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完璧令嬢は今日も必死です  作者: 周音


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第36話 誕生の日

 妊娠五ヶ月。


 私のお腹は、だいぶ大きくなっていた。


「エリアナ様、無理はされないでくださいね」


 マルタが心配そうに言う。


「大丈夫よ。医者からも、適度に動くようにって言われているわ」


「でも……」


「本当に大丈夫」


 私は、微笑む。


 でも、正直言うと――少し不安だった。


『ちゃんと、母親になれるかな』


 前世では、子供を産んだことがない。


 この世界でも、初めてだ。


『でも、きっと大丈夫』


 手をお腹に当てる。


 中で、赤ちゃんが動いた。


「あ……」


「どうしました?」


「動いたの。赤ちゃんが」


「まあ!」


 マルタが目を輝かせる。


「元気な証拠ですわね!」


 温かい気持ちに包まれる。


 この子は、確かに生きている。


 その頃、改革は順調に進んでいた。


 全国に百校以上の学校が開校し、何千人もの子供たちが学んでいる。


「エリアナ様、報告です」


 ヴィクターが、嬉しそうに資料を持ってくる。


「何?」


「平民学校の第一期生が、卒業試験を受けました」


「そう!結果は?」


「全員合格です!」


「本当!?」


 立ち上がろうとして――


「わっ」


 バランスを崩す。


「エリアナ様!」


 ヴィクターが慌てて支える。


「大丈夫ですか?」


「ええ、ごめんなさい。お腹が大きくて、動きにくくて……」


「無理はしないでください」


 ヴィクターが心配そうに言う。


「わかってる。でも、嬉しくて」


 私は、微笑む。


「全員合格なんて、すごいわね」


「ええ。そして、その中の何人かは、既に就職が決まっています」


「商人の助手、役所の書記、学校の助手……」


 ヴィクターが誇らしげに言う。


「教育を受けたことで、彼らの人生が変わりました」


「良かった……」


 涙が出そうになる。


 最近、涙もろくなった気がする。


 妊娠のせいかもしれない。


「エリアナ」


 レオンが部屋に入ってくる。


「また仕事をしているのか?」


「だって……」


「医者から、安静にしろと言われただろう」


 レオンが困った顔をする。


「少しくらい、大丈夫よ」


「少しじゃないだろう。朝からずっとだ」


「それは……」


 レオンが、私の手を取る。


「お前と子供の健康が、一番大切なんだ」


「仕事は、俺たちに任せろ」


「でも……」


「大丈夫」


 レオンが微笑む。


「お前が築いた基盤は、しっかりしている」


「俺たちが、ちゃんと守る」


「……わかった」


 私は、頷く。


「少し、休むわ」


「それでいい」


 レオンが私を抱き上げる。


「ちょ、ちょっと!?」


「寝室まで運ぶ」


「歩けるわよ!」


「いや、危ない」


 レオンが、優しく微笑む。


「お前は、俺の大切な妻だ。そして、俺たちの子供を宿している」


「だから、大切にさせてくれ」


「レオン……」


 胸が温かくなる。


 この人と一緒で、本当に良かった。


 妊娠七ヶ月。


 お腹は、さらに大きくなった。


「もう、ドレスが入らないわ……」


 鏡の前で、ため息をつく。


「当然ですわ!お腹にもう一人いらっしゃるのですから!」


 マルタが笑う。


「でも、エリアナ様、本当にお美しいですわ」


「そう?」


「ええ。母親の顔をされています」


 マルタが優しく微笑む。


 その日、エマが訪ねてきた。


「エリアナ様!」


「エマ、久しぶり!」


「お元気そうで良かったです!」


 エマが嬉しそうに笑う。


「実は、お知らせがあって」


「何?」


「私、正式に教師になりました!」


「本当!?」


「はい!来月から、王都の第三平民学校で教えます!」


 エマが目を輝かせる。


「エリアナ様のおかげです!」


「いいえ、エマが頑張ったからよ」


 二人で抱き合う。


「エマ、頑張ってね」


「はい!子供たちに、たくさんのことを教えます!」


「そして、エリアナ様が作ってくれたこの世界を、もっと良くします!」


 エマの言葉が、嬉しい。


 種を蒔いて、花が咲いた。


 そして、その花が新しい種を作っている。


『これが、未来を作るってことなのね』


 マリア、セシル、ロザリーも訪ねてきてくれた。


「エリアナ様、お体は大丈夫ですか?」


「ええ、元気よ」


「良かったですわ」


 マリアが微笑む。


「実は、私たちからもお知らせがあります」


「何?」


「私たち、慈善事業を始めることにしました」


 セシルが説明する。


「孤児院を支援したり、貧しい家庭に食料を配ったり」


