第37話 受け継がれる意志
ルナが生まれて一年。
小さな娘は、すくすくと育っていた。
「まま!」
ルナが、私に向かって手を伸ばす。
「はい、ここよ」
抱き上げると、ルナが嬉しそうに笑う。
この笑顔を見るたびに、幸せな気持ちになる。
「エリアナ、報告がある」
レオンが、書類を持って入ってくる。
「何?」
「教育平等法の施行から二年。今では、全国に三百校以上の学校ができた」
「そんなに!」
「ああ。そして、識字率も上がっている。平民の識字率は、五十パーセントを超えた」
「すごい……」
二年前は、二十パーセントだった。
それが、今では半数以上。
「犯罪率も下がっている。教育の効果だな」
レオンが微笑む。
「お前の夢が、形になっている」
「私だけじゃないわ。みんなの夢よ」
その時、メイドが入ってきた。
「エリアナ様、お客様です」
「お客様?」
「はい。エルデンハイム王国から、アメリア王女がお見えです」
「アメリア!?」
急いで応接室へ向かうと――
「エリアナ!」
アメリアが、嬉しそうに抱きついてきた。
「久しぶり!」
「アメリア、どうしたの?突然」
「ふふ、サプライズよ」
アメリアが微笑む。
「それに、報告があって」
「報告?」
「ええ。私の国でも、教育平等法が可決されたの!」
「本当!?」
「ええ!あなたのアドバイスのおかげよ」
アメリアが嬉しそうに言う。
「これから、私の国でも、全ての子供が学べるようになるわ」
「良かった……!」
二人で抱き合う。
改革は、国境を越えて広がっている。
「それと、もう一つ」
アメリアが真剣な顔になる。
「実は、他の国々も興味を示しているの」
「他の国々?」
「ええ。南のフェリシア王国、東のノーヴァ公国……」
アメリアが地図を広げる。
「みんな、あなたの改革に注目している」
「そして、教えを請いたいと」
「私に……?」
「ええ。エリアナ、お願いがあるの」
アメリアが私の手を取る。
「各国の代表が集まる、国際会議を開きたいの」
「国際会議?」
「ええ。そこで、あなたの改革について発表してほしい」
「そして、各国が協力して、より良い世界を作る」
アメリアが目を輝かせる。
「それが、私の夢なの」
「アメリア……」
その夢は、私の夢でもある。
「わかったわ。協力する」
「本当!?」
「ええ。一緒に、世界を変えましょう」
二人で微笑み合う。
三ヶ月後、国際会議が開かれた。
場所は、中立地帯の大都市、リベルタス。
五つの国の代表が集まった。
「では、会議を始めます」
司会者が宣言する。
「まず、この会議の提唱者、エルデンハイム王国のアメリア王女から」
アメリアが壇上に立つ。
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
「私たちは、今、歴史の転換点に立っています」
アメリアが力強く言う。
「教育、医療、労働環境。全てにおいて、改革が必要です」
「そして、それは一国だけでは成し遂げられません」
「だから、私たちは協力すべきなのです」
拍手が起こる。
「次に、改革の先駆者、エリアナ・ローゼン=エーデル様にお話しいただきます」
私が、壇上に立つ。
緊張する。
でも、ルナのため。
未来のため。
「皆様、初めまして」
深呼吸をして、話し始める。
「私は、二年前、教育平等法を制定しました」
「その理由は、シンプルです」
「全ての子供に、平等に学ぶ権利があると信じるからです」
各国の代表が、真剣に聞いている。
「生まれた場所、身分、性別。それらに関わらず、誰もが学べる世界」
「それが、私たちの目指す未来です」
「そして、それは実現可能です」
私は、データを示す。
「我が国では、教育平等法の施行後、識字率が二倍以上になりました」
「犯罪率は三十パーセント減少しました」
「経済も、成長しています」
「つまり、教育への投資は、国益にも適うのです」
代表たちが、興味深そうにメモを取る。
「もちろん、課題もあります」
「財源の確保、教師の育成、カリキュラムの作成……」
「でも、それらは協力すれば解決できます」
私は、各国の代表を見回す。
「皆様、一緒に未来を作りませんか?」
「子供たちのために」
「世界のために」
静寂の後――
大きな拍手が起こった。
「素晴らしい!」
「協力しましょう!」
「私の国でも、改革を始めたい!」
代表たちが、次々と賛同の声を上げる。
そして、会議の終わりに――
「リベルタス宣言」が採択された。
『我々は、全ての子供に教育を受ける権利があることを認める』
『我々は、国境を越えて協力し、より良い世界を作ることを誓う』
『我々は、平和と繁栄のために、共に歩むことを約束する』
五カ国の代表が、署名する。
歴史的な瞬間だった。
会議の後、アメリアと二人きりで話した。
「やったわね、エリアナ」
「ええ。あなたのおかげよ」
「いいえ、あなたのおかげ」
アメリアが微笑む。
「あなたが最初の一歩を踏み出したから、私たちも続けられた」
「でも、私も誰かの影響を受けたのよ」
