表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

宮廷世界(転生No.52)

王宮の奥深く──舞踏会の喧騒から少し離れたサロンは、まるで別世界のような静けさに包まれていた。

夕刻の陽光がステンドグラスを透かして差し込み、赤い絨毯の上に淡い金色の模様を描き出す。頭上では巨大なシャンデリアが燦然と輝き、ろうそくの火が揺らめくたびに光の粒がきらきらと舞った。

長机の上には、金縁のティーセットが整然と並び、湯気とともに広がる香り高い紅茶が、場の緊張をわずかに和らげている。絹のカーテンがそよぎ、柔らかな風が甘やかな茶葉の匂いを運んでくる。

しかし──その華やかさの裏で漂うのは、礼儀作法の緊張感だ。

ひとつの仕草、ひとつの言葉で外交の空気は変わる。

貴族たちの笑みは完璧に整えられているが、その眼差しは常に相手の一挙一動を計っていた。

リリアンヌは椅子に腰掛けながら、涼しい顔で紅茶を口に運ぶ。

──退屈な宮廷世界ね。

彼女の内心のつぶやきだけが、この場で唯一の本音だった。

サロンの一角──優雅なティーテーブルを囲む四人の少女たちは、それぞれまるで別々の舞台に立っているかのようだった。

シャルロットは背筋をぴんと伸ばし、完璧な笑みを崩さない。王太子妃候補として、彼女の一挙一動は周囲の視線を集めていた。カップを持つ角度さえ、宮廷の作法そのものだ。

ベアトリスはというと……緊張感などどこ吹く風。無邪気な瞳で外国の大使に身を乗り出し、紅茶を注ぐ手元が危うく揺れる。「ねぇねぇ、このお茶すっごく香りがいいのよ!」──そんな声が聞こえてきそうで、見ている方が冷や冷やする。

イザベラは女官長見習いとして、眉ひとつ動かさずにその一部始終を監視中。ティースプーンの位置やお辞儀の角度まで、わずかな乱れも見逃さない鋭い視線が光っていた。

そしてマルグリットは、背後で控える王女付きの侍女。給仕の手を動かしながらも、どこかおっとりした様子で「わぁ、このカップの模様かわいい……」などと小声で呟いている。宮廷の緊張感など、まるで肌に届いていないようだ。

その全員を──リリアンヌは視線ひとつで把握していた。

(ふふ、まるで違う役を演じている四人芝居ね。……まぁ、私が舞台監督みたいなものだけれど)

舞踏会の華やかな喧騒を少しだけ離れたサロン。香り高い紅茶が銀のポットから注がれ、柔らかなティーカップが微かにカチャリと触れ合う。

外国大使夫妻が席につき、執事や侍女たちが優雅に給仕を行う。その様子を、リリアンヌは片目で観察していた。

(ふぅ……宮廷世界は本当に退屈ね。みんな笑顔だけど、内心で何を思っているのか手に取るようにわかるわ。セリフ通りに動くだけでゲームクリアできそうな世界だもの)

彼女は扇子を軽く握り、紅茶の香りに顔をしかめるふりをしつつ、次に起こる小さな事件に備える──それもまた、百回目の“舞台慣れ”の成果だった。



王宮の奥深く──舞踏会の喧騒から少し離れたサロンは、まるで別世界のような静けさに包まれていた。

夕刻の陽光がステンドグラスを透かして差し込み、赤い絨毯の上に淡い金色の模様を描き出す。頭上では巨大なシャンデリアが燦然と輝き、ろうそくの火が揺らめくたびに光の粒がきらきらと舞った。

長机の上には、金縁のティーセットが整然と並び、湯気とともに広がる香り高い紅茶が、場の緊張をわずかに和らげている。絹のカーテンがそよぎ、柔らかな風が甘やかな茶葉の匂いを運んでくる。

しかし──その華やかさの裏で漂うのは、礼儀作法の緊張感だ。

ひとつの仕草、ひとつの言葉で外交の空気は変わる。

貴族たちの笑みは完璧に整えられているが、その眼差しは常に相手の一挙一動を計っていた。

リリアンヌは椅子に腰掛けながら、涼しい顔で紅茶を口に運ぶ。

──退屈な宮廷世界ね。

彼女の内心のつぶやきだけが、この場で唯一の本音だった。

サロンの一角──優雅なティーテーブルを囲む四人の少女たちは、それぞれまるで別々の舞台に立っているかのようだった。

シャルロットは背筋をぴんと伸ばし、完璧な笑みを崩さない。王太子妃候補として、彼女の一挙一動は周囲の視線を集めていた。カップを持つ角度さえ、宮廷の作法そのものだ。

ベアトリスはというと……緊張感などどこ吹く風。無邪気な瞳で外国の大使に身を乗り出し、紅茶を注ぐ手元が危うく揺れる。「ねぇねぇ、このお茶すっごく香りがいいのよ!」──そんな声が聞こえてきそうで、見ている方が冷や冷やする。

