第19話 残酷な選択
「あなた……どうして……!」
フードを取った人物――それは、学院の生徒会長、ヴィクター・アシュレイだった。
優秀で、誰からも慕われる、完璧な生徒会長。
原作にも登場した、重要なサブキャラクター。
でも、彼が犯人だなんて――
「驚いているようだね、エリアナ」
ヴィクターが冷たく笑う。
「まあ、無理もない。私は、完璧な生徒会長を演じていたからね」
「どうして……どうしてこんなことを!?」
「理由?」
ヴィクターが空を見上げる。
「この世界を、変えるためだ」
「世界を……変える?」
「そうだ。この腐った世界を」
ヴィクターの目が、憎悪に燃えている。
「貴族が平民を見下し、血筋が全てを決める世界。努力しても、才能があっても、生まれで全てが決まる」
彼の拳が、震えている。
「私は、平民出身だ。でも、努力して生徒会長になった。完璧を演じて、貴族たちに認められた」
「ヴィクター……」
「でも、それでも変わらない。私は所詮、平民。貴族の犬でしかない」
ヴィクターが私を睨む。
「君のような、生まれながらに全てを持っている者には、わからないだろう」
「そんなこと……」
「嘘をつくな!」
ヴィクターが叫ぶ。
「君は、侯爵家の令嬢。美貌も、地位も、才能も、全て持っている!」
「でも、私だって……!」
「黙れ!」
ヴィクターが手を振ると、風の魔法が私を襲う。
とっさに防御魔法を展開して防ぐ。
「君のような人間が、何を苦労したというんだ!?」
「ヴィクター、落ち着いて!」
「落ち着けるか!」
ヴィクターの周りに、暗黒色の魔力が渦巻く。
「私は、ずっと耐えてきた。屈辱に、差別に」
「エマだって、平民だけど――」
「エマ?あの女か」
ヴィクターが嘲笑する。
「あの女は、君たち貴族に気に入られている。だから、特別扱いされているだけだ」
「違う!エマは、自分の力で――」
「違わない!」
ヴィクターが一歩近づく。
「この世界は、結局血筋と権力が全てなんだ。だから、私は変える」
「どうやって……?」
「君の魔力を使って、世界の法則を書き換える」
ヴィクターが魔法陣を展開する。
「全属性魔法の力があれば、可能なんだ。生まれによる差別をなくし、平等な世界を作る」
「そんなことして、本当に世界は良くなるの!?」
「良くなるさ。少なくとも、今よりは」
ヴィクターが私に手を伸ばす。
「さあ、エリアナ。君の魔力を、私に捧げろ」
「断る!」
私は、後ずさる。
「そんな方法で世界を変えても、意味がない!」
「なら、学院の生徒たちは全員、魔力を失うぞ」
ヴィクターが指を鳴らすと、空中の魔法陣が再び強く輝き始めた。
「やめて!」
「なら、大人しく従え」
残酷な選択。
自分の魔力を犠牲にするか、仲間たちを見捨てるか。
でも――
「私には、第三の選択肢がある」
「第三の選択肢?」
「あなたを、止める」
私は、魔力を解放した。
全属性の魔力が、私の周りを包む。
「なるほど。戦うつもりか」
ヴィクターも、魔力を高める。
「いいだろう。では、君の力、見せてもらおう」
ヴィクターが先制攻撃を仕掛けてきた。
闇の槍が、私に向かって飛んでくる。
「水の壁!」
水の防壁を展開して防ぐ。
でも、闇の槍は防壁を貫通してきた。
「!?」
とっさに横に飛んで回避する。
「君の全属性魔法は確かに強力だ。でも、まだ未熟だ」
ヴィクターが嘲笑する。
「私は、何年も戦闘魔法を研究してきた。生き残るために」
次々と魔法が襲いかかる。
火、氷、雷、風――
「くっ!」
防ぐのに必死だ。
確かに、私はまだ戦闘の経験が浅い。
レオンと訓練はしていたけど、実戦は初めてだ。
「どうした?それが全属性魔法の力か?」
ヴィクターが挑発する。
「やはり、血筋だけの力だな。使いこなせていない」
「くっ……!」
悔しい。
でも、事実だ。
私は、まだ自分の力を完全には制御できていない。
「さあ、観念しろ。君一人の犠牲で、多くの人間が救われる」
「救われる?」
私は、ヴィクターを睨む。
「あなたのやり方では、誰も救われない!」
「何?」
「暴力で世界を変えても、新しい差別が生まれるだけ!」
私は、魔力を集中させる。
レオンが教えてくれたこと。
魔法は、力だけじゃない。
意志が、重要だ。
「私は、あなたを止める!」
