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どんなシリアスな展開も、心の中でツッコミ入れれば大体なんとかなる説  作者: 東影カドナ
第3章:昨日の敵は今日の味方、展開早すぎる説

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3-4:敵組織、初登場で絶望感出してきがち説


「お姉ちゃん! もうやめて! お願いだから、目を覚まして!」


 ユズの悲痛な叫びが、凍てついた屋上に響き渡る。

 その声に反応したかのように、給水塔の上のユキオンナ――シズクの赤い瞳が、一瞬だけ、ふっと揺らいだ。

 憎悪と狂気に満ちた光が薄れ、そこに宿ったのは、妹を見つめる姉の、優しく、懐かしむような色だった。


「……ユ、ズ……?」


 か細い、でも確かに人間の声。

 その一言に、ユズの顔が希望に輝く。


「お姉ちゃん! わかるの!? 私だよ、ユズだよ!」


 シズクの瞳が、ほんの一瞬だけ、優しい色を取り戻す。


「……ごめん、ね……逃げ、て……」


 妹を守ろうとする、姉としての最後の意志。


(……ああ、この人、まだ意識が残っとる。完全に暴走してへんのや!)


 だが、その希望は一瞬で打ち砕かれた。

 シズクは再び頭を激しく振り、苦悶の表情で絶叫する。


「アアアァァァッ! ガ、ァア……!」


 再び瞳に宿るのは、先ほどよりもさらに濃い、敵意と破壊衝動の赤い光。

 彼女の体から放たれる冷気のオーラが、禍々しさを増していく。


「くそっ、ダメだ! 完全に暴走している! もう誰の声も届かない!」


 レイが忌々しげに吐き捨て、銀の剣を構え直す。

 その目は、もはや感傷を排した「鏡守」としての冷徹な光を宿していた。暴走した疑似生命体を"処理"する、ただそれだけの覚悟の瞳だ。


「待って! レイくん、ダメ!」


 ユズがレイの前に立ちはだかる。


「あれは、私のお姉ちゃんなの! 天海シズク! 一週間前から行方不明で……お願い、殺さないで!」

「無理だ! あれはもう君の姉さんじゃない! 危険な暴走体だ! 任務として、ここで無力化する!」

「嫌だ! 絶対にどかない! お姉ちゃんを傷つけるなら、レイくんだって容赦しない!」


 ユズの体から青白いオーラが立ち上り、帯電するかのように激しく火花を散らす。


バチバチバチッ!


(やばい、本気で戦う気や! このままやと、お互い傷つけ合ってまう!)


≪警告。二人の緊張が高まっています。戦闘に発展すれば、周囲への被害は甚大です≫


(被害とか言うとる場合か! 止めな、二人とも死ぬで!)

(ていうか、この状況、どうしたらええねん!)


 私が二人の間に割って入ろうとした、まさにその時だった。


「――フフフ、面白い茶番ですわね」


 場違いなほど優雅で、底意地の悪い女の声が、どこからともなく屋上全体に響き渡った。

 その声が響いた瞬間、屋上全体の温度が急激に下がった。

 いや、違う。これは寒さじゃない。

 まるで、この空間全体が、何か巨大な「悪意」に支配されたような……。


(なんや、この感じ……息が、詰まる……)


≪警告! 空間に異常なエネルギーの歪みを検知! 未知の強力な個体が接近中!≫


「誰だ!?」


 レイが鋭く周囲を警戒する。

 私もユズも、声の主を探して視線を彷徨わせる。

 

 声は、誰もいないはずの空から聞こえてくる。


「貴重なサンプルに、あなたたちのような雑魚がちょっかいを出していると聞いて来てみれば……まさか、妹まで現れるなんて。これは僥倖ぎょうこうですわ」


 声と同時に、シズクの背後の空間が、水面のようにぐにゃりと歪む。

 そして、その歪みの中心から黒い霧が噴き出し、ゴシックロリータ風のドレスに身を包んだ、黒髪の少女がゆっくりと姿を現した。


(なんや、あれ!? 空間転移!? 完全にファンタジーの世界やん!)


≪警告! 未知の強力な個体を検知! 脅威レベル、SS! レイの所属する『鏡守』とは異なるエネルギーパターンを確認! 第三勢力です!≫

(SSて! インフレが激しいんじゃね、この世界! ゲームバランス崩壊しとるやん!)


「おまえたちは、黒鏡ダークミラー……!」


 レイの口から、吐き捨てるように組織名が飛び出した。


(黒鏡!? なんやそれ、初耳やで! レイ、情報共有してへんかったやん!)


≪セツ、敵対組織です。目的は不明ですが、彼らもまた、疑似生命体と契約者を狙っています。非常に危険です≫

(今さら説明されても! もっと早く言うてや!)


 黒いドレスの少女は、私たちの驚愕を気にも留めず、クスクスと笑いながら、優雅に一礼した。


「ご挨拶が遅れましたわね。わたくしの名は、クロエ。黒鏡ダークミラーにおいて、ちょっとしたお仕事を担っております」


 まるで舞台の上で演技をしているかのような、芝居がかった仕草。


(こいつ、完全にナルシストやん! 悪役って、なんでこう自己紹介したがるんやろ……。てか、ちょっとしたお仕事て、絶対危ない仕事やろ!)