「誰の?」
「前世で読んだ、ゲームの物語」
私は、遠くを見る。
「あの物語がなければ、私は変わろうとしなかった」
「でも、物語を読んで、未来を知って、変えようと思った」
「つまり、物語が私を変えたの」
アメリアが、不思議そうに聞く。
「前世?ゲーム?」
「ああ、ごめん。独り言よ」
笑ってごまかす。
でも、本当のことだ。
原作ゲームがなければ、今の私はいない。
『ありがとう』
心の中で、呟く。
『あの物語を作った人に、ありがとう』
帰国すると、ルナが駆け寄ってきた。
「まま!」
「ルナ!ただいま」
抱き上げると、ルナが笑う。
「まま、すごい!」
「え?」
「パパが言ってた。ママが、世界を変えたって」
一歳なのに、もうこんなに話せる。
賢い子だ。
「ルナもね、大きくなったら、世界を変えられるかもね」
「うん!ルナ、がんばる!」
ルナが元気に答える。
この子は、どんな未来を作るんだろう。
楽しみだ。
その夜、レオンと二人で庭園を歩いた。
「お疲れ様」
レオンが、私の肩を抱く。
「国際会議、大成功だったな」
「ええ。みんなのおかげよ」
「これから、世界は変わっていくだろうな」
レオンが空を見上げる。
「お前が始めた変化が、世界中に広がる」
「まだまだよ。これから、もっとやることがあるわ」
「例えば?」
「女性の権利向上、医療の平等化、労働環境の改善……」
次々と挙げると、レオンが笑った。
「お前は、休む気がないな」
「だって、やりたいことがたくさんあるもの」
私も笑う。
「でも、今は家族との時間も大切にしたいわ」
「ルナと、あなたと」
「ああ」
レオンが、私を抱きしめる。
「俺も、それが一番だ」
二人で抱き合う。
幸せな時間。
でも――
この幸せを、全ての人に届けたい。
それが、私の使命。
数日後、ヴィクターが重要な報告を持ってきた。
「エリアナ様、これを見てください」
「何?」
「平民学校の卒業生の進路調査です」
資料を見ると――
「これは……!」
「はい。卒業生の多くが、様々な職に就いています」
ヴィクターが誇らしげに言う。
「商人、職人、役人、教師……」
「中には、貴族と結婚した者もいます」
「貴族と!?」
「ええ。もちろん、愛し合ってのことです」
「身分の壁が、確実に低くなっています」
ヴィクターが微笑む。
「エリアナ様の夢が、実現しています」
涙が出そうになる。
「良かった……本当に……」
「それと、もう一つ」
ヴィクターが別の資料を取り出す。
「最近、『エリアナ学園』という学校が増えています」
「エリアナ学園?」
「はい。あなたの名前を冠した学校です」
「人々が、あなたを尊敬して、その名をつけているんです」
「そんな……恥ずかしいわ」
「恥ずかしがることはありません」
ヴィクターが真剣な顔で言う。
「あなたは、英雄です」
「多くの人の人生を、変えました」
「だから、人々はあなたに感謝している」
「ヴィクター……」
「これからも、頑張ってください」
「私たちは、いつでもあなたの味方ですから」
ヴィクターの言葉が、心に染みる。
一人じゃない。
みんながいる。
だから、前に進める。
その日の夜、私は日記を書いた。
『今日、国際会議の成果を実感した』
『世界は、確実に変わっている』
『でも、まだ完璧じゃない』
『まだまだ、やることはたくさんある』
『でも、焦らない』
『一歩ずつ、確実に』
『そして、ルナたちの世代に、バトンを渡す』
『それが、私の役割』
日記を閉じて、窓の外を見る。
星が、綺麗に輝いている。
『これから、どんな未来が待っているんだろう』
わからない。
でも、きっと明るい未来だ。
そう信じている。
翌日、驚くべき知らせが届いた。
「エリアナ様、国王陛下がお呼びです」
「陛下が?」
急いで王宮へ向かうと――
謁見の間には、多くの貴族が集まっていた。
「エリアナ・ローゼン=エーデル、前へ」
国王が呼ぶ。
「はい」
壇上に上がると、国王が微笑んだ。
「エリアナ、お前の功績を称えたい」
「功績……?」
「ああ。お前は、この国を変えた」
国王が厳かに言う。
「教育改革、国際協力、そして人々の心を変えた」
「だから、お前に爵位を授ける」
「!?」
「エリアナ・ローゼン=エーデル、お前を『教育公爵』に任命する」
「教育公爵……!?」
「ああ。新しく作った爵位だ」
国王が説明する。
「教育に関する全ての権限を、お前に与える」
「そして、お前の功績を、永遠に記録する」
国王が、勲章を私に授ける。
「これから、この国の教育を、頼んだぞ」
「……はい!」
会場が、拍手に包まれる。
「エリアナ様!」
「教育公爵、おめでとうございます!」
「これからも、よろしくお願いします!」
人々の声援が、嬉しい。
『教育公爵……』
大きな責任だ。
でも、やり遂げてみせる。
子供たちのために。
未来のために。
次回予告:
教育公爵となったエリアナ。その名声は、さらに高まる。しかし、ある日、彼女は重大な決断をする。それは、次世代へのバトンタッチ。




