3-2:陽キャな幼馴染、だいたい暴走しがち説(後編)
(【情報視】!)
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【対象情報:解析失敗】
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【警告】:情報の一部がブロックされています
【名前】:天海ユズ(あまみ ゆず)
【種族】:Human...?
【ステータス】:Unknown
【解析可能な情報】
・身体能力:A+
・潜在魔力:S
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私の視界に、ユズのデータが流れ込んでくる。
(……は?)
背筋が、ゾッと凍りついた。
なんだ、このステータス。
身体能力A+? そんじょそこらのアスリートでもお目にかかれないランクだ。
そして、潜在魔力S……? 戦闘能力ならレイですらAだったというのに。
極め付けは、『種族:Human...?』。
はてなマークが、そこにはっきりと表示されていた。
(ミラ、これってどういうこと?)
≪データ不足により、解析不能。対象は、既知のいかなるデータベースにも合致しません。ただし、この情報パターンは、以前観測した『暴走疑似生命体』のそれに、一部類似しています≫
(類似……って、まさか……)
私の思考は、最悪の可能性に行き着き、そこで強制的に中断させられた。
◇
体育の授業が終わり、昼休み。
私はミラからの衝撃的なレポート内容を引きずったまま、教室で焼きそばパン(ミラの非推奨勧告はガン無視した)を頬張っていた。
あの後、ユズにそれとなく探りを入れてみたが、「昔から体力だけはあるんだよねー」と笑って流されるだけ。本人は全くの無自覚のようだった。
(だとしたら、余計に厄介や……)
私が考え込んでいると、教室の扉が勢いよく開き、張本人が突撃してきた。
「セっちゃん! 探したんだよー!」
ユズは、またしても太陽みたいな笑顔で、一直線に私の席にやってくる。
そして、当たり前のように私の前の席に腰掛けた。
「てかさー、最近、あの夜城レイと仲良しの女子がセっちゃんだって噂になってるよ。この前も一緒に帰ってたって、ミカが言ってたし! どうなの、どうなの?」
「いや、別にそういうんじゃ……」
私が言葉を濁していると、すぐ隣の席から、まるで計ったようなタイミングで、爽やか声が割って入った。
「ああ。俺が道に迷っていたところを、セツに助けてもらったんだ」
いつの間にか、そこにはレイが立っていた。
彼はユズに向かって、完璧なまでの営業スマイルを向ける。
「ひゃっ!? や、夜城くぅん!?」
ユズの顔が、見る見るうちにリンゴのように真っ赤に染まっていく。
(わかりやす! チョロすぎやろ、この陽キャ! 顔面に『好き』って書いてあるレベルやで!)
「天海さん、だよね。セツと仲がいいんだな」
「は、はい! 幼なじみっていうか、まあ、そんな感じですぅ!」
完全に挙動不審になるユズ。
陽キャのくせに、本物のイケメン耐性はゼロらしい。
≪対象『天海ユズ』、心拍数150bpm超。極度の興奮状態と判断。好感度95(一目惚れ)を記録≫
(好感度たっか! ていうか、一目惚れて! アホの子か、この子は! 数値で見せられると、余計に笑えてくるわ!)
レイはそんなユズの様子を気にも留めず、私に向き直った。
その瞬間、彼の視線が、一瞬だけユズの後ろ姿を追った。
その表情に、わずかな緊張が走る。
(……あれ? 今、レイの顔、ちょっと変わらんかった? 何かある?)
だが、すぐにいつもの営業スマイルに戻る。
レイは声を潜めて言った
「セツ、今日の放課後、時間はあるか? 昨日の件で、共有したい情報がある」
「え、あ、うん」
「じゃあ、屋上で。他の奴らに聞かれたくない話だ」
そう言って、レイは魅惑の香りを残し、颯爽と自分の席に戻っていく。
後に残されたのは、魂が抜けかけたユズと、面倒なことになりそうな予感に眉をひそめる私。
「……セっちゃん」
「……なに?」
「今の、何? え、何? 夜城くんと下の名前で呼び合ってんの? てか、屋上で密会!? どーゆーこと!?」
ユズは、興奮で目をキラキラさせながら、矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。
「落ち着いて。ただの業務連絡だから」
「業務連絡で屋上に呼び出す!?」
(まあ、確かに……。少女漫画なら完全に告白イベントの前振りやな)
私は面倒くさくなって、適当にはぐらかそうとした。
だがしかし、ユズの暴走は、私の想像の斜め上をいっていた。
「わかった! そういうことだったんだね! ウチ、応援するから! セっちゃんの恋!」
「違うから! 話を聞け!」
「大丈夫! 親友の恋路を邪魔するヤツは、ウチが全員まとめて吹っ飛ばしてあげる!」
ユズは、なぜかガッツポーズを決め、戦闘モードに入っている。
≪補足。天海ユズの身体能力から計算すると、『吹っ飛ばす』は比喩ではなく、物理的に実行可能です。推定飛距離:15〜20メートル≫
(洒落になってへん! ミラ、余計な情報いらんねん! てか、なんで飛距離まで計算しとんねん!)
(あかん、話が通じへん! 恋に恋する乙女モードと、有り余る謎のエネルギーが化学反応を起こして、とんでもない方向に暴走しとる! これ、核融合レベルの暴走や!)
「よし決めた! まずは二人のデート(?)を成功させるために、私も屋上に行く! 邪魔者からセっちゃんを守るSPになってあげる!」
「来んな! あんたが一番の邪魔者や!」
私の魂のツッコミも、暴走特急と化した幼なじみには、もはや届かない。
≪警告。天海ユズの興奮状態が臨界点に達しています。このまま放置すると、予測不能な行動に出る可能性が92%です≫
(今さら警告されても遅いわ! もう手遅れや!)
こうして、私の穏やかだったはずの日常は、自覚なき超人スペックを持つ、恋に暴走する陽キャな幼馴染によって、ガラガラと音を立てて崩れ始めたのだった。
前途多難。その言葉しか、私の頭には浮かんでこなかった。
ユズの暴走はどうなる!?




