表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧令嬢は今日も必死です  作者: 周音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

第1話 転生に気づいた日

皆さん初めまして!周音です!今回が初投稿になります。是非見ていってください!

「お嬢様、お目覚めの時間でございます」


 柔らかな声と共に、カーテンが開かれる音が聞こえた。まぶたの裏に朝日の温かさを感じて、私――エリアナ・ローゼンは目を覚ました。


 五歳の誕生日の朝。


 そして、前世の記憶が蘇った日。


「……ッ!?」


 思わず飛び起きた私を、侍女のマルタが心配そうに覗き込む。


「お嬢様、どうなさいましたか?悪い夢でも?」


「い、いえ……なんでもないわ」


 違う。悪い夢なんかじゃない。これは現実だ。


 私は前世で、『運命の薔薇は誰がために』という乙女ゲームをプレイしていた。そして今、そのゲームの世界に、よりにもよって悪役令嬢エリアナとして転生してしまったのだ。


 ゲームのエンディングでエリアナは――成人の舞踏会で、ヒロインへの嫌がらせの罪を着せられ、婚約破棄の上、国外追放されるという悲惨な末路を辿る。


「そ、そんなの絶対イヤ……!」


「お嬢様?」


「な、なんでもないわ!」


 慌てて取り繕う。まずい、動揺が表に出てしまった。


 深呼吸をして、鏡の前に座る。映っているのは、銀色の髪と紫水晶色の瞳を持つ、整った顔立ちの少女。五歳にしては落ち着いた雰囲気を纏っている。


 前世の記憶によれば、エリアナは完璧主義で冷たく、周囲を見下す高慢な令嬢だった。だからこそ、断罪イベントで誰も彼女の味方をしなかったのだ。


「……変えなきゃ」


 小さく呟く。


 そうだ。これから私は、完璧でありながらも、周囲に好かれる令嬢にならなければならない。断罪を回避するために。


「お嬢様、朝食の準備が整いました」


「ありがとう、マルタ。すぐに参りますわ」


 鏡の中の自分に微笑みかける練習をする。口角を上げて、目元を柔らかく――


「お嬢様?鏡に向かって何を?」


「……笑顔の、練習よ」


「まあ!お嬢様ったら可愛らしい」


 マルタは微笑んだが、私の心臓はバクバクだった。


 こ、これから十数年、完璧令嬢を演じ続けなければならないなんて……。


 前世の私は、どちらかというとドジで、頑張り屋だけど空回りしがちなタイプだった。運動神経も悪くて、よく転んだし、暗記も苦手だった。


 それなのに、これから王国一の名門侯爵家の令嬢として、完璧に振る舞わなければならない。


 しかも、婚約者はあの冷徹で有名なレオン・エーデル公爵家の長男だ。原作では主人公に恋をするまで、誰にも心を開かない氷の貴公子として描かれていた。


「が、頑張るしかない……!」


 小さく拳を握りしめる。


 断罪回避のために。そして、この世界で生き延びるために。


 完璧令嬢エリアナ・ローゼンの、長い長い演技が始まった。


 朝食の席では、父と母、そして二歳年上の兄・アレクが揃っていた。


「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」


 優雅にスカートの裾を摘まんで、お辞儀をする。よし、完璧。


「ああ、エリアナ。おはよう」


 父は優しく微笑んだが、顔色は優れない。原作設定通り、病弱なのだろう。


「エリアナ、姿勢がいいわね。さすが私の娘です」


 母は満足げに頷いた。美しいが、どこか冷たい雰囲気のある人だ。


「エリー、誕生日おめでとう」


 兄のアレクだけが、本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがとうございます、お兄様」


 微笑み返す。兄は本当に優しい人だ。でも、原作ではほとんど出番がなかった。家督継承のプレッシャーで、妹のことまで気にかけられなくなっていくのだろう。


 食事が始まる。


 ナイフとフォークを正しく持ち、音を立てずに食べる。姿勢を正して、優雅に――


「あ」


 パンを取ろうとして、グラスに手が当たった。


「!?」


 とっさに念動力でも使えたらいいのに、と思ったが、当然そんなものはない。グラスが傾いて――


「エリアナ」


 母の鋭い視線が刺さる。


 やばい。これは完璧令嬢失格だ。初日からいきなり……!


 必死に手を伸ばしてグラスを掴む。水が少しだけこぼれたが、なんとか事なきを得た。


「……失礼いたしました」


 平静を装って、ナプキンでテーブルを拭く。


「気をつけなさい、エリアナ。あなたはロゼンベルク侯爵家の令嬢なのですから」


「はい、お母様」


 内心では冷や汗タラタラだった。


 や、やばい。この先十数年、こんな綱渡りを続けるのか……?


「エリー、大丈夫?」


 兄が小声で心配してくれる。


「ええ、お兄様。ありがとうございます」


 微笑んで答えたが、心の中では叫んでいた。


『大丈夫じゃないよー!前世の私、超ドジだったんだよー!?』


 でも、それを表に出すわけにはいかない。


 断罪を避けるために。


 生き延びるために。


 私は今日も、完璧令嬢を演じ続ける。


 どんなに必死でも、どんなに大変でも。


 ――これが、私の新しい人生なのだから。

ここまで読んでくれてありがとうございます!次回の更新は1日後になりそうです


次回予告:

七歳になったエリアナは、初めて社交界デビューの準備パーティーに参加することに。そこで出会うのは、運命の婚約者レオン、そして後に「親友」となる令嬢たち。しかし彼女たちの裏の顔を知るエリアナは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