、もっと強ければ、あんな奴らに……!」
「無理やって。あんたの剣は速い。けど、昨日の女の能力は、そういう次元ちゃうやろ。影を操って、空間を歪める。あんなん、一人でどうにかできる相手やない」
私の冷静な分析に、レイはぐっと言葉に詰まる。
「矛だけあっても、盾がなきゃやられる。盾だけあっても、敵は倒せん。そして、どっちを狙えばいいか教える『眼』がなきゃ、そもそも戦いにならん」
「矛と、盾と、眼……?」
「そ。あんたが『矛』。ユズが『盾』。そして、私が『眼』になる」
私は、レイに手を差し伸べた。
「……俺は、君を守れなかった」
「守られるだけのヒロインなんか、嫌いやねん。一緒に戦おうや」
レイが、初めて本当の笑顔を見せた。
「……ああ。頼りにしてる、セツ」
(うわ、イケメンの笑顔、反則や……! いや、今そういうの考えてる場合ちゃう!)
「行こ。うちらの盾、泣き止んだ頃やろから」
長くなったので分割しました!




