第33話 新たな誓い
裁判から一ヶ月。
私とレオンの結婚式の準備が、着々と進んでいた。
「エリアナ様、このドレスはいかがですか?」
マルタが、何着目かわからないウェディングドレスを持ってくる。
「綺麗ね……でも、もう少しシンプルな方が……」
「まあ!お嬢様ったら!結婚式は一生に一度ですのよ!」
「わかってるけど……」
実は、私には別の考えがあった。
結婚式を、ただの貴族の祝宴にはしたくない。
平民も参加できる、開かれた式にしたい。
「マルタ、実は相談があるんだけど……」
その日の午後、私は国王に謁見を求めた。
「エリアナか。どうした?」
「陛下、お願いがあります」
「言ってみよ」
「私とレオンの結婚式を、公開式典にしたいのです」
「公開式典?」
国王が興味深そうに聞く。
「ああ。貴族だけでなく、平民も招待して、みんなで祝える式にしたいんです」
「……面白い」
国王が微笑む。
「だが、貴族たちが反対するぞ?」
「わかっています。でも――」
私は、真っ直ぐに国王を見る。
「これは、新しい時代の象徴にしたいんです」
「貴族と平民が、共に祝う。それが、私たちの目指す未来です」
国王が、しばらく考えていた。
そして――
「わかった。許可しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、警備は厳重にする」
国王が真剣な顔になる。
「まだ、改革に反対する者もいる。お前たちの安全が最優先だ」
「ありがとうございます!」
公開結婚式の計画が、発表されると――
予想通り、反対の声が上がった。
「平民を結婚式に!?非常識だ!」
「伝統を無視するのか!」
でも、賛成の声も多かった。
「素晴らしい!これこそ、新時代だ!」
「エリアナ様らしい!」
特に、若い貴族たちと平民たちは、大歓迎だった。
「エリアナ様の結婚式、見に行けるんですか!?」
エマが目を輝かせる。
「ええ。あなたも、大切なゲストよ」
「わあ!嬉しい!」
マリア、セシル、ロザリーも喜んでいる。
「エリアナ様、私たち、お手伝いします!」
「ありがとう」
準備は大変だったが、みんなが協力してくれた。
会場は、王宮の大広間と、その前の広場。
貴族は大広間で、平民は広場で、式を見守る。
そして、式の様子は魔法で広場にも映し出される。
「すごい準備だな」
レオンが、少し呆れたように笑う。
「でも、楽しみだ」
「私も」
二人で微笑み合う。
そして、結婚式の一週間前。
私は、もう一つの決断をした。
「みんな、集まってくれてありがとう」
仲間たちを集めて、私は言う。
「実は、結婚式の後、一つ提案があるの」
「提案?」
エマが首を傾げる。
「ええ。『教育平等法』の制定よ」
「教育平等法?」
「そう。全ての子供に、生まれに関わらず、平等に教育を受ける権利を保障する法律」
私は、資料を広げる。
「今、平民学校は増えているけど、まだ十分じゃない」
「だから、法律で義務化するの。全ての子供が、最低限の教育を受けられるように」
みんなが、真剣な顔で聞いている。
「でも、それは……」
ヴィクターが言う。
「かなり革新的ですね。反対も多いでしょう」
「わかってる。でも、やらなきゃいけないの」
私は、強く言う。
「今がチャンスなのよ。結婚式で、国民の注目が集まる」
「その時に、この法案を発表すれば、大きな支持が得られるはず」
「なるほど……」
レオンが頷く。
「確かに、タイミングは良い」
「でも、準備は大丈夫か?」
「大丈夫」
私は、もう一つの資料を取り出す。
「実は、もう法案の草案は完成している」
「え!?」
「いつの間に!?」
「裁判の後、少しずつ準備していたの」
私は、微笑む。
「だって、これが私の夢だから」
「エリアナ様……」
エマが涙ぐむ。
「素敵です……本当に、素敵です……!」
「じゃあ、協力してくれる?」
「もちろんです!」
みんなが、声を揃えて答えた。
結婚式の前日。
私は、一人で平民学校を訪れた。
「エリアナ様!」
子供たちが、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「明日、結婚式なんですよね!?」
