第11話 隠された才能
謎の手紙から数日後。
学院では、年に一度の魔法適性試験が行われることになった。
「魔法適性試験、緊張するなあ」
エマが不安そうに言う。
「大丈夫よ、エマ。あなたは優秀だもの」
「でも、私平民だから……魔力が弱かったら、また何か言われちゃう」
エマの不安も分かる。
この世界では、魔力の強さが身分に影響する。
「心配するな、エマ。お前は十分に魔力がある」
レオンが励ます。
「レオン様……」
「それに、魔力だけが全てじゃない」
「……ありがとうございます」
エマが少し元気になった。
『……魔法適性試験か』
原作では、この試験でエリアナの魔力は「平均的」だった。
完璧令嬢のイメージとは裏腹に、特別な才能はなかったのだ。
『私も、きっと同じだろうな』
前世の私も、特別な才能なんてなかったし。
試験当日。
「では、一人ずつ、この水晶に手を置いてください」
試験官の先生が説明する。
「水晶が光れば、それがあなたの魔力の量です。色が濃いほど、強力です」
次々と生徒が試験を受けていく。
「わあ!すごい!」
「綺麗な青色!」
歓声が上がる。
そして――
「エマ」
エマの番になった。
「は、はい!」
緊張した面持ちで、水晶に手を置く。
すると――
水晶が、明るい緑色に輝いた。
「おお!これは……かなり強い魔力ですね!」
試験官が驚く。
「えっ!?本当ですか!?」
エマが目を丸くする。
「ええ。平民出身でこれほどの魔力は珍しい。素晴らしいですよ」
「やった……!」
エマが嬉しそうに笑う。
周囲からも拍手が起きた。
でも――マリアたちの顔は、険しかった。
『……嫉妬してる』
予想通りだ。
「次、エリアナ・ローゼン」
私の番になった。
『さて、どうなるかな』
覚悟を決めて、水晶に手を置く。
すると――
「!?」
水晶が、激しく輝き始めた。
そして、色が変わっていく。
青、緑、赤、金――
「な、何ですかこれは!?」
試験官が驚愕する。
「複数の属性!?しかも、全て最高レベル!?」
「え……?」
私も驚いた。
『ど、どういうこと!?』
「エリアナ・ローゼン、あなたは……全属性の魔法が使える、稀代の天才です!」
試験官の言葉に、会場が騒然となった。
「すごい……!」
「エリアナ様、天才だったのか!?」
「完璧令嬢どころじゃない!」
周囲が湧き上がる。
私は、呆然としていた。
『……え、私、そんなにすごいの?』
試験後、レオンとエマが駆け寄ってきた。
「エリアナ!すごかったな!」
「エリアナ様、すごいです!」
「あ、ありがとう……」
まだ実感が湧かない。
「でも、どうして今まで気づかなかったんだ?」
レオンが不思議そうに聞く。
「……わからない。魔法、あまり使わなかったから」
実際、私は魔法を避けていた。
前世では魔法なんて使えなかったから、怖かったのだ。
「これから、ちゃんと訓練した方がいいな」
「そうね……」
でも、心の中では複雑だった。
『……これって、転生の影響?それとも、元のエリアナが持っていた才能?』
わからない。
でも、一つだけ確かなことがある。
これで、私を狙う人間がさらに増える。
案の定、その日の夕方。
マリアたちに囲まれた。
「エリアナ様、まさか全属性魔法の使い手だったなんて」
マリアが冷たく笑う。
「隠していたのですか?」
セシルが問い詰める。
「いいえ、私も知らなかったの」
「嘘おっしゃい。完璧令嬢のあなたが、自分の才能に気づかないわけがありませんわ」
ロザリーが言う。
「本当よ。信じてもらえないかもしれないけど」
「……ふん。どちらでもいいですわ」
マリアが腕を組む。
「これで、あなたはさらに注目される。レオン様も、あなたに夢中になるでしょうね」
「それは……」
「許せませんわ」
マリアの声が、低くなる。
「私は、幼い頃からレオン様に憧れていた。でも、あなたが婚約者として現れた」
「マリア……」
「最初は、あなたを利用するつもりだった。でも、あなたは従わなかった」
マリアが一歩近づく。
「そして今、あなたは全てを手に入れている。美貌、地位、才能、そしてレオン様の愛」
その目に、涙が浮かんでいた。
「……どうして、あなたばかり」
「マリア……」
私は、何も言えなかった。
マリアの痛みが、わかるから。
原作のエリアナも、同じように全てを持っていた。
でも、傲慢だったから、全てを失った。
「……ごめんなさい」
「謝らないで!」
マリアが叫ぶ。
「謝られたら、あなたを憎めなくなるじゃない!」
そう言って、マリアは走り去っていった。
セシルとロザリーも、複雑な表情で去っていく。
私は、その場に立ち尽くした。
『……彼女たちも、苦しんでいるんだ』
悪役じゃない。
ただ、嫉妬と痛みに苦しむ、普通の少女たち。
その夜、部屋で一人考えていた。
「どうすればいいんだろう……」
マリアたちを敵として扱うのは、簡単だ。
でも、それでいいのか?
「エリー?」
ノックの音と共に、アレクが入ってきた。
「お兄様」
「魔法適性試験、すごかったらしいな」
「……うん」
「でも、浮かない顔だな」
アレクが私の隣に座る。
「何があった?」
私は、マリアたちとのやり取りを話した。
「……そうか」
アレクが深くため息をつく。
「エリー、お前は優しすぎる」
「え?」
「敵を憐れむなんて、普通はしない」
「でも……」
「それでいいんだ」
アレクが微笑む。
「お前のその優しさが、いつか彼女たちを救うかもしれない」
「……本当に?」
「ああ。信じろ」
アレクが私の頭を撫でる。
「お前なら、きっとできる」
その言葉が、心に響いた。
『……そうだ。諦めちゃダメだ』
マリアたちも、救いたい。
断罪を回避するだけじゃなく、みんなが幸せになる未来を作りたい。
「ありがとう、お兄様」
「どういたしまして」
アレクが優しく笑った。
次回予告:
全属性魔法の才能が明らかになり、エリアナへの注目はさらに高まる。しかし、それは同時に、より大きな陰謀を招くことに。ベアトリスとイザベラが手を組み、決定的な罠を仕掛けようとしていた――




