第13話 夜会の罠
王宮の大広間は、煌びやかな光に満ちていた。
シャンデリアの輝き、華やかなドレス、優雅な音楽。
「すごい……」
エマが目を輝かせる。
「初めての王宮だもんね」
「はい!こんな素敵な場所、夢みたいです!」
エマの無邪気な笑顔に、私も少し緊張がほぐれた。
「エリアナ」
レオンが近づいてくる。
「準備はいいか?」
「……うん」
「何があっても、俺がいる。忘れるな」
「ありがとう」
レオンの言葉に、勇気をもらう。
「さあ、始まるぞ」
夜会が始まり、多くの貴族が社交を楽しんでいる。
「エリアナ様!」
何人もの人が、私に話しかけてくる。
「全属性魔法の才能、素晴らしいですね!」
「是非、うちの娘と仲良くしてやってください!」
注目の的だ。
でも、私はベアトリスとイザベラの姿を探していた。
『……どこにいる?』
すると――
「皆様、お集まりください」
イザベラの声が響いた。
「本日は、特別な出し物がございます」
『来た!』
イザベラが壇上に立つ。
「エリアナ・ローゼン様に、魔法の披露をお願いしたいのです」
「え?」
予想外の展開だった。
「全属性魔法の使い手として、その実力を見せていただきたく」
周囲が湧き上がる。
「いいですね!」
「見たい見たい!」
「エリアナ様、お願いします!」
『……まずい』
私は、まだ魔法をうまく使いこなせない。
訓練は始めたばかりだ。
「エリアナ様、いかがですか?」
イザベラが挑発的に笑う。
『これが罠か……!』
できないと言えば「全属性は嘘だった」と噂される。
やれば、失敗して恥をかく。
どちらにしても、私の評判は落ちる。
「……わかりました」
でも、私は受けて立つことにした。
「素晴らしい!では、こちらへ」
壇上に上がる。
多くの視線が、私に集中する。
『落ち着いて……レオンが教えてくれた通りに……』
深呼吸をする。
「では、火の魔法から」
手のひらに意識を集中する。
小さな炎が灯った。
「おお!」
歓声が上がる。
よし、次は――
「では、水の魔法も」
もう一方の手に、水を生み出す。
「すごい!同時に!」
さらに歓声。
調子が出てきた。
次は風、そして土――
「全属性!本当だ!」
「エリアナ様、天才だ!」
拍手が湧き上がる。
『……やった!』
でも――
「素晴らしいですわ、エリアナ様」
イザベラが近づいてくる。
「では、最後に。この魔法を解いていただけますか?」
イザベラが、複雑な魔法陣を展開した。
『……これは!』
高度な封印魔法だ。
「これは、古代魔法の一種。全属性の使い手なら、解けるはずですわよね?」
イザベラが挑発する。
『……解けない。こんな複雑なの、無理だ』
でも、断れば――
「どうされましたか?まさか、解けないのですか?」
周囲がざわつく。
「本当に全属性なのか?」
「もしかして、嘘だった?」
『まずい……!』
その時――
「待て」
低い声が響いた。
レオンだ。
「イザベラ、それは卑怯だ」
「卑怯?何がですか?」
「その魔法陣は、何年も研究した者でなければ解けない。才能だけでは無理だ」
レオンが壇上に上がってくる。
「エリアナは、まだ十三歳だ。魔法の訓練も始めたばかりだ」
「でも、天才なのでしょう?」
「天才でも、経験が必要だ」
レオンが私の前に立つ。
「お前は、エリアナを陥れようとしている」
「そんな!」
「ベアトリス叔母と組んで、この罠を仕掛けたんだろう」
レオンの言葉に、会場がざわめく。
「レオン様!根拠のないことを!」
ベアトリスが慌てて出てくる。
「根拠はある」
アレクが現れた。
「俺が、お前たちの会話を聞いていた」
「な……!」
「エリアナを陥れて、レオンとの婚約を破棄させる。そして、イザベラを次の婚約者にする。そういう計画だったな?」
アレクの言葉に、ベアトリスとイザベラが青ざめた。
「ち、違います!」
「なら、証拠を見せましょうか?」
エマが、記録用の魔道具を取り出した。
「これに、全部録音されてます!」
「え……!?」
イザベラが絶句する。
「エマ、よくやった」
私がエマに微笑む。
「当然です!エリアナ様を守るって決めたんですから!」
エマが胸を張る。
魔道具から、ベアトリスとイザベラの会話が流れた。
『エリアナを恥をかかせて、レオンとの婚約を破棄させましょう』
『そうね。そうすれば、イザベラ、あなたが次の婚約者候補になれるわ』
会場が、騒然となる。
「なんてことを……!」
「エリアナ様を陥れようとしていたのか!」
「許せない!」
ベアトリスとイザベラは、完全に孤立した。
「……くっ」
ベアトリスが悔しそうに唇を噛む。
「レオン、覚えておきなさい」
そう言い残して、去っていった。
イザベラも、泣きながら逃げていく。
騒動が収まり、夜会は再開された。
「エリアナ様、災難でしたね」
「大丈夫ですか?」
多くの人が心配してくれる。
「ありがとうございます。大丈夫です」
そして――
レオンが、私の手を取った。
「……すまない。俺の家族が、お前に迷惑をかけた」
「違うわ、レオン。あなたのせいじゃない」
「でも……」
「それに、あなたが守ってくれたでしょ?」
そう言って微笑むと、レオンは――
私を抱きしめた。
「え……!?」
「……心配した」
小さく呟くレオン。
周囲がざわめく。
でも、私は――嬉しかった。
「ありがとう、レオン」
「これからも、お前を守る」
「うん」
その抱擁が、温かかった。
夜会が終わり、帰りの馬車の中。
「エリー、よく頑張ったな」
アレクが微笑む。
「お兄様、エマ、ありがとう。二人がいなかったら……」
「当然だろ?俺は、お前の兄だ」
「私も、エリアナ様の友達ですから!」
エマが笑う。
温かい気持ちに包まれた。
でも――
『……これで、終わりじゃない』
ベアトリスの最後の言葉が、気になる。
まだ、何か企んでいる。
そして、断罪イベントまで――あと一年半。
『油断はできない』
でも、今は――
仲間がいる。
それだけで、十分強い。
次回予告:
夜会での騒動後、ベアトリスとイザベラは失脚。しかし、新たな脅威が。マリアたちが、最後の賭けに出る。そして、ついに十四歳の誕生日。断罪イベントまで、残り一年――




