第34話 議会の決戦
結婚式から一週間。
教育平等法の審議が、王国議会で始まった。
議会には、貴族議員が百名、そして新しく選ばれた平民代表が二十名。
合計百二十名の議員が、この法案の行方を決める。
「緊張するな」
レオンが、私の手を握る。
「ええ。でも、やるしかないわ」
私たちは、傍聴席から議会を見守っていた。
「では、教育平等法案について、審議を始める」
議長が宣言する。
「まず、賛成派の意見を聞こう」
若い貴族議員が立ち上がる。
「この法案は、画期的です!」
「今まで、平民は教育を受ける機会がありませんでした」
「しかし、この法案があれば、全ての子供が学べます!」
拍手が起こる。
平民代表たちからだ。
「次に、反対派の意見を」
老貴族議員が立ち上がる。
「この法案は、危険です!」
「平民に教育を与えれば、秩序が乱れます!」
「身分制度が崩壊し、国が混乱します!」
こちらにも拍手が起こる。
保守派の貴族たちからだ。
議論が続く。
賛成派と反対派が、激しく意見を交わす。
「教育は、人間の権利です!」
「いや、教育は特権です!」
「平民にも才能があります!」
「才能と教育は別です!」
時間が過ぎていく。
でも、決着はつかない。
「このままでは、票が割れるな」
レオンが呟く。
「過半数を取れるか、微妙だ」
「……」
私も、不安だった。
その時、議長が言った。
「この法案の提案者、エリアナ・ローゼン=エーデルに、発言の機会を与える」
「え!?」
「壇上へ」
議長が私を呼ぶ。
「エリアナ、行ってこい」
レオンが背中を押す。
「大丈夫。お前なら、できる」
「……うん」
立ち上がり、壇上へと向かう。
百二十人の議員たちが、私を見つめている。
『落ち着いて……』
深呼吸をする。
「議員の皆様、本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「私は、エリアナ・ローゼン=エーデルです」
「教育平等法について、お話しさせてください」
議場が、静まり返る。
「まず、なぜこの法案が必要なのか」
私は、資料を広げる。
「現在、平民の識字率は二十パーセント。つまり、八割の平民が読み書きできません」
「これは、国にとって大きな損失です」
「なぜなら、才能ある人材を、活かせていないからです」
議員たちが、真剣に聞いている。
「例えば、私の友人エマ」
私は、傍聴席のエマを指す。
「彼女は平民出身ですが、奨学金で学院に入り、優秀な成績を収めました」
「今では、魔法も使えます」
「もし彼女が教育を受けられなかったら、その才能は埋もれていました」
議員たちが、ざわめく。
「つまり、教育を与えれば、多くの才能が開花するんです」
「それは、国の力になります」
私は、さらに続ける。
「次に、治安の問題です」
「教育を受けていない人々は、犯罪に走りやすい。これは統計で証明されています」
データを示すと、議員たちが驚く。
「しかし、教育を受ければ、犯罪率は下がります」
「つまり、教育は治安維持にも有効なんです」
反対派の議員たちが、困った顔をしている。
「最後に、経済の問題です」
「教育を受けた人々は、より良い仕事に就けます」
「そうすれば、税収も増えます」
「つまり、国の財政にもプラスなんです」
私は、議員たちを見回す。
「教育平等法は、人道的な理由だけではありません」
「国益にも適うんです」
静寂。
そして――
平民代表の一人が立ち上がった。
「素晴らしい!」
拍手が起こる。
「エリアナ様の言う通りだ!」
「教育は、国のためにもなる!」
若い貴族議員たちも、拍手し始める。
でも、老貴族議員が立ち上がる。
「待て!」
「確かに、理屈は分かる。だが、財源はどうする!?」
「平民全員に教育を与えるには、莫大な費用がかかる!」
「それをどう賄う!?」
鋭い指摘だ。
確かに、財源は大きな問題だ。
「財源については、三つの方法を提案します」
私は、新しい資料を取り出す。
「第一に、貴族からの寄付」
「既に、多くの貴族が協力を表明しています」
名簿を見せると、議員たちが驚く。
「こんなに……」
「第二に、商業税の一部を教育に充てます」
「商人たちも、賛同しています。なぜなら、教育を受けた労働者が増えれば、経済も発展するからです」
「第三に、国の予算の再配分です」
「無駄な支出を削減し、教育に回します」
老貴族議員が、反論しようとするが――
「具体的には、宮廷の豪華すぎる装飾費や、使われていない別荘の維持費など」
データを示すと、議員たちがざわめく。
「確かに、これは無駄だ……」
「これなら、財源は確保できるな」