「できるものか!」
ヴィクターが最大の魔法を放ってきた。
巨大な闇の渦が、私を飲み込もうとする。
「全属性――融合!」
私は、全ての属性の魔力を一つに集める。
火、水、風、土、光、闇。
全てを融合させて――
「解放!」
巨大な光の柱が、闇を打ち消した。
「なに!?」
ヴィクターが驚愕する。
「そんな馬鹿な!属性融合だと!?」
光が、ヴィクターを包み込む。
そして――
彼の魔法陣が、崩壊した。
空中にあった巨大な魔法陣も、消滅する。
「あ……ああ……」
ヴィクターが膝をつく。
「私の……計画が……」
私は、彼の前にしゃがみ込んだ。
「ヴィクター、あなたの気持ちはわかる」
「わかる?笑わせるな……」
「わかるわ。だって、私も――」
言いかけて、止まる。
転生者だと、言うわけにはいかない。
「私も、この世界の不公平さを、おかしいと思っている」
「なら……!」
「でも、暴力じゃない。ちゃんと、話し合って変えていくべきだわ」
私は、ヴィクターの手を取った。
「一緒に、世界を変えましょう。正しい方法で」
「正しい方法……?」
「ええ。私には、仲間がいる。レオン、エマ、マリア、みんな」
私は、微笑む。
「貴族も平民も、一緒に。少しずつでも、世界を良くしていける」
「そんなこと……できるのか……?」
「できるわ。あなたも、協力してくれる?」
ヴィクターの目から、涙が溢れた。
「私は……私は……!」
彼が泣き崩れる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「いいのよ。大丈夫」
私は、ヴィクターを抱きしめた。
「これから、やり直せばいい」
その時、階段から足音が聞こえた。
「エリアナ!」
レオンが駆け上がってきた。
「大丈夫か!?」
「うん、大丈夫」
エマ、リオン、ロザリーも続いて現れた。
「エリアナ様!」
「みんな……」
「魔法陣が消えた!魔力も戻った!」
エマが嬉しそうに言う。
「エリアナ様が、やったんですか!?」
「ええ。でも、一人じゃないわ」
私は、ヴィクターを見る。
「彼が、協力してくれた」
「え?でも、彼が犯人……」
「彼には、理由があったの。そして、これからは仲間よ」
ヴィクターが、驚いて私を見る。
「本当に……いいのか?私を……」
「もちろん」
私は、微笑む。
「一緒に、世界を変えましょう」
レオンが、複雑な表情で私を見ていた。
でも、やがて頷いた。
「……エリアナがそう言うなら」
「レオン……」
「でも、ヴィクター。次はない」
レオンがヴィクターを睨む。
「もし、またエリアナを傷つけたら、俺が許さない」
「……わかっている」
ヴィクターが頭を下げる。
「本当に、申し訳ありませんでした」
こうして、魔力吸収事件は解決した。
ヴィクターは、学院に全てを告白した。
生徒会長の座は剥奪されたが、更生の機会を与えられた。
奪われた魔力も、ヴィクターの協力で全員に戻された。
セシル、マリアも、元気になった。
「エリアナ様、ありがとうございます」
マリアが微笑む。
「もう大丈夫よ」
「でも、まさかヴィクター先輩が犯人だったなんて……」
セシルが驚いた顔で言う。
「彼も、苦しんでいたのね」
「ええ。でも、これからは一緒に頑張れる」
ロザリーが頷く。
「エリアナ様、すごいです。敵までも味方にしてしまうなんて」
「私一人の力じゃないわ。みんながいてくれたから」
その夜、部屋で一人になって考えた。
『世界の法則を変える魔法……』
ヴィクターは、私の魔力を使ってそれをしようとしていた。
でも、それは本当に可能なのだろうか?
そして――
『もし可能なら、断罪イベントも変えられる?』
いや、考えても仕方ない。
私は、自分の力で未来を変える。
魔法に頼るんじゃなく、仲間と一緒に。
窓の外を見ると、月が綺麗に輝いていた。
断罪イベントまで、残り八ヶ月。
事件は解決したけど、まだ油断はできない。
でも――
仲間が増えた。
ヴィクターも、これからは味方だ。
「きっと、大丈夫」
そう呟いて、私は眠りについた。
次回予告:
事件解決後、束の間の平和が訪れる。そんな中、エリアナは十四歳最後の日を迎える。そして、レオンが彼女を特別な場所へと連れ出し――二人の距離が、さらに縮まる――




