第27話 新しい世界
光が消えた後、私は――
その場に崩れ落ちた。
「エリアナ!」
レオンの声が、遠くに聞こえる。
視界が、ぼやける。
『力を使いすぎた……』
全属性魔法の全てを、一度に解放した。
世界の意志と共鳴し、監視者を退けた。
でも、その代償は――
「エリアナ!しっかりしろ!」
レオンが私を抱きかかえる。
「目を開けろ!エリアナ!」
「レオン……」
かすれた声しか出ない。
「大丈夫……ちょっと、疲れただけ……」
「嘘をつくな!顔色が真っ青だぞ!」
レオンの目に、涙が浮かんでいる。
「エリアナ様!」
エマが駆け寄ってくる。
「誰か!医者を!」
会場が、再び騒がしくなる。
時間の止まっていた貴族たちも、動き出している。
「何が起こったんだ?」
「エリアナ様が倒れた!?」
「医者!早く医者を!」
意識が、遠のいていく。
でも、最後に――
暖かい光を感じた。
『エリアナ、よく頑張ったね』
世界の意志の声。
『少し、休みなさい。大丈夫、あなたは守られている』
「ありがとう……」
そう呟いて、私は意識を失った。
目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
「ここは……?」
「エリアナ!」
隣から、レオンの声。
顔を向けると、彼が椅子に座って、私の手を握っていた。
目は赤く、髪も乱れている。
「レオン……?」
「良かった……目が覚めた……!」
レオンが、私の手を強く握る。
「本当に、良かった……!」
「私、どのくらい眠っていたの?」
「三日だ」
「三日!?」
驚いて起き上がろうとすると、体が重い。
「無理するな。まだ、魔力が回復していない」
レオンが私を優しく横にさせる。
「三日間、ずっと眠っていたんだ。医者も、原因がわからないと……」
レオンの声が震える。
「俺は……お前が目覚めないんじゃないかと……」
「ごめん……心配かけて」
「謝るな」
レオンが私の額に手を当てる。
「お前は、みんなを守ってくれた。俺たちを、世界を」
「レオン……」
「だから、ゆっくり休め。俺は、ずっとここにいる」
レオンの優しい言葉に、涙が溢れそうになる。
「ありがとう」
その後、次々と見舞客が訪れた。
「エリアナ様!」
エマが泣きながら飛び込んできた。
「良かった!本当に良かった!」
「エマ、ごめんね。心配かけて」
「謝らないでください!エリアナ様は、私たちのヒーローです!」
マリア、セシル、ロザリーも来てくれた。
「エリアナ様、無事で本当に……」
マリアが涙を拭く。
「私たち、ずっと祈っていました」
「ありがとう、みんな」
リオンとヴィクター、イザベラも見舞いに来た。
「姉様、強くなりすぎだよ」
リオンが苦笑する。
「あんな化け物みたいな存在を倒すなんて」
「化け物って……」
「でも、本当にすごかった」
ヴィクターが真剣な顔で言う。
「エリアナ様、あなたは世界を救ったんです」
「大げさよ」
「いえ、事実です」
イザベラが頷く。
「もし、あの監視者が勝っていたら、私たちは全員、操り人形になっていたかもしれない」
そして、アレクが来た。
「エリー」
「お兄様!」
アレクが私の頭を優しく撫でる。
「本当に、心配したぞ」
「ごめんなさい」
「謝るな。お前は、よくやった」
アレクが微笑む。
「父上も母上も、心配していたぞ。落ち着いたら、屋敷に戻ろう」
「うん」
そして――
最後に、ダミアンが訪れた。
「エリアナ、少し話せるか?」
「ダミアン先生……」
ダミアンは、レオンたちに部屋を出てもらうよう頼んだ。
二人きりになると、ダミアンが椅子に座った。
「まず、言っておこう。よくやった」
「先生……」
