第22話 魂の審判
「魂の起源を調べる……?」
私の声が、震えた。
「ええ。全属性魔法という稀有な才能がどこから来たのか、その根源を探る必要があります」
年配の魔法使い――首席宮廷魔導師と名乗った彼が、冷たく言う。
「これは、王国の安全のための調査です。拒否はできません」
「待ってください」
レオンが前に出る。
「それは、どのような魔法ですか?危険性は?」
「危険はありません。ただ、対象者の魂の記憶を、少しだけ覗かせていただくだけです」
『魂の記憶……!』
それは、つまり――
転生前の記憶も見られてしまう?
「エリアナ様」
もう一人の魔法使い、若い女性が優しく言う。
「怖がらないでください。痛みは全くありません」
「でも……」
「もし、何も後ろめたいことがないのなら、問題ないはずですよ?」
首席魔導師が、挑発的に笑う。
『どうしよう……』
拒否すれば、怪しまれる。
でも、受け入れれば、転生のことがバレる。
「少し、時間をいただけますか?」
「時間?何のための?」
「心の準備を……」
「準備など不要です。さあ、こちらへ」
首席魔導師が、中央の魔法陣を指差す。
「そこに立ってください」
「……」
私は、レオンを見た。
彼も、不安そうな顔をしている。
でも、その目は――私を信じている、と言っていた。
『レオンを信じよう。そして、自分も』
覚悟を決めて、魔法陣の中央に立つ。
「では、始めます」
首席魔導師が詠唱を始める。
魔法陣が光り始め、私の体が浮き上がる。
「!?」
「動かないでください」
光が、私を包み込む。
そして――
意識が、遠くなっていく。
気づくと、私は暗闇の中にいた。
「ここは……?」
声が響く。
でも、誰もいない。
「エリアナ・ローゼン」
突然、光が差した。
その中に、首席魔導師の姿が浮かび上がる。
「あなたの魂を、今から調べます」
「……」
「何も隠さず、全てを見せなさい」
光が、さらに強くなる。
そして――
私の記憶が、次々と映し出され始めた。
五歳の誕生日。
目覚めた時、前世の記憶が蘇った日。
『これ、全部見られてる……!?』
パニックになりかける。
でも――
不思議なことに、前世の記憶は映らなかった。
五歳以降の記憶だけが、映し出される。
レオンと出会った日。
エマと友達になった日。
マリアたちと和解した日。
『どうして?前世の記憶は?』
その時、暗闇の奥から、別の声が聞こえた。
『エリアナ』
女性の、優しい声。
『誰!?』
『私は、この世界の意志』
『世界の……意志?』
『あなたは、別の世界から来た魂。でも、私はあなたを受け入れた』
光が、私を包む。
『なぜなら、あなたはこの世界を愛し、守ろうとしているから』
『私……』
『あなたの秘密は、守ります。だから――』
声が、優しく囁く。
『自分を信じなさい。あなたは、間違っていない』
光が消え、意識が戻った。
「はあっ!」
魔法陣の上で、私は大きく息を吸った。
「エリアナ!」
レオンが駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
「う、うん……」
首席魔導師が、複雑な表情で私を見ていた。
「……不思議ですね」
「何が?」
「あなたの魂は、非常に純粋です。悪意や邪念が、全く感じられない」
若い女性魔導師も、驚いた顔をしている。
「しかも、魂の起源は――この世界のものです」
「え?」
「全属性魔法の才能は、おそらく生まれつきのもの。何の異常もありません」
首席魔導師が、書類に何かを書き込む。
「つまり、エリアナ・ローゼン嬢は、王国に危険をもたらす存在ではない、ということですね」
「そう……なのですか?」
「ええ。調査は終了です。お疲れ様でした」
あっさりと、調査が終わった。
『世界の意志……』
あれは、何だったんだろう?
本当に、この世界が私を守ってくれたの?
