第21話 暗雲の再来
レオンと正式に恋人として結ばれてから一週間。
私たちの関係は、学院中の話題になっていた。
「エリアナ様とレオン様、本当にお似合い!」
「ついに正式に!」
生徒たちの祝福の声が、嬉しい。
でも――
「チッ」
廊下ですれ違った貴族の子女の何人かが、露骨に舌打ちをしていた。
『やっぱり、妬まれてるのね』
仕方ない。レオンは、多くの令嬢たちの憧れの的だったから。
「気にするな」
レオンが私の肩に手を置く。
「俺が選んだのは、お前だけだ」
「ありがとう」
二人で微笑み合う。
「でも、エリアナ様」
エマが心配そうに言う。
「最近、変な噂が流れているんです」
「変な噂?」
「はい。『エリアナ様がレオン様を魔法で操っている』とか……」
「なんですって!?」
「あまりにも急に仲良くなったから、怪しいって……」
馬鹿げた噂だ。
でも、こういう噂は広まりやすい。
「気にしなくていい」
マリアが言う。
「そんな噂、私たちが否定して回りますから」
「そうです!私たちが、エリアナ様の味方です!」
ロザリーも頷く。
「みんな……ありがとう」
仲間がいてくれて、本当に良かった。
その日の午後、レオンが深刻な顔で私を呼び出した。
「エリアナ、少し話がある」
「どうしたの?」
人気のない教室に入ると、レオンが扉を閉めた。
「公爵家から、連絡があった」
「公爵家?」
「ああ。父上が、お前に会いたいと」
レオンの父――エーデル公爵。
原作でも、ほとんど登場しない人物だ。
病弱で、ほとんど表に出てこない。
「会いたい……どうして?」
「わからない。でも、おそらく――」
レオンが難しい顔をする。
「俺たちの関係について、確認したいのだろう」
「認めてもらえるかしら……」
「大丈夫だ。父上は、厳格だが公正な人だ」
レオンが私の手を握る。
「それに、俺が絶対に守る」
「うん……」
不安だけど、レオンがいれば大丈夫。
そう信じることにした。
週末、私たちはエーデル公爵家を訪れた。
壮麗な屋敷は、前に来た時と変わらない。
でも、雰囲気が――以前より重苦しい気がする。
「レオン様、エリアナ様、お待ちしておりました」
執事が案内してくれた部屋には、初老の男性が座っていた。
痩せていて、顔色が悪い。
でも、その目は――鋭く、威厳に満ちている。
「父上」
レオンが一礼する。
「レオン。そして、エリアナ・ローゼン嬢」
エーデル公爵が私を見る。
「初めてお目にかかります。レオンの婚約者か」
「は、はい。エリアナ・ローゼンです」
完璧な所作でお辞儀をする。
「噂は聞いている。全属性魔法の使い手、そして完璧令嬢と」
「もったいないお言葉です」
「座りなさい」
勧められた椅子に座る。
公爵の視線が、じっと私を見つめる。
まるで、全てを見透かすような目。
「エリアナ嬢、率直に聞こう」
公爵が口を開く。
「君は、レオンを愛しているか?」
突然の質問に、一瞬言葉に詰まる。
でも、すぐに答えた。
「はい。心から愛しています」
「なぜだ?」
「え?」
「なぜ、レオンを愛している?」
公爵が身を乗り出す。
「彼は、冷たく、感情を表に出さない。多くの者が恐れる、氷の貴公子だ」
「それは……」
私は、レオンを見る。
彼も、緊張した顔で私を見ている。
「レオンは、確かに冷たく見えるかもしれません」
私は、公爵を見つめ返す。
「でも、それは自分を守るためです。傷つかないように、心を閉ざしていただけです」
「ほう……」
「本当のレオンは、優しくて、思いやりがあって、家族思いです」
私は、微笑む。
「そんなレオンを、私は愛しています」
公爵が、少しだけ表情を和らげた。
「なるほど。では、もう一つ」
「はい」
「君は、公爵家の権力闘争を知っているか?」
「……はい」
「なら、わかるだろう。レオンの妻になるということは、その闘争に巻き込まれるということだ」
公爵が真剣な顔になる。
「次男派は、まだ諦めていない。君も、標的になる」
「覚悟しています」
きっぱりと答える。
「レオンと一緒なら、どんな困難も乗り越えられます」
「……強い娘だな」
公爵が、初めて微笑んだ。
「いいだろう。私は、君たちの関係を認める」
「父上!」
レオンが驚く。
「レオン、お前は良い伴侶を見つけたな」
公爵が立ち上がり、私たちに近づく。
「エリアナ嬢、レオンをよろしく頼む」
「はい!」
公爵が、私たちの手を重ねた。
「お前たちが、この家を支えてくれることを期待している」
「はい、父上」
レオンが力強く答える。
面会が終わり、部屋を出る。
廊下で、私とレオンは顔を見合わせた。
「やった……!」
「ああ。父上が認めてくれた」
レオンが嬉しそうに笑う。
「これで、俺たちは正式に――」
その時、冷たい声が響いた。
「おめでとう、レオン」
振り向くと、ベアトリス夫人が立っていた。
「叔母様……」
「公爵様に認められたのね。良かったわね」
笑顔だが、目は笑っていない。
「でも、まだ終わりではありませんわよ」
「どういう意味ですか?」
私が聞くと、ベアトリスは冷たく笑った。
「公爵様が認めても、他の貴族たちが認めるとは限りません」
「……」
「特に、王宮の方々は。エリアナ様のような『不可解な力』を持つ者を、警戒していますもの」
「不可解な力?」
「ええ。全属性魔法。そんな力、普通ではありえません」
ベアトリスが一歩近づく。
「もしかして、何か『特別な理由』があるのではなくて?」
背筋が凍る。
まさか、転生のことを疑われている?