「お前は、物語の監視者を退けた。それは、並大抵のことではない」
ダミアンが眼鏡を外す。
「そして、世界の意志と共鳴した。お前は、もう完全にこの世界の一部だ」
「世界の意志……あれは、本当に世界そのものだったんですか?」
「ああ」
ダミアンが頷く。
「世界の意志は、この世界を生み出した根源的な力だ。全ての生命、全ての物語を包含している」
「では、監視者は?」
「監視者は、物語のシステムを管理する存在だった」
ダミアンが説明する。
「世界の意志が『創造』なら、監視者は『管理』だ」
「創造と管理……」
「そうだ。世界の意志は、自由を望む。生命が自分の意志で生きることを」
ダミアンが窓の外を見る。
「でも、監視者は秩序を望む。物語が設計通りに進むことを」
「矛盾していますね」
「ああ。だから、対立が起きた」
ダミアンが私を見る。
「そして、お前はその対立の中心にいた」
「私が……」
「お前は転生者だ。本来、この世界にいるはずのない存在」
ダミアンが真剣な顔になる。
「世界の意志は、お前を受け入れた。新しい可能性として」
「でも、監視者は拒絶した」
「その通り。監視者にとって、お前は『イレギュラー』だった」
ダミアンが微笑む。
「でも、お前は勝った。世界の意志と共に、監視者を退けた」
「それで……監視者は、もういないんですか?」
「完全には消えていない」
ダミアンが答える。
「監視者の力は弱まったが、まだ存在している。ただ、もうお前を脅かすことはできないだろう」
「そう……」
「それに」
ダミアンが立ち上がる。
「世界は、少し変わった」
「変わった?」
「ああ。物語の束縛が、緩くなった」
ダミアンが窓を開ける。
「この世界の人々は、より自由に生きられるようになった。運命に縛られず、自分の意志で」
「それって……」
「お前のおかげだ、エリアナ」
ダミアンが振り返る。
「お前は、この世界を解放したんだ」
胸が、熱くなる。
「私……そんな大それたことを……」
「大それたことだ。でも、お前ならできると思っていた」
ダミアンが優しく微笑む。
「お前は、強い。心が、意志が」
「先生……」
「これから、どうする?」
「え?」
「お前は、もう断罪の運命から解放された。自由に生きられる」
ダミアンが問いかける。
「どんな未来を選ぶ?」
私は、少し考えてから答えた。
「レオンと一緒に、幸せになりたい」
「ほう」
「そして、みんなと一緒に、この世界をもっと良くしたい」
私は、ダミアンを見る。
「貴族も平民も、みんなが幸せに生きられる世界を」
「素晴らしい答えだ」
ダミアンが満足そうに頷く。
「なら、頑張れ。お前なら、きっとできる」
「はい!」
ダミアンが部屋を出る前に、振り返った。
「そうだ、一つ言い忘れていた」
「何ですか?」
「私も、転生者だ」
「!?」
「お前と同じ。別の世界から来た」
ダミアンが微笑む。
「だから、お前の気持ちがよくわかる」
「先生……なら、どうして今まで……」
「私の役割は、見守ることだった」
ダミアンが静かに言う。
「お前が、自分の力で運命を切り開くのを」
「そう……だったんですか」
「ああ。そして、お前は見事にやり遂げた」
ダミアンが扉を開ける。
「これからも、応援している」
そう言い残して、彼は去っていった。
一週間後、私は完全に回復した。
屋敷に戻ると、盛大な歓迎パーティーが開かれた。
「お帰りなさい、エリアナ!」
「無事で良かった!」
使用人たちが、涙を流して喜んでくれる。
父と母も、珍しく感情的になっていた。
「エリアナ……」
母が、私を抱きしめた。
「心配したのよ……」
「お母様……」
「あなたは、私の誇りです」
母が涙を拭く。
「完璧な令嬢というだけでなく、強く、優しい娘に育って」