「素敵ね!」


「エリアナ様に教わったんです」


 ロザリーが言う。


「困っている人を助けること。それが、貴族の本当の役割だって」


「みんな……」


 涙が出る。


「ありがとう」


「いいえ、こちらこそ」


 三人が微笑む。


「エリアナ様が、私たちを変えてくれました」


 仲間たちが、それぞれの場所で、世界を変えている。


 それが、何より嬉しい。


 妊娠九ヶ月。


 予定日まで、あと一ヶ月。


 お腹は、もうパンパンだ。


「重い……」


「大丈夫か?」


 レオンが心配そうに聞く。


「ええ。でも、早く会いたいわ」


「俺もだ」


 レオンがお腹に耳を当てる。


「おい、早く出てこいよ。父さんが待ってるぞ」


 くすっと笑う。


「父さん、って言うの恥ずかしくない?」


「恥ずかしくない」


 レオンが真剣な顔で言う。


「俺は、この子の父親なんだ。誇りに思ってる」


「レオン……」


 その時、お腹が大きく動いた。


「あっ」


「どうした!?」


「大丈夫。赤ちゃんが、返事してくれたみたい」


「返事?」


「ええ。『わかったよ、父さん』って」


 二人で笑い合う。


 幸せな時間。


 でも――


 その夜、事件が起きた。


「エリアナ!」


 レオンの声で、目が覚める。


「何……?」


「城が、襲撃されている!」


「え!?」


 窓の外を見ると、火の手が上がっている。


「何が起きて……」


「わからない。でも、お前は動くな」


 レオンが剣を取る。


「ここで待っていろ。俺が守る」


「レオン、危険よ!」


「大丈夫」


 レオンが微笑む。


「お前と子供を、必ず守る」


 そう言って、レオンは部屋を出ていった。


 一人残された私は、不安で仕方なかった。


『誰が、何のために……』


 その時、扉が開いた。


「誰!?」


 フードを被った人物が入ってくる。


「安心しろ、エリアナ」


 フードが取られると――


 ダミアンだった。


「ダミアン先生!?」


「時間がない。説明は後だ」


 ダミアンが私の手を取る。


「今すぐ、ここから逃げるんだ」


「でも、レオンが……」


「レオンは、アレクと共に敵と戦っている。大丈夫だ」


 ダミアンが真剣な顔で言う。


「でも、お前は違う。お前は、子供を守らなければならない」


「……」


 確かに、その通りだ。


「わかったわ」


 ダミアンに導かれて、秘密の通路を通る。


「誰が、襲撃を?」


「保守派の残党だ」


 ダミアンが答える。


「彼らは、お前の子供を恐れている」


「私の子供を?」


「ああ。お前の子供は、新しい時代の象徴になる」


 ダミアンが振り返る。


「だから、生まれる前に排除しようとしている」


「そんな……」


 背筋が寒くなる。


『この子を、狙っているの……?』


 お腹を抱きしめる。


「大丈夫。守らせない」


 ダミアンが微笑む。


「お前には、守護者がいる」


「守護者?」


「ああ。世界の意志だ」


 ダミアンが立ち止まる。


「お前は、世界に愛されている」


「だから、世界がお前を守る」


 その時――


 通路の出口が見えた。


「ここから出れば、安全な場所に……」


 でも、出口には――


 刺客が待ち構えていた。


「ちっ……!」


 ダミアンが私をかばう。


「エリアナ・ローゼン、観念しろ」


 刺客が剣を構える。


「大人しく死ね」


「させない!」


 ダミアンが魔法を放つ。


 でも、刺客は避ける。


「ダミアン・グレイ、お前も邪魔だ」


 刺客が、ダミアンに斬りかかる。


「くっ!」


 ダミアンが剣で受け止める。


 でも、押されている。


『どうしよう……』


 私も魔法を使おうとするが――


 お腹が重くて、魔力が集中できない。


 その時――


「エリアナ様!」


 エマの声がした。


「エマ!?」


 エマが、魔法で刺客を攻撃する。


「火の弾!」


 刺客が、吹き飛ばされる。


「エマ、どうして……」


「レオン様から連絡を受けました!」


 エマが私の手を取る。


「さあ、逃げましょう!」


 三人で、通路を抜ける。


 外には、馬車が待っていた。


「乗ってください!」


 ヴィクターが御者席にいる。


「ヴィクターまで!」


「当然です。エリアナ様を守るのは、私たちの使命ですから」


 馬車に乗り込むと、すぐに発進する。


 後ろから、刺客たちが追いかけてくる。


「くそっ、逃がすか!」


「大丈夫!」


 マリア、セシル、ロザリーが現れた。


「私たちが、食い止めます!」


「みんな……!」


 三人が、魔法で刺客たちを足止めする。


「エリアナ様、行ってください!」


「ありがとう!」


 馬車が、城から離れていく。


 しばらく走って、ようやく安全な場所に着いた。


「ここは……」


「平民学校です」


