1-1:「世界名作劇場」の主人公は、ぼっちになりがち説
はじめまして!
別のところメインに活動していますが、思ったよりずっと楽しんで読んでくれる人もいるみたいです。
そこで、こちらのサイトでも公開しようと思います!
毎日更新で完結はお約束します!
最初の4話ぐらいまで、ゆるりと進んで行きますが、その後はドタバタコメディとなります!
では、はじまり~~っ!
「寂しくない?」
飛行機に乗り込む直前、最後のハグをしながら母さんが尋ねる。その声が、わずかに潤んでいるのがわかってしまった。
「大丈夫だって。もう高校二年生だし。一人暮らしなんて余裕だよ」
私は精一杯の強がりで返す。
けれど、私の中にいるエセ関西弁を話すお笑い芸人が、内心で盛大なツッコミを入れていた。
(いや、寂しいに決まってるやろ! 誰がこんな状況で余裕かませるねん!)
(『大丈夫』は前フリやで、母さん! ドラマやったら次のシーンで絶対泣くパティーンや!)
でも、これを口に出して、心配そうな両親に追い打ちをかけるほど、私は子供じゃない。 ……たぶん。
空港は人でいっぱいだった。期待と不安が混じった雰囲気。
行き交う人々も、誰かを見送ったり、誰かを迎えたり。そんなドラマチックな光景が、今はただひたすらに私をセンチメンタルにさせる。
目の前では、二歳になったばかりの弟、ハルトが父さんの腕の中で
「ねーね、ばーい!」
と元気いっぱいに手を振っていた。
ちっちゃい手。 ぷにぷにのほっぺ。 ……ああ、もう。
(可愛すぎるやろ、このタイミングで。反則や、反則!)
父さんも母さんも、そしてこの小さな弟も、これから三年間、海外赴任先のヨーロッパで暮らすことになる。
「ハルト、元気でね」
にこやかに手を振り返す。
(私だけ日本に残されるとか、完全に『世界名作劇場』の主人公ルートやん。次回、嵐が吹き荒れる展開来るで、これ)
両親と離れて、なじみの薄い祖母の家に預けられる私が、これ以上家族に心配をかけるわけにはいかない。姉とは、かくも気丈に振る舞わねばならんのだ。
「手紙、書くからね」
「L○NEもするから!」
「向こうで美味しいものたくさん食べて、太って帰ってきてね」
ありきたりな言葉を精一杯の笑顔にのせて言う。 本当は、もっと言いたいことがあった。
寂しいとか。 行かないでとか。
でも、そんなこと言ったら母さんが泣く。 父さんが困る。 だから、言わない。
「セツも、ちゃんとご飯食べるのよ。おばあちゃんにご迷惑かけちゃダメだからね」
母さんがもう一度、私の頭を撫でる。その手が微かに震えているのを私は知らないふりをした。
父さんが、そんな母さんの肩をそっと抱き寄せる。
「セツ、またすぐ会えるさ。向こうに着いたら連絡する」
「うん」
無理やり作った笑顔が、少しだけ不自然になった。
父さんの言葉はいつも頼りになる。でも、今回ばかりは、その言葉が心にすとんと落ちてこなかった。
搭乗ゲートへと向かう家族の後ろ姿が、少しずつ小さくなっていく。
手を振り続けるハルトの姿が見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていた。
…
……
ゴオオォォォ………
遠くで響く飛行機の離陸音。 それが、まるで私の新しい生活の始まりを告げる合図のようだった。
(はぁ、始まるなぁ……)
私は大きく息を吐いた。 ここからは、本当に独りぼっちだ。
(いや、独りぼっちってわけちゃうやろ。ばあちゃんおるし!)
心の中で再び、自分にツッコミを入れる。
(ロンリーウルフ気取るにはまだ早いで、沖名セツ! 孤高の戦士は中二病の専売特許やぞ!)
そうでもしないと、堰を切ったように涙が溢れてきそうだった。
◇
祖母の家は、私が幼い頃に数回訪れたきりの場所だった。
駅からバスを乗り継ぎ、昔ながらの商店街を抜けた先にある、少し古い二階建ての日本家屋。
玄関には、「沖名」と書かれた年季の入った表札。
ピンポーン。
チャイムを押すと、すぐに祖母が出てきた。
「まあ、いらっしゃいセツちゃん。荷物、大変だったでしょう」
祖母は小柄で、いつも笑顔だった。
(ほんま、おばあちゃんって感じのおばあちゃんや。絵に描いたような)
そんな祖母に迎えられ、私は二階の角部屋に通された。
「今日からここがセツちゃんの部屋よ。お掃除はしてあるから、あとは好きに使ってちょうだい」
「ありがとう、おばあちゃん」
見慣れない部屋に、自分の荷物を運び込む。
段ボール箱を開けて、服や本、小物を取り出す作業は、まるで自分のテリトリーを作るための儀式のようだ。
制服。 教科書。 スマホの充電器。 お気に入りのクッション。
(よし、これで引っ越し完了やな)
一息つき、部屋を見渡す。そこそこ広いし、日当たりも悪くない。
窓からは、庭の古い桜の木が見える。
(まあ、悪くないやん。意外といけるかも)
だが。 一点だけ。
一点だけ、私を納得させられないものがあった。
それは――
「……鏡がない」
部屋を見回す。 鏡が、ない。
(マジで?鏡ないとか、女子高生的にかなりキツいんやけど)
確かに、古い家だから仕方ないのかもしれない。 でも、鏡がないと困る。 めっちゃ困る。
「おばあちゃーん! 鏡ってどこにある?」
2階から声を張り上げる。
「鏡? ああ、洗面所にあるわよ」
「部屋に置けるやつは?」
「うーん…探してみるわね」
しばらくして、祖母が上がってきた。
「ごめんなさいね、予備の鏡がなくて」
「そっか……」
(洗面所まで行くの、面倒やなあ)
すると、祖母が何かを思い出したように言った。
「あ、そういえば」
「ん?」
「おじいちゃんの書斎に、アンティークの鏡があったはずよ」
「アンティーク?」
「ええ。おじいちゃんは世界中を旅して、珍しい品をいっぱい集めてたんだよ」
(そういえば、おじいちゃん、世界中を旅してたって言ってたな)
「その鏡、使ってもいい?」
「ええ、もちろん。でも、書斎、ずっと開けてないから、埃まみれかもしれないわ」
「大丈夫。掃除するから」
「じゃあ、鍵を持ってくるわね」
祖母が1階に降りていく。 私は、少し期待していた。
(アンティークの鏡とか、なんかオシャレやん)
(めっちゃインスタ映えするわぁ、知らんけど)
数分後、祖母が鍵を持ってきた。
「これよ。書斎は、廊下の突き当たりの部屋」
「ありがとう」
私は鍵を受け取り、廊下の奥へ向かった。
(まあ、鏡の一つくらい、どこかにあるでしょ)
(なかったらマジで人権問題やで…。女子高生から鏡取り上げるとか、憲法違反ちゃうか? 第何条か知らんけど)
突き当たりに、古い木のドア。 鍵を差し込んで、回す。
ガチャ。 ギィィィ…
ドアが、重い音を立てて開いた。
セツはナイーブな女の子です。
セツの心の中の「ツッコミ」は、弱気になりがちな自分を奮い立たせるのに必要不可欠なものなのです。
それが、エセ関西弁を話すお笑い芸人として、どんどん存在が大きくなっています!
本格的なお笑い要素はもう少々お待ちください!