「エリアナ様、大丈夫ですか?」
若い女性魔導師が、心配そうに聞いてくる。
「はい、大丈夫です」
「良かった。実は、この調査、かなり強引に進められたんです」
「え?」
「誰かが、あなたを陥れようとしていたみたいで……」
女性魔導師が小声で言う。
「でも、結果は潔白。良かったですね」
「ありがとうございます」
調査室を出ると、アレクが心配そうに待っていた。
「エリー!大丈夫だったか!?」
「うん、大丈夫」
「本当か?」
「本当よ」
私は、微笑む。
「何も問題なかったわ」
でも、心の中では――
『世界の意志……本当にありがとう』
感謝していた。
王宮を後にして、馬車の中。
レオンが私の手を握った。
「本当に、大丈夫か?」
「うん」
「何か、変なことはなかった?」
「……少しだけ、不思議なことがあったけど」
「不思議なこと?」
レオンが心配そうに聞く。
「うん。でも、大丈夫。私を守ってくれる存在がいるみたい」
「守ってくれる存在?」
「ええ。詳しくは説明できないけど……」
私は、レオンを見つめる。
「きっと、私たちは守られているわ」
「……そうか」
レオンが、少し安心したように微笑む。
「なら、いい」
屋敷に戻ると、マルタが心配そうに出迎えてくれた。
「お嬢様!ご無事で!」
「ただいま、マルタ」
「調査は、どうでしたか?」
「何も問題なかったわ」
「良かった……!」
マルタが涙ぐむ。
「本当に、ご無事で……!」
「心配かけてごめんね」
部屋に入ると、エマも待っていた。
「エリアナ様!」
「エマ!」
エマが抱きついてくる。
「心配しました!王宮の調査って、怖いって聞いて……!」
「大丈夫よ。何もなかったから」
「本当ですか?」
「本当よ」
エマが安心したように笑う。
その夜、一人で窓辺に立った。
月が、綺麗に輝いている。
『世界の意志……本当にあなたは、誰なの?』
答えは返ってこない。
でも、確かに感じた。
この世界は、私を受け入れてくれている。
『ありがとう』
小さく呟く。
そして――
『これからも、頑張ります』
心の中で、誓った。
翌日、学院に行くと、噂は既に広まっていた。
「エリアナ様、王宮の調査を無事に終えたんだって!」
「やっぱり、潔白だったのね!」
「当然よ!エリアナ様が、悪いことするわけないもの!」
生徒たちが、祝福してくれる。
でも――
一部の貴族の子女たちは、不満そうな顔をしていた。
『まだ、私を認めてくれない人たちもいるのね』
仕方ない。
全員に認めてもらうのは、無理だろう。
「エリアナ様!」
マリア、セシル、ロザリーが駆け寄ってくる。
「無事だったんですね!」
「良かった!」
「心配しましたよ!」
三人が、嬉しそうに笑う。
「ありがとう、みんな」
「これで、もう誰も文句は言えませんね!」
マリアが胸を張る。
「エリアナ様は、完全に潔白です!」
「そうですわ!」
セシルとロザリーも頷く。
温かい気持ちになる。
仲間がいてくれて、本当に良かった。
「エリアナ」
レオンが現れた。
「話がある」
「何?」
人気のない場所に移動すると、レオンが真剣な顔で言った。
「父上から連絡があった」
「公爵様から?」
「ああ。王宮の調査結果を聞いて、安心したそうだ」
「そう……」
「それで、父上が言うには――」
レオンが私の手を取る。
「そろそろ、正式な婚約発表をしたいと」
「え?」
「次の社交シーズンの舞踏会で、俺たちの婚約を正式に発表する」
レオンが微笑む。
「それでいいか?」
「もちろん!」
私は、嬉しくて抱きついた。
「やった……!」
「エリアナ……」
レオンが優しく抱きしめ返す。
「これで、お前は正式に俺の婚約者だ」
「うん!」
幸せな瞬間。
でも――
私は、まだ知らなかった。
次の社交シーズンの舞踏会。
それが、原作の断罪イベントが起こる、成人舞踏会だということを。
その日は、もうすぐそこまで来ていた。
次回予告:
正式な婚約発表に向けて、準備が始まる。しかし、エリアナはまだ気づいていなかった。次の舞踏会が、運命の断罪イベントの日だということに。そして、ダミアン教師が、意味深な警告を――




