第38話 次世代への橋
教育公爵となって五年。
ルナは、もう六歳になっていた。
「ママ、見て!字が書けるようになったよ!」
ルナが、嬉しそうにノートを見せる。
「上手ね!」
「えへへ」
ルナが笑う。
この子は、本当に賢い。
そして、優しい。
「ママ、私もママみたいに、みんなを助けたい」
ある日、ルナがそう言った。
「どうして?」
「だって、ママはみんなを幸せにしてるでしょ?」
ルナが目を輝かせる。
「私も、そうなりたいの」
「ルナ……」
胸が熱くなる。
「ありがとう。でも、無理はしなくていいのよ」
「大丈夫!」
ルナが元気に答える。
「私、頑張るから!」
この子は、きっと素晴らしい人になる。
そう確信した。
その頃、エマは教育界の重鎮になっていた。
「エリアナ様、新しいカリキュラムの案です」
エマが、分厚い資料を持ってくる。
「エマ、本当に頑張ってるわね」
「エリアナ様に教わりましたから」
エマが微笑む。
「諦めないこと。それが、一番大切だって」
「ええ」
マリア、セシル、ロザリーは、それぞれの道を歩んでいた。
マリアは慈善事業家として。
セシルは医療改革の推進者として。
ロザリーは女性の権利向上の活動家として。
みんな、それぞれの場所で、世界を変えている。
「すごいわよね、みんな」
ある日、五人で集まった時、私が言った。
「昔は、お互いに敵対していたのに」
「今では、こうして協力している」
「本当ですわね」
マリアが微笑む。
「でも、エリアナ様が変えてくれましたもの」
「私たちを」
「いいえ、みんなが自分で変わったのよ」
私は、みんなを見回す。
「私は、きっかけを作っただけ」
「変わる決心をしたのは、みんな自身よ」
「エリアナ様……」
三人が、涙ぐむ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
五人で、抱き合う。
長い旅路だった。
でも、素晴らしい仲間に恵まれた。
ある日、レオンが深刻な顔で言った。
「エリアナ、相談がある」
「何?」
「俺の父上が、引退を考えている」
「公爵が?」
「ああ。そして、俺に跡を継げと」
レオンが窓の外を見る。
「でも、俺が公爵になれば、お前との時間が減る」
「それに、お前の改革活動にも影響するかもしれない」
「……」
確かに、それは問題だ。
でも――
「いいわよ」
「え?」
「あなたが公爵になっても、大丈夫」
私は、微笑む。
「だって、もう基盤はできているもの」
「学校も増えた、教師も育った、法律も整備された」
「後は、次の世代に任せればいい」
「次の世代?」
「ええ。エマや、若い教育者たち」
私は、レオンの手を取る。
「私たちは、そろそろバトンタッチする時期なのかもしれないわ」
「エリアナ……」
「もちろん、完全に引退するわけじゃないわよ」
私は、笑う。
「顧問として、助言者として、これからも関わっていく」
「でも、主役は次の世代に譲る」
「……わかった」
レオンが頷く。
「なら、俺も公爵を引き受けよう」
「そして、お前と一緒に、新しい役割を果たそう」
二人で微笑み合う。
数ヶ月後、大きな式典が開かれた。
レオンの公爵就任式と、私の教育公爵の引退式。
「エリアナ・ローゼン=エーデル」
国王が、厳かに言う。
「お前は、十年間、この国の教育を導いてきた」
「そして、素晴らしい成果を上げた」
国王が、会場を見回す。
「今、この国の識字率は九十パーセントを超えている」
「犯罪率は、半分以下になった」
「経済も、大きく成長した」
「全て、お前の功績だ」
拍手が起こる。
「だから、お前の引退を惜しむ声は多い」
「でも、お前の決断を尊重する」
国王が微笑む。
「そして、次の教育公爵を紹介する」
扉が開き――
エマが入ってきた。
「エマ!?」
驚く私に、エマが微笑む。
「エリアナ様、私が後を継ぎます」
「エマが……次の教育公爵に……」
「はい」
国王が頷く。
「エマは、お前の一番の弟子だ」
「そして、優秀な教育者だ」
「彼女なら、お前の意志を受け継げる」
エマが、私の前に来る。
「エリアナ様、今まで本当にありがとうございました」
「これから、私が頑張ります」
「エマ……」
涙が溢れる。
「ありがとう。お願いね」
「はい!」
二人で抱き合う。
バトンが、渡された。
式典の後、私は一人で庭園を歩いていた。
「終わったのね……」
十年間の戦い。
長かったような、短かったような。
「でも、やり遂げたわ」
満足感がある。
「ママ」
後ろから声がして、振り向く。
ルナだった。
「ママ、お疲れ様」
「ルナ……」
ルナが、私の手を取る。
「ママ、すごかったよ」
「式典で、みんながママを褒めてた」
「そう?」
「うん。ママは、英雄だって」
ルナが誇らしげに言う。
「私のママは、世界一すごいママなんだ」
「ルナ……」
抱きしめると、ルナも抱きしめ返してくれた。
「でも、これからは私が頑張るから」
ルナが顔を上げる。
「ママの跡を継いで、もっともっと世界を良くする」
「無理しなくていいのよ」
「大丈夫!」
ルナが笑う。
「だって、ママの娘だもん!」
この子は、本当に強い。
「じゃあ、頑張ってね」
「うん!」
母娘で、微笑み合う。
未来は、この子たちに託された。
きっと、もっと素晴らしい世界を作ってくれる。
その夜、レオンと二人きりで話した。
「これから、どうする?」
レオンが聞く。
「さあ。でも、やりたいことはたくさんあるわ」
「例えば?」
「旅行したい。各地の学校を見て回りたい」
「それから、本を書きたい。改革の記録を」
「未来の人々のために」
私は、レオンを見る。
「でも、一番は――家族との時間を大切にしたいわ」
「あなたと、ルナと」
「ああ」
レオンが微笑む。
「俺も、それが一番だ」
二人で抱き合う。
新しい人生が、始まる。
でも、それは終わりじゃない。
新しい始まりだ。
次回予告:
引退後のエリアナは、家族との時間を楽しみながら、各地を旅する。そして、様々な人々と出会い、改めて自分の人生を振り返る。