 クロエは、シズクの肩にそっと手を置いた。


「さあ、帰りましょう、シズク。あなたには、私たちの『理想』のために、その素晴らしい力を捧げてもらうのですから」

「ふざけるな!」


 レイが地を蹴った。

 彼の動きは、カッパと戦った時とは比べ物にならないほど速い。

 だが、クロエは余裕の笑みを崩さない。


「おだまりなさい、鏡守の番犬」


パチン!


 クロエが指を鳴らした瞬間、彼女の影が意思を持ったかのように膨れ上がる。

 黒い触手のように伸びた影が、レイの足首、腕、首に絡みつき、まるで蛇のように締め上げていく。


「ぐっ……がはっ……!」


 レイが苦しげに呻く。


(おほ、イケメンの触手プレイ! ボケてる場合ちゃうわ! あれ、完全に殺しにきとるやん!)


「今日は、ほどほどにしておきますわ。この場で死なれては後始末が面倒ですもの」


 クロエは笑いながら、レイを地面に叩きつけた。


ドサッ!


(影を自由自在に操ってる!?  そんなん、能力のチート度合いがおかしいやろ!  完全にラスボス級やん!)


「レイくん!」


 私が叫んでも、返答がない!


「待ちなさい!」


 ユズが叫び、両手から鋭い氷の矢を何本も放つ。

 しかし、その矢はクロエに届く前に、彼女の周りに現れた黒い鏡のような空間に吸い込まれ、跡形もなく消えてしまった。


「おやめなさい。あなた程度の力では、わたくしには傷一つ付けられませんわ」


 クロエは、初めて私たちの方に、値踏みするような視線を向けた。

 そして、その視線が、私の上でピタリと止まる。


「ほう……。あれが噂の『観測者』。なかなか興味深い力を秘めているようですわね」


 クロエの視線が私を貫く。

 まるで、X線写真のように、私の体の中身を全て見透かされているような感覚。


(やばい、この人、私の能力、完全に見抜いとる……!)


 背筋が凍るような感覚。

 私の能力の本質を、一目で見抜かれた。

 私は咄嗟に【情報視】を発動するが、脳内に表示されたのは絶望的な情報だけだった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【対象情報:解析失敗】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【名前】:クロエ

【所属】:黒鏡ダークミラー

【脅威レベル】:測定不能(ERROR)

【能力】:解析不能(ERROR)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(うそやろ……ほとんど解析できひんのかい! ERRORって、完全にバグやん! この子、スペック高すぎてシステムが対応でけへんレベルやで!)


「その瞳、美しいですわ。いずれ、その力、我々のために使っていただきましょう」


 クロエがにっこりと微笑む。

 だが、その笑顔には一片の温かみもない。

 まるで、標本を眺める研究者のような、冷たい興味だけがそこにあった。


(これ、完全にマークされたやん! 次に狙われるフラグやん!)


「その力、いずれ我々が、有効に活用してさしあげます。今は、このサンプルを回収させていただきますわ」


 クロエはそう言うと、シズクを伴って、再び出現した黒い霧の中へと後ずさる。


「お姉ちゃん! 行かないで!」


 ユズの悲痛な叫びも虚しく、二人の姿は完全に霧の中へと消え去った。

 レイを縛っていた影も霧散し、後に残されたのは、急速に元に戻っていく気温と、呆然と立ち尽くす私たち三人だけだった。


「……なんやの、今の……」


 私の呟きは、誰の耳にも届かない。

 ユズは、その場にへなへなと座り込み、声を殺して泣き始めた。

 レイは、何もできなかった自分への怒りからか、フェンスを力任せに殴りつけている。


 敵か味方かわからん協力者。

 実は超人スペック持ちの幼馴染。

 その姉が、敵として現れ、さらに謎の敵対組織に連れ去られる。

 私の高校生活、どうやら少女漫画どころか、ハリウッド超大作並みのカオスな展開になってきたらしい。


(洋画ならプリ○ィ・ウーマンが良かったわ! 映画それしか見んヤツおるしな! こんなん、バイオハ○ードとかア○ンジャーズの世界やん!)


(どうしたらええねん、こんなん……)


≪セツ、冷静になる必要が認められます。大きく伸びて深呼吸を推奨します≫


(冷静になれるかっ! 状況がめちゃくちゃすぎるやろ!)


 私は、ただただ、空っぽになった給水塔の上を見つめることしかできなかった。


≪セツ、一つ重要な情報が確認されました≫

(……なに? まだ何かあるん?)


≪クロエが去り際に残したエネルギーパターンを解析したところ、彼女の力の一部は、我々『ルナリアン』の技術と酷似しています。つまり――≫

(つまり、何?)


≪黒鏡は、ルナリアンの技術を手に入れている可能性が99%と算定できます。現在、私たちがアクセスできない技術であるため、それは、封印された『禁忌の技術』であることが否定できません≫


 私の背筋に、冷たいものが走った。


(……最悪や。敵、めちゃくちゃ強いやん)

芸人のくまだまさしさん、『プリティ・ウー○ン』を2023年時点で6700回も視聴したとか。

もはや修行の域では!?)

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