 ヴィクターが説明する。


「ここなら、誰も予想しません」


 学校の中に入ると――


 校長先生が待っていた。


「エリアナ様!無事で!」


「ありがとうございます……」


 安堵の息をついた瞬間――


「あっ……!」


 お腹に、激しい痛みが走った。


「エリアナ様!?」


「これは……!」


 ダミアンが、すぐに理解する。


「陣痛だ!」


「え!?」


「赤ちゃんが、生まれる!」


 エマが慌てる。


「で、でも、まだ予定日じゃ……!」


「ストレスで、早まったんだ」


 ダミアンが冷静に指示する。


「すぐに、ベッドを用意しろ!」


「タオルと湯を!」


「は、はい!」


 慌ただしく準備が進む。


 私は、ベッドに横たわった。


 痛みが、波のように襲ってくる。


「うっ……!」


「大丈夫、エリアナ様!」


 エマが手を握ってくれる。


「私、ずっとそばにいます!」


「エマ……」


 ダミアンが、助産師のように手際よく準備する。


「エリアナ、深呼吸だ」


「は、はい……」


 痛い。


 でも――


『この子に会える』


 それだけを考える。


 数時間後――


「もう少しだ!頑張れ!」


 ダミアンが励ます。


「はあ、はあ……」


「エリアナ様、頑張ってください!」


 エマも叫ぶ。


 そして――


「おぎゃあ!おぎゃあ!」


 赤ちゃんの泣き声が、響いた。


「生まれた……!」


 涙が止まらない。


「エリアナ、おめでとう」


 ダミアンが、赤ちゃんを私に渡す。


「女の子だ」


「女の子……」


 小さな、小さな命。


 でも、確かに息をしている。


「こんにちは……」


 赤ちゃんに話しかける。


「ようこそ、この世界へ……」


 赤ちゃんが、目を開けた。


 紫色の、綺麗な瞳。


「ルナ……」


 私は、微笑む。


「あなたの名前は、ルナよ」


 その時、扉が開いた。


「エリアナ!」


 レオンが飛び込んできた。


「無事か!?」


「ええ、無事よ」


「良かった……本当に……」


 レオンが私を抱きしめる。


「心配した……」


「ごめんね。でも――」


 私は、赤ちゃんを見せる。


「私たちの娘よ」


 レオンが、赤ちゃんを見る。


 そして――


 涙を流した。


「俺たちの……娘……」


「ええ」


「ルナっていうの」


「ルナ……いい名前だ」


 レオンが、優しく赤ちゃんに触れる。


「ルナ、俺が父さんだ」


「これから、よろしくな」


 赤ちゃんが、小さく笑った気がした。


 その後、襲撃の首謀者たちは捕まった。


 保守派の残党で、最後の抵抗だったらしい。


 でも、もう大丈夫。


 彼らは、全員逮捕された。


 改革を邪魔する者は、もういない。


 一週間後、私たちは城に戻った。


「エリアナ!」


 アレクが駆け寄ってくる。


「無事で良かった!」


「お兄様、心配かけてごめんなさい」


「いや、無事なら何よりだ」


 アレクが、赤ちゃんを見る。


「これが……ルナか」


「ええ」


「可愛いな……」


 アレクが優しく微笑む。


「叔父さんだぞ、ルナ」


 父と母も、喜んでくれた。


「エリアナ、よく頑張ったな」


 父が、ルナを抱っこする。


「俺も、祖父か。感慨深いな」


「可愛いわね……」


 母も、涙を流している。


「私たちの孫……」


 みんなに祝福されて、ルナは幸せそうだ。


 そして――


 その夜、私は一人でバルコニーに出た。


 ルナを抱いて、月を見上げる。


「ねえ、ルナ」


 赤ちゃんに話しかける。


「あなたが生まれた世界は、まだ完璧じゃないわ」


「でも、少しずつ良くなっている」


「貴族も平民も、みんなが平等に生きられる世界に」


 ルナが、私を見つめている。


「あなたは、その世界で育つの」


「そして、いつか――」


 私は、微笑む。


「あなたも、この世界をもっと良くしてくれるかもしれないわね」


「でも、無理はしなくていい」


「ただ、幸せに生きてくれれば、それでいいの」


 月が、優しく照らしている。


 新しい命。


 新しい希望。


 全てが、輝いている。


「エリアナ」


 レオンが、後ろから抱きしめてくる。


「寒くないか?」


「大丈夫よ」


「ルナも、風邪ひくぞ」


「そうね。中に入りましょう」


 三人で、部屋に戻る。


 家族。


 温かい言葉。


 この幸せを、守っていきたい。


 そして、全ての人に、この幸せを届けたい。


 それが、私の夢。

次回予告:

ルナの誕生は、王国中に喜びをもたらした。そして、時は流れ――エリアナとレオンの改革は、さらに進む。しかし、ある日、隣国から重大な知らせが。物語は、いよいよ最終章へ

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