第29話 試練の時
平民学校の開校から一ヶ月。
順調に見えた改革だったが――
「エリアナ様!大変です!」
エマが慌てて駆け込んできた。
「どうしたの?」
「学校が……学校が襲撃されました!」
「何!?」
すぐに、現場へ向かった。
学校の窓ガラスが割られ、壁には赤いペンキで『平民は身の程を知れ』と書かれていた。
「ひどい……」
子供たちが、怯えた顔で集まっている。
「誰が……」
「わかりません」
校長を務める老教師が、悔しそうに言う。
「夜中に、何者かが侵入して……」
「怪我人は?」
「幸い、誰もいませんでした。でも、教材がいくつか壊されて……」
見ると、机や椅子も壊されている。
「許せない……!」
マリアが怒りの声を上げる。
「こんなこと、卑劣すぎます!」
「誰がやったんだろう……」
セシルが不安そうに呟く。
「保守派の貴族だろう」
レオンが険しい顔で言う。
「改革を快く思っていない者たちが、妨害しているんだ」
「でも、証拠がないわ」
私が言うと、ヴィクターが頷いた。
「ええ。相手は、巧妙です。証拠を残さないように動いている」
「なら、どうすれば……」
その時、一人の少年が前に出てきた。
「あの……」
「どうしたの?」
「ぼく、見ました。昨日の夜、怪しい人たちが学校の周りをうろついていたの」
「本当!?どんな人たち?」
「黒い服を着た、三人組でした。一人は、すごく太っていて……」
少年の証言を元に、すぐに調査が始まった。
アレクが騎士団と協力して、聞き込みを行う。
「その特徴に合う者たちを見た、という証言がいくつかあります」
「どこに?」
「貴族街です。どうやら、ある貴族の屋敷に出入りしているらしい」
「誰の屋敷?」
アレクが、書類を見せる。
「グラント男爵。保守派の中心人物の一人です」
「グラント男爵……」
聞いたことがある名前だ。
原作には出てこなかったが、保守的な考えで有名な貴族だ。
「でも、証拠がないと動けない」
レオンが悔しそうに言う。
「相手は貴族だ。慎重に動かないと、逆に訴えられる」
「なら、証拠を掴みましょう」
私が言うと、みんなが驚いた顔をする。
「どうやって?」
「おとり作戦よ」
私は、計画を説明し始めた。
数日後の夜。
私たちは、学校の周辺に隠れて待機していた。
「本当に、来るかな……」
エマが不安そうに囁く。
「来るわ。必ず」
私は、確信していた。
私たちは、わざと『明日、新しい教材が届く』という噂を流していた。
保守派が妨害するなら、必ず今夜動くはずだ。
「……来た」
レオンが小声で言う。
見ると、黒い服を着た三人組が学校に近づいてくる。
「あれが、犯人たちだ」
ヴィクターが確認する。
三人組は、窓を割ろうとしている。
「今だ!」
私の合図で、一斉に飛び出す。
「動くな!」
リオンとヴィクターが、犯人たちを取り囲む。
「!?」
「騎士団だ!大人しくしろ!」
アレクと騎士たちも現れる。
犯人たちは、逃げようとしたが――
「させないわ!」
私が、魔法で足元を凍らせる。
犯人たちは転び、すぐに拘束された。
「話せ。誰に雇われた?」
アレクが尋問する。
最初は黙っていた犯人たちだったが、証拠を突きつけられると――
「グ、グラント男爵です……!」
「やはりな」
レオンが頷く。
「男爵から、学校を壊せと命じられました……」
「他にも、何か指示されたか?」
「次は、火をつけろと……」
「なんですって!?」
マリアが怒りの声を上げる。
「子供たちがいたら、どうするつもりだったの!?」
「それは……」
犯人たちが、俯く。
証拠は十分だった。
翌日、グラント男爵が逮捕された。
「馬鹿な!私は何もしていない!」
男爵は抵抗したが、雇った犯人たちの証言と、支払いの記録が見つかり、逃げられなかった。
「グラント男爵、あなたは平民学校への襲撃を指示した罪で、爵位剥奪とする」
王が、厳しく宣告する。
「そんな……!」
男爵は、連れて行かれた。
でも――
これで終わりではなかった。
「エリアナ様」
宮廷の侍従が、私に近づいてきた。
「保守派の貴族たちが、集会を開いているそうです」
「集会?」
「ええ。グラント男爵の逮捕に反発して、改革の中止を求める動きがあるようです」
「……そう」
予想はしていた。
一人を逮捕しても、保守派全体を黙らせることはできない。
「エリアナ、どうする?」
レオンが聞く。
「公開討論会を開きましょう」
「討論会?」
「ええ。保守派と、改革派で、公の場で議論するの」
私は、みんなを見回す。
「そして、どちらが正しいか、王国民に判断してもらうわ」
一週間後、王都の大広間で公開討論会が開かれた。
会場には、多くの貴族と平民が集まっている。
壇上には、二つの陣営。
改革派――私、レオン、アレク、ヴィクター。
保守派――老貴族たちが並んでいる。
「では、討論会を始めます」
