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悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


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8/23

締めの紅茶会(世界を越えた集結)

紅茶の香りが満ちる――しかし、ここは現実ではない。

リリアンヌの頭の中だけに広がる幻想のサロン。

視界の端では、海賊船の甲板がきしむ音。

振り返れば、宮廷のシャンデリアがきらめく。

そのまた向こうには、魔法学院の庭園で風に揺れる白い花。

世界が幾層にも重なり合い、夢のように溶け合っている。

中央の丸テーブルには、いつもの顔ぶれが揃っていた。

シャルロットは宮廷ドレスのまま海図を睨み、

ベアトリスは火薬の匂いを纏いながら笑い、

イザベラは副船長の制服に険しい目を宿し、

マルグリットは舵輪を背負ったまま、のんきに紅茶を口に運んでいる。

しかも――全員が一つの姿ではない。

宮廷のドレスと海賊服、魔法学院のローブが、

陽炎のように揺らめいて重なり合い、

まるで複数の世界の紅茶会が同時再生されているかのようだ。

リリアンヌは、香り立つ紅茶を静かに口へ運んだ。

――幻想の中でさえ、優雅さを崩さない。

リリアンヌが、白磁のティーカップを静かに持ち上げた――その瞬間。

視界が淡く揺らぎ、世界がいくつも重なった。

宮廷サロンの銀食器のきらめき、

魔法学院の中庭で咲き乱れる花々、

大洋を進む海賊船の甲板に打ちつける潮風――

それらが一枚の絵の上で混ざり合い、境界が消えていく。

耳に届く音もまた、ひとつではない。

貴族たちの笑い声、魔導書を閉じる硬い音、

波間に響く砲声、遠くの鐘の音……

それらが渦を巻き、まるで世界そのものが紅茶の表面でかき混ぜられているようだ。

カップを唇に近づける動作ひとつで、

百の転生世界の記憶が同時再生される――

この顔ぶれも、この空気も、何ひとつ変わらないままに。

テーブルを囲む四人の姿が、幾重にも重なって見える。

魔法学院の制服が一瞬で宮廷のドレスに変わり、さらに海賊服へと切り替わる――しかし、誰も動いていない。ただ世界だけが切り替わるのだ。

シャルロットは、魔法世界では主席として魔導書を片手に、宮廷世界では王太子妃候補として気品をまとい、海賊世界では航海士の制服で羅針盤を見つめている。どの衣装でも、背筋はまっすぐ、完璧な優等生。視線の中心に立つことを宿命づけられた存在だ。

ベアトリスは、魔導薬を爆発させ、サロンで紅茶をひっくり返し、火薬庫で足を滑らせる――世界が違っても、彼女は彼女のまま。無邪気な笑顔が災厄の予兆になる。

イザベラはいつでも険しい表情。宮廷では無礼を叱責し、魔法学院では規則を守らせ、海賊船では怒鳴り声で秩序を保つ。重なった世界のすべてで、彼女の眉間にはしっかりとしわが刻まれている。

そしてマルグリットは――

魔法世界でも宮廷でも海賊世界でも、ただ紅茶の香りや鳥の影に夢中で、場の緊張感を気にしない。ドレスでも制服でも海賊服でも、彼女だけがいつも浮世離れした微笑を浮かべていた。

リリアンヌの視界には、彼女たちが何層もの幻のように重なり合い、同じテーブルに座っている光景が映る。世界が変わっても、役割が変わらない――そんな不変のパターンが、はっきりと見えるのだ。

リリアンヌはカップを持ち上げる。

瞬間、視界が揺らいだ。サロンの煌びやかなシャンデリアが、海賊船の帆柱と重なり、魔法学院の塔の鐘楼がかすかに見える。

音も混ざり合う――波の音、鐘の音、笑い声、怒声。すべてがひとつに溶けて響く。

「結局、どの世界でもこの顔ぶれ。」

彼女の瞳に、四人の姿が幾重にも重なって映る。

シャルロットは、常に優等生の緊張を背負い、

ベアトリスは、無邪気な笑顔でトラブルを招き、

イザベラは、険しい表情で叱責を飛ばし、

マルグリットは、ただのんきに紅茶の香りを楽しんでいる。

「……そして誰かが“物語”を動かす。」

カップを唇に寄せ、ひとくち。

静かに微笑むその仕草は、騒がしい幻の情景を切り裂くかのように落ち着いていた。

リリアンヌは紅茶を最後まで飲み干し、ゆっくりとカップを置いた。

重なり合うサロンのざわめき、海賊船の怒号、魔法学院の鐘の音――すべてが渦を巻くように彼女の周囲で回転する。

「でも――百回目の私は、絶対に踊らされない。」

低く、けれどはっきりとした声。

幻のシャルロットが一瞬きょとんとし、ベアトリスが無邪気に笑い、イザベラが眉間にしわを寄せ、マルグリットが紅茶の香りを楽しんでいる。

だがその光景さえ、もはやリリアンヌの意志を縛るものではなかった。

「踊るのは――私が選んだ相手だけよ。」

扇子がパタンと閉じられる鋭い音が、幻想空間を裂く。

きらめいていた紅茶の香りも、色とりどりの世界の景色も、音を立てて崩れ落ちていく。

視界の奥で、新しい光が射し込む。

――次の転生の兆しだ。

リリアンヌはほんのわずかに口角を上げ、静かに目を閉じた。


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