「ええ」
「おめでとうございます!」
「ありがとう」
子供たちの笑顔を見て、胸が温かくなる。
この子たちのために。
未来のために。
私は、戦ってきた。
「エリアナ様」
校長先生が近づいてくる。
「明日、私たちも式を見に行きます」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
校長先生が、深くお辞儀をする。
「あなたのおかげで、この学校ができました」
「あなたのおかげで、この子たちは学べています」
「本当に、ありがとうございます」
「いえ、まだまだこれからです」
私は、微笑む。
「もっともっと、学校を増やします」
「そして、全ての子供が学べる世界を作ります」
「……はい」
校長先生も、涙を流して微笑んだ。
そして、運命の日。
結婚式当日。
朝から、王都は祝祭ムードに包まれていた。
「エリアナ様、準備はよろしいですか?」
マルタが、最後の確認をする。
「ええ、大丈夫」
鏡を見ると、純白のウェディングドレスを着た自分が映っている。
シンプルだけど、エレガント。
私らしいドレスだ。
「お嬢様……本当にお美しい……」
マルタが涙を拭く。
「五歳の時から、ずっと見守ってきましたが……」
「こんなに立派に……」
「マルタ、ありがとう」
私も、涙が出そうになる。
「あなたがいてくれたから、私はここまで来られた」
「お嬢様……!」
二人で抱き合う。
「さあ、行きましょう」
「はい!」
大広間へと向かう。
扉の前で、父が待っていた。
「エリアナ」
「お父様」
「綺麗だぞ」
父が、優しく微笑む。
「俺の誇りだ」
「お父様……」
「さあ、行こう」
父が腕を差し出す。
「お前の未来へ」
「はい!」
父の腕を取り、扉が開かれる。
音楽が流れ、全員が立ち上がる。
大広間には、多くの貴族たち。
そして、外の広場には、もっと多くの平民たち。
みんなが、私たちを見守っている。
バージンロードを、ゆっくりと歩く。
その先には――
レオンが、立っていた。
凛々しい姿に、心臓が高鳴る。
『ああ、この人と結婚するんだ』
実感が湧いてくる。
父から手を離され、レオンの隣に立つ。
「綺麗だ」
レオンが小声で言う。
「ありがとう」
私も微笑む。
司祭が、厳かに言う。
「本日、レオン・エーデルとエリアナ・ローゼンの結婚式を執り行います」
「二人は、幼い頃からの婚約者でありました」
「そして今、真に愛し合う者として、ここに結ばれます」
司祭が、レオンに問いかける。
「レオン・エーデル、あなたはエリアナ・ローゼンを、妻として迎え、生涯愛し続けることを誓いますか?」
「誓います」
レオンが、力強く答える。
「どんな時も、彼女を愛し、守り続けます」
「エリアナ・ローゼン、あなたはレオン・エーデルを、夫として迎え、生涯愛し続けることを誓いますか?」
「誓います」
私も、強く答える。
「どんな時も、彼を愛し、支え続けます」
「では、指輪の交換を」
リオンが、指輪を持ってくる。
レオンが、私の指に指輪をはめる。
「エリアナ、愛している」
「私も、愛してる」
私も、レオンの指に指輪をはめる。
「では、神の御名において、二人の結婚を宣言します」
司祭が高らかに言う。
「新郎は、新婦にキスをしてもよろしい」
レオンが、優しく私を抱き寄せる。
そして――
唇が重なる。
温かく、優しいキス。
会場が、拍手と歓声に包まれる。
「おめでとうございます!」
「お幸せに!」
広場からも、大きな歓声が聞こえる。
「エリアナ様!」
「レオン様!」
「おめでとうございます!」
みんなが、祝福してくれている。
レオンと手を繋いで、バージンロードを戻る。
幸せで、胸がいっぱいだった。
式の後、祝宴が始まる。
大広間では貴族たちが、広場では平民たちが、それぞれ食事と音楽を楽しんでいる。
「エリアナ、レオン、おめでとう」
国王が、笑顔で祝福してくれる。
「ありがとうございます、陛下」
「良い式だった。貴族も平民も、みな祝福している」
国王が満足そうに頷く。