「そんなことは――」
「まあ、私は何も言いませんわ」
ベアトリスが肩をすくめる。
「ただ、気をつけなさい。王宮の調査が入るかもしれませんわよ」
そう言い残して、彼女は去っていった。
「……嫌な予感がする」
レオンが呟く。
「叔母の言葉は、いつも何か裏がある」
「王宮の調査……?」
「ああ。もし本当に調査が入れば、厄介だ」
レオンが私の手を握る。
「でも、大丈夫。俺が守る」
「うん……」
でも、不安は消えなかった。
数日後、本当に王宮から使者が来た。
「エリアナ・ローゼン嬢に、王宮への出頭を命じます」
厳格な顔の騎士が、令状を手渡す。
「理由は?」
父が聞く。
「全属性魔法の能力について、調査させていただきます」
「調査……?」
「はい。王国の安全のため、特殊な魔力を持つ者は、定期的に調査を受けることになっております」
形式的な理由だが、拒否はできない。
「わかりました。出頭いたします」
私が答えると、騎士は一礼して去っていった。
「エリー……」
アレクが心配そうに私を見る。
「大丈夫よ、お兄様」
「でも……」
「私、何も悪いことはしていないもの」
強がって見せるが、内心は不安でいっぱいだった。
『王宮の調査……まさか、転生のことがバレる?』
いや、そんなはずはない。
魔法で過去は見られない。
でも――
もし、何か特別な魔法があったら?
夜、部屋で一人考え込んでいると、窓がコンコンと叩かれた。
「!?」
窓を開けると、レオンが立っていた。
「レオン!?どうやって!?」
「木に登った」
「え!?」
三階なのに!?
「入っていい?」
「う、うん」
レオンが窓から入ってくる。
「心配で、来てしまった」
「レオン……」
「王宮の調査、怖いだろう?」
「……うん」
正直に答える。
レオンが私を抱きしめた。
「大丈夫。何があっても、俺がいる」
「でも、王宮では……」
「俺も一緒に行く」
「え?」
「婚約者として、同行する権利がある」
レオンが私を見つめる。
「お前を、一人にはしない」
「レオン……」
涙が溢れそうになる。
「ありがとう」
「それに」
レオンが少し笑う。
「お前は、何も悪いことはしていない。堂々としていればいい」
「……そうね」
私も、頷く。
「堂々としていればいい」
レオンの言葉に、勇気をもらった。
翌週、王宮への出頭の日が来た。
レオン、そしてアレクも一緒に来てくれた。
「エリー、緊張するな」
「うん……」
王宮の調査室に案内される。
そこには――
見知らぬ魔法使いたちが、待っていた。
「エリアナ・ローゼン嬢ですね」
年配の魔法使いが言う。
「はい」
「これから、あなたの魔力について、詳しく調査させていただきます」
「どのような調査ですか?」
「魔力の測定、属性の確認、そして――」
魔法使いが、意味深に笑う。
「魂の起源を調べさせていただきます」
「魂の……起源?」
背筋が凍りついた。
次回予告:
魂の起源を調べる調査――それは、転生の秘密を暴くものなのか?緊迫する調査室で、エリアナは重大な決断を迫られる。そして、予想外の助けが――




