第1話 転生に気づいた日
皆さん初めまして!周音です!今回が初投稿になります。是非見ていってください!
「お嬢様、お目覚めの時間でございます」
柔らかな声と共に、カーテンが開かれる音が聞こえた。まぶたの裏に朝日の温かさを感じて、私――エリアナ・ローゼンは目を覚ました。
五歳の誕生日の朝。
そして、前世の記憶が蘇った日。
「……ッ!?」
思わず飛び起きた私を、侍女のマルタが心配そうに覗き込む。
「お嬢様、どうなさいましたか?悪い夢でも?」
「い、いえ……なんでもないわ」
違う。悪い夢なんかじゃない。これは現実だ。
私は前世で、『運命の薔薇は誰がために』という乙女ゲームをプレイしていた。そして今、そのゲームの世界に、よりにもよって悪役令嬢エリアナとして転生してしまったのだ。
ゲームのエンディングでエリアナは――成人の舞踏会で、ヒロインへの嫌がらせの罪を着せられ、婚約破棄の上、国外追放されるという悲惨な末路を辿る。
「そ、そんなの絶対イヤ……!」
「お嬢様?」
「な、なんでもないわ!」
慌てて取り繕う。まずい、動揺が表に出てしまった。
深呼吸をして、鏡の前に座る。映っているのは、銀色の髪と紫水晶色の瞳を持つ、整った顔立ちの少女。五歳にしては落ち着いた雰囲気を纏っている。
前世の記憶によれば、エリアナは完璧主義で冷たく、周囲を見下す高慢な令嬢だった。だからこそ、断罪イベントで誰も彼女の味方をしなかったのだ。
「……変えなきゃ」
小さく呟く。
そうだ。これから私は、完璧でありながらも、周囲に好かれる令嬢にならなければならない。断罪を回避するために。
「お嬢様、朝食の準備が整いました」
「ありがとう、マルタ。すぐに参りますわ」
鏡の中の自分に微笑みかける練習をする。口角を上げて、目元を柔らかく――
「お嬢様?鏡に向かって何を?」
「……笑顔の、練習よ」
「まあ!お嬢様ったら可愛らしい」
マルタは微笑んだが、私の心臓はバクバクだった。
こ、これから十数年、完璧令嬢を演じ続けなければならないなんて……。
前世の私は、どちらかというとドジで、頑張り屋だけど空回りしがちなタイプだった。運動神経も悪くて、よく転んだし、暗記も苦手だった。
それなのに、これから王国一の名門侯爵家の令嬢として、完璧に振る舞わなければならない。
しかも、婚約者はあの冷徹で有名なレオン・エーデル公爵家の長男だ。原作では主人公に恋をするまで、誰にも心を開かない氷の貴公子として描かれていた。
「が、頑張るしかない……!」
小さく拳を握りしめる。
断罪回避のために。そして、この世界で生き延びるために。
完璧令嬢エリアナ・ローゼンの、長い長い演技が始まった。
朝食の席では、父と母、そして二歳年上の兄・アレクが揃っていた。
「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」
優雅にスカートの裾を摘まんで、お辞儀をする。よし、完璧。
「ああ、エリアナ。おはよう」
父は優しく微笑んだが、顔色は優れない。原作設定通り、病弱なのだろう。
「エリアナ、姿勢がいいわね。さすが私の娘です」
母は満足げに頷いた。美しいが、どこか冷たい雰囲気のある人だ。
「エリー、誕生日おめでとう」
兄のアレクだけが、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとうございます、お兄様」
微笑み返す。兄は本当に優しい人だ。でも、原作ではほとんど出番がなかった。家督継承のプレッシャーで、妹のことまで気にかけられなくなっていくのだろう。
食事が始まる。
ナイフとフォークを正しく持ち、音を立てずに食べる。姿勢を正して、優雅に――
「あ」
パンを取ろうとして、グラスに手が当たった。
「!?」
とっさに念動力でも使えたらいいのに、と思ったが、当然そんなものはない。グラスが傾いて――
「エリアナ」
母の鋭い視線が刺さる。
やばい。これは完璧令嬢失格だ。初日からいきなり……!
必死に手を伸ばしてグラスを掴む。水が少しだけこぼれたが、なんとか事なきを得た。
「……失礼いたしました」
平静を装って、ナプキンでテーブルを拭く。
「気をつけなさい、エリアナ。あなたはロゼンベルク侯爵家の令嬢なのですから」
「はい、お母様」
内心では冷や汗タラタラだった。
や、やばい。この先十数年、こんな綱渡りを続けるのか……?
「エリー、大丈夫?」
兄が小声で心配してくれる。
「ええ、お兄様。ありがとうございます」
微笑んで答えたが、心の中では叫んでいた。
『大丈夫じゃないよー!前世の私、超ドジだったんだよー!?』
でも、それを表に出すわけにはいかない。
断罪を避けるために。
生き延びるために。
私は今日も、完璧令嬢を演じ続ける。
どんなに必死でも、どんなに大変でも。
――これが、私の新しい人生なのだから。
ここまで読んでくれてありがとうございます!次回の更新は1日後になりそうです
次回予告:
七歳になったエリアナは、初めて社交界デビューの準備パーティーに参加することに。そこで出会うのは、運命の婚約者レオン、そして後に「親友」となる令嬢たち。しかし彼女たちの裏の顔を知るエリアナは――