「これが、新しい時代の始まりだな」
「はい」
そして、私は決意を込めて言う。
「陛下、実は、お願いがあります」
「何だ?」
「今日、『教育平等法』を発表させていただきたいのです」
国王が、少し驚いた顔をする。
「今日?結婚式の日に?」
「はい。多くの人が集まっている今こそ、最適なタイミングだと思います」
国王が、しばらく考えていた。
そして――
「……わかった。許可しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。だが、これはお前の責任だ」
国王が真剣な顔になる。
「この法案を、必ず成功させろ」
「はい!」
祝宴が盛り上がった頃、私は壇上に立った。
「皆様、少しお時間をいただけますか?」
会場が静まり返る。
「本日は、私とレオンの結婚を祝福していただき、ありがとうございます」
拍手が起こる。
「そして、今日、皆様に一つ、発表があります」
私は、深呼吸をする。
「私は、国王陛下に『教育平等法』の制定を提案し、承認をいただきました」
ざわめきが広がる。
「教育平等法とは、全ての子供に、生まれに関わらず、教育を受ける権利を保障する法律です」
「貴族も平民も、みんな平等に学べる社会を作ります」
会場が、大きくざわめく。
「そんなことが……」
「平民にも、平等に……?」
「これは、夢物語ではありません」
私は、強く言う。
「既に、平民学校で実績があります。平民の子供たちも、教育を受ければ、貴族と同じように成長できます」
「だから、これを全国に広げます」
「そして、いつか――生まれで人を判断しない、真の平等な社会を作ります!」
静寂の後――
広場から、大きな歓声が上がった。
「エリアナ様!」
「ありがとうございます!」
「私たちの子供も、学べるんですか!?」
平民たちが、涙を流して喜んでいる。
大広間でも、若い貴族たちが拍手している。
「素晴らしい!」
「これこそ、未来だ!」
もちろん、反対の声もある。
「そんな法律、認められるか!」
「伝統を壊す気か!」
でも、賛成の声の方が大きい。
「エリアナ様!」
エマが、涙を流しながら叫ぶ。
「ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
マリア、セシル、ロザリーも、拍手している。
そして、レオンが壇上に上がってきた。
「皆様、私からも一言」
レオンが、会場を見回す。
「私は、エリアナを誇りに思います」
「彼女は、世界を救い、そして今、未来を作ろうとしています」
レオンが私の手を取る。
「私は、夫として、彼女を全力で支えます」
「そして、皆様にもお願いします。どうか、この改革を支えてください」
レオンが深くお辞儀をする。
私も、一緒にお辞儀をする。
拍手が、会場全体に広がる。
大広間も、広場も、全てが拍手に包まれる。
「エリアナ様!」
「レオン様!」
「応援しています!」
温かい声援が、私たちを包む。
『やった……』
涙が溢れる。
でも、嬉し涙だ。
『これで、未来が変わる』
全ての子供が、学べる未来。
貴族も平民も、平等に生きられる未来。
それが、もうすぐそこまで来ている。
その夜、私とレオンは二人きりで月を見上げていた。
「今日は、本当に色々あったな」
レオンが笑う。
「結婚式で、法案発表まで」
「やりすぎたかしら?」
「いや、お前らしい」
レオンが私を抱き寄せる。
「それに、大成功だった」
「ええ」
私も、レオンに寄りかかる。
「これから、もっと大変になるわね」
「ああ。でも――」
レオンが私を見つめる。
「俺たちなら、できる」
「うん」
二人で微笑み合う。
「エリアナ」
「何?」
「改めて、よろしく。妻として」
「こちらこそ、よろしく。夫として」
二人で笑い合う。
月が、優しく私たちを照らしている。
新しい人生。
新しい未来。
全てが、これから始まる。
次回予告:
教育平等法の制定に向けて、動き出すエリアナたち。しかし、法案を通すには、議会の承認が必要。激しい議論が交わされる中、エリアナは議会で演説することに。そして、運命の投票の日――