司会者が宣言する。
「まず、保守派から意見をどうぞ」
老貴族の一人が立ち上がる。
「我々は、伝統を守りたい」
「この王国は、長年、貴族が統治してきた。それには、理由がある」
老貴族が会場を見回す。
「貴族は、幼い頃から統治の教育を受ける。責任感を持ち、国を導く」
「しかし、平民は違う。教育もなく、責任感も薄い」
「そんな者たちに権力を与えれば、国は乱れる」
老貴族が私を睨む。
「エリアナ・ローゼン、あなたは理想を語る。しかし、現実を見ていない」
拍手が起こる。
保守派の貴族たちからだ。
「では、改革派の意見をどうぞ」
私が立ち上がる。
「確かに、伝統は大切です」
「でも、伝統が全て正しいわけではありません」
私は、会場を見回す。
「平民に教育がないのは、機会がなかったからです」
「でも、機会を与えれば、平民も成長します。エマがその証明です」
エマが立ち上がる。
「私は、平民出身です。でも、奨学金で学院に入り、勉強しました」
エマが堂々と言う。
「今では、魔法も使えます。成績も、貴族の生徒たちと変わりません」
「つまり、生まれではなく、努力と機会が重要なんです」
拍手が起こる。
今度は、改革派と平民たちからだ。
「しかし!」
老貴族が反論する。
「それは例外だ!全ての平民が、エマのようになれるわけではない!」
「なれます」
私がきっぱりと言う。
「教育を受ければ、誰でも成長できます」
「証拠はあるのか!?」
「あります」
ヴィクターが資料を掲げる。
「これは、平民学校の生徒たちの成績です」
「一ヶ月で、全員が読み書きを習得しました。計算もできるようになりました」
ヴィクターが会場に資料を配る。
「これが、証拠です」
ざわめきが広がる。
「す、すごい……」
「本当に、一ヶ月で……?」
「でも、これだけでは不十分だ!」
老貴族が食い下がる。
「教育を受けても、統治能力は別だ!平民に、国を導く力はない!」
「なら、貴族全員に統治能力があるんですか?」
私が問い返す。
「え?」
「貴族だからといって、全員が優秀なわけではないでしょう?」
私は、鋭く指摘する。
「中には、怠惰で無能な貴族もいます。グラント男爵のように」
会場が、静まり返る。
「つまり、重要なのは生まれではなく、個人の能力と努力です」
私は、強く主張する。
「貴族も平民も、能力のある者が国を導くべきです」
拍手が、大きくなる。
特に、平民たちからの拍手が熱い。
「で、でも……!」
老貴族が、何か言おうとする。
でも、言葉が出ない。
「もう一つ、言わせてください」
私は、全員を見回す。
「私は、貴族の特権を奪いたいわけではありません」
「え?」
「私は、平民にも機会を与えたいだけです」
私が微笑む。
「貴族も平民も、共に成長し、共に国を支える。それが、私の理想です」
静寂の後――
大きな拍手が起こった。
保守派の貴族の中にも、拍手する者がいる。
「……わかった」
老貴族が、ため息をつく。
「お前の理想は、理解した」
「では……」
「ただし、条件がある」
老貴族が真剣な顔で言う。
「平民学校を増やすのは良い。しかし、急ぎすぎるな」
「急ぎすぎる?」
「ああ。変化は、ゆっくりとするべきだ。急激な変化は、混乱を招く」
老貴族が私を見る。
「五年、いや十年かけて、ゆっくりと改革を進めてくれ」
「……わかりました」
私は、頷く。
「時間をかけて、確実に進めます」
「なら、我々も協力しよう」
老貴族が手を差し出す。
「共に、この国を良くしていこう」
「はい!」
握手を交わす。
会場が、拍手に包まれた。
討論会の後、私たちは祝杯を上げた。
「やりましたね、エリアナ様!」
エマが嬉しそうに笑う。
「保守派も、協力してくれることになって!」
「ああ。これで、改革は順調に進む」
レオンが微笑む。
「でも、まだ始まったばかりよ」
私が言うと、みんなが頷く。
「ええ。これから、もっと頑張らないと」
マリアが拳を握る。
「私たち、エリアナ様について行きます!」
セシルとロザリーも続く。
「俺も!」
リオンが笑う。
「姉様の改革、絶対成功させようね!」
「ありがとう、みんな」
温かい気持ちに包まれる。
仲間がいる。
だから、どんな困難も乗り越えられる。
「エリアナ」
レオンが、私の隣に来た。
「よく頑張ったな」
「レオンも」
「これから、もっと大変になるだろう」
レオンが私の手を取る。
「でも、俺がいる。ずっと、支え続ける」
「うん」
二人で微笑み合う。
窓の外、星が輝いている。
未来への道は、まだ長い。
でも、希望の光が見えている。
その光を信じて、私は前に進む。
次回予告:
改革が軌道に乗り始めた頃、エリアナに新たな試練が。王から、特別な任務を命じられる。それは、隣国との外交交渉。若き改革者として、エリアナの手腕が試される――