「お母様……!」
父も、私の頭を撫でる。
「エリアナ、よく頑張ったな」
「お父様」
「お前は、もう十分完璧だ。これからは、自分の幸せを第一に考えろ」
父が優しく微笑む。
「お前の幸せが、俺たちの幸せだ」
涙が止まらなかった。
家族に、こんなに愛されている。
それが、嬉しくて。
その夜、庭園でレオンと二人きりになった。
「エリアナ、体調は大丈夫か?」
「うん、もう完璧よ」
月明かりの下、レオンが私の手を取る。
「良かった……本当に……」
「レオン?」
「三日間、お前が目覚めなかった時、俺は――」
レオンの声が震える。
「もし、お前が目覚めなかったら、俺は……」
「大丈夫。私、ここにいるわ」
私は、レオンの頬に手を添える。
「もう、どこにも行かない」
「……約束だ」
「約束する」
レオンが、私を抱きしめる。
「愛している、エリアナ」
「私も、愛してる」
二人で、月を見上げる。
静かな夜。
でも、心は満たされていた。
「なあ、エリアナ」
「何?」
「あの時、お前が監視者と戦っていた時、少しだけ意識があった」
レオンが言う。
「お前が、『転生者』だって言われていたのを聞いた」
「!?」
驚いて、レオンを見る。
彼は、微笑んでいた。
「でも、気にしない」
「え……?」
「お前が別の世界から来たとしても、お前は俺のエリアナだ」
レオンが私の額にキスをする。
「過去がどうであれ、今のお前を愛している」
涙が溢れる。
「レオン……」
「だから、もう何も隠さなくていい」
「……ありがとう」
私は、レオンに全てを話した。
前世のこと。
ゲームの世界だと知っていたこと。
断罪イベントを恐れていたこと。
全て。
レオンは、最後まで黙って聞いていた。
そして――
「大変だったな」
優しく微笑んだ。
「一人で、そんな重荷を背負っていたなんて」
「でも、今はもう……」
「ああ。もう一人じゃない」
レオンが私の手を握る。
「これからは、俺がいる。一緒に背負おう」
「うん……!」
二人で抱き合う。
本当の意味で、心が通じ合った瞬間だった。
翌日、学院に戻ると――
「エリアナ様!」
エマが駆け寄ってきた。
「聞きました!舞踏会での活躍!」
「もう、学院中の噂ですよ!」
マリアも興奮している。
「エリアナ様が、世界を救ったって!」
「そんな大げさな……」
「大げさじゃありません!」
セシルとロザリーも頷く。
「エリアナ様のおかげで、私たちは自由になれたんです!」
学院の生徒たちも、次々と話しかけてくる。
「エリアナ様、すごいです!」
「憧れます!」
「私も、エリアナ様みたいになりたい!」
照れくさいけど、嬉しい。
でも――
一番嬉しいのは、もう「完璧令嬢」を演じなくていいこと。
ありのままの自分で、いられること。
「エリアナ様!」
エマが私の手を取る。
「これから、お昼ご飯食べましょう!」
「うん!」
みんなで、楽しく食堂へ向かう。
レオン、エマ、マリア、セシル、ロザリー、リオン、ヴィクター、イザベラ。
大切な仲間たち。
笑顔で、談笑する。
『これが、私の新しい日常』
幸せな日常。
断罪の恐怖から解放され、自由に生きられる日々。
『本当に、夢みたい』
でも、夢じゃない。
これが、私の現実。
私が勝ち取った、未来。
空を見上げると、青空が広がっていた。
雲一つない、美しい空。
新しい世界。
新しい人生。
これから、どんな未来が待っているんだろう。
楽しみで、仕方ない。
次回予告:
日常を取り戻したエリアナたち。しかし、平穏な日々の中で、新たな問題が浮上する。貴族と平民の格差問題に、エリアナは本格的に取り組み始める。そして、ヴィクターからある提案が――