議場の雰囲気が、変わり始めた。
「最後に、皆様にお願いがあります」
私は、深くお辞儀をする。
「どうか、未来を見てください」
「今、私たちが決めることが、百年後の王国を作ります」
「教育を受けた人々が増えれば、この国はもっと豊かになります」
「もっと平和になります」
「もっと美しくなります」
私は、顔を上げる。
「だから、どうかこの法案に、賛成してください」
「未来のために」
静寂の後――
一人の議員が立ち上がって拍手した。
そして、次々と議員たちが立ち上がる。
拍手が、議場全体に広がる。
「素晴らしい演説だ!」
「エリアナ様、ありがとう!」
「賛成だ!賛成する!」
議長が木槌を打つ。
「では、採決に移る」
「教育平等法案に賛成の議員は、起立せよ」
一斉に、議員たちが立ち上がる。
数を数える議長の補佐官。
「……八十五名です」
「過半数を超えました!」
「では、この法案は――」
議長が高らかに宣言する。
「可決!」
議場が、歓声に包まれる。
「やった!」
「可決だ!」
「教育平等法、成立!」
私は、その場に膝をついた。
「やった……やった……!」
涙が止まらない。
「エリアナ!」
レオンが駆け寄ってくる。
「やったな!」
「うん……!」
レオンに抱きつく。
「みんな……みんなのおかげ……!」
エマも、マリアたちも、みんなが泣いている。
「エリアナ様!ありがとうございます!」
「本当に、ありがとうございます!」
議場の外では、法案可決のニュースを聞いた民衆が歓声を上げていた。
「教育平等法、可決だって!」
「本当!?」
「これで、うちの子も学校に行ける!」
「エリアナ様、万歳!」
「レオン様、万歳!」
街中が、祝祭ムードに包まれる。
その夜、王宮で祝賀会が開かれた。
「エリアナ、レオン、おめでとう」
国王が、満面の笑みで祝福する。
「本当に、よくやった」
「ありがとうございます、陛下」
「これで、この国は変わる」
国王が、窓の外を見る。
「貴族と平民の壁が、少しずつ崩れていく」
「それは、新しい時代の始まりだ」
国王が私たちを見る。
「お前たちが、その扉を開いた」
「陛下……」
「これからも、頼むぞ」
「はい!」
祝賀会が盛り上がる中、私はバルコニーに出た。
街の明かりが、美しく輝いている。
「綺麗ね……」
「ああ」
レオンが隣に来る。
「お前が変えた世界だ」
「私だけじゃないわ。みんなで変えたの」
「そうだな」
レオンが私を抱き寄せる。
「でも、お前が始めたんだ」
「これからも、一緒に?」
「当然だ」
二人で微笑み合う。
「ねえ、レオン」
「何だ?」
「次は、何をしようか」
「え?」
「教育平等法は成立した。でも、まだやることはたくさんある」
私は、空を見上げる。
「医療の平等化、労働環境の改善、女性の地位向上……」
「お前、本当に休む気ないな」
レオンが苦笑する。
「でも、それがお前らしい」
レオンが私の手を握る。
「じゃあ、全部やろう。一緒に」
「うん!」
その時、扉が開いた。
「エリアナ様、レオン様」
エマが現れる。
「実は、お話があるんです」
「何?」
「私……教師になりたいんです」
「教師?」
「はい。平民学校の教師として、子供たちに教えたいんです」
エマが目を輝かせる。
「エリアナ様が道を開いてくれました。だから、今度は私が、後に続く子供たちのために」
「エマ……」
涙が出そうになる。
「素敵な夢ね」
「応援するわ」
「本当ですか!?」
「もちろん」
レオンも頷く。
「お前なら、きっと良い教師になれる」
「ありがとうございます!」
エマが嬉しそうに笑う。
「頑張ります!」
エマが去った後、レオンが言った。
「始まったな」
「何が?」
「変化の連鎖だ」
レオンが微笑む。
「お前が種を蒔いた。それが芽吹いて、花が咲く」
「そして、その花がまた種を作る」
「ええ」
私も微笑む。
「それが、未来を作るってことね」
二人で、再び街を見下ろす。
どこかで、子供たちの笑い声が聞こえる。
希望に満ちた、明るい声。
「これから、どんな未来になるんだろう」
「さあな」
レオンが私を抱き寄せる。
「でも、きっと明るい未来だ」
「お前がいるから」
「レオン……」
「俺がいるから」
「うん」
二人で抱き合う。
月が、優しく照らしている。
長い戦いが、終わった。
でも、新しい戦いが始まる。
より良い世界を作るための、終わりなき戦い。
でも、怖くない。
仲間がいる。
愛する人がいる。
夢がある。
だから、前に進める。
次回予告:
教育平等法の施行が始まり、全国に学校が建設されていく。しかし、地方では新たな問題が。そして、エリアナに嬉しい知らせが届く――