イザベラは女官長見習いとして、眉ひとつ動かさずにその一部始終を監視中。ティースプーンの位置やお辞儀の角度まで、わずかな乱れも見逃さない鋭い視線が光っていた。

そしてマルグリットは、背後で控える王女付きの侍女。給仕の手を動かしながらも、どこかおっとりした様子で「わぁ、このカップの模様かわいい……」などと小声で呟いている。宮廷の緊張感など、まるで肌に届いていないようだ。

その全員を──リリアンヌは視線ひとつで把握していた。

(ふふ、まるで違う役を演じている四人芝居ね。……まぁ、私が舞台監督みたいなものだけれど)

舞踏会の華やかな喧騒を少しだけ離れたサロン。香り高い紅茶が銀のポットから注がれ、柔らかなティーカップが微かにカチャリと触れ合う。

外国大使夫妻が席につき、執事や侍女たちが優雅に給仕を行う。その様子を、リリアンヌは片目で観察していた。

(ふぅ……宮廷世界は本当に退屈ね。みんな笑顔だけど、内心で何を思っているのか手に取るようにわかるわ。セリフ通りに動くだけでゲームクリアできそうな世界だもの)

彼女は扇子を軽く握り、紅茶の香りに顔をしかめるふりをしつつ、次に起こる小さな事件に備える──それもまた、百回目の“舞台慣れ”の成果だった。

ベアトリスが満面の笑みでカップを掲げた瞬間、手がわずかに滑った。

「わっ!」

熱々の紅茶が、外国大使夫妻の衣装にばしゃりと飛び散る。

サロン内は一瞬、時間が止まったかのように静まり返る。

周囲の貴族たちの視線が、一斉にベアトリスへ――いや、正確にはリリアンヌへも注がれる。

(……あぁ、始まったわね)

リリアンヌは扇子を片手に軽くため息をつき、百回目の経験に基づく冷静な判断を巡らせる。

ベアトリスがにこやかにカップを掲げた瞬間、指先がほんの少し滑った。

「わっ!」

熱々の紅茶が、外国大使夫妻の豪華な衣装にばしゃりと飛び散る。

サロン中が、一瞬、凍りついたように静まり返る。

周囲の貴族たちの視線が、一斉にベアトリスへ――いや、正確にはリリアンヌの方へも向けられる。

(……あぁ、始まったわね)

リリアンヌは扇子を片手に軽く息をつき、百回目の経験で培った冷静な判断力を巡らせる。

「はいはい、紅茶飛ばしね。任せて――扇子で被害最小化、っと。」

そんな心の声が、静かにサロン内で響くかのようだった。

シャルロットは唇をかみ、内心で(最悪のタイミング…!)と動揺を隠せない。

イザベラは即座にナプキンを差し出し、鋭い目で(この無礼……!)と眉をひそめる。

一方、マルグリットはなぜかカップの中で渦巻く紅茶色に見惚れていて、周囲の騒動にはまったく気づいていない。

四人の個性が、紅茶飛散の瞬間にくっきりと浮かび上がる。

リリアンヌは軽やかに前に歩を進め、優雅に微笑む。

「あら、お気を悪くなさらず。紅茶染めは今、宮廷で流行りですのよ? お国でもぜひお試しを」

言葉に合わせて扇子をひらりと揺らし、場の空気をわざと冗談めかして変換する。

緊張にこわばっていた外国大使夫妻は、思わず苦笑を漏らし、サロン内の張り詰めた空気がすっと和らいだ。

シャルロットは胸をなでおろし、ほっと息をつく。

イザベラはまだ眉をひそめたまま、ナプキンを握りしめている。

マルグリットは紅茶の香りに見惚れ、「わぁ、この紅茶、いい香り……」と場違いな感想をぽつり。

リリアンヌは軽く扇子を閉じ、内心で淡々とつぶやく。

「宮廷世界は退屈ね。セリフだけでゲームクリアできるわ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