魔法学園世界(転生No.37)
王立魔法学園の大講堂は、まだ始業のざわめきに包まれていなかった。
高い天井まで届くステンドグラスが朝の陽光を透かし、七色の光が石床に落ちる。魔力の粒子が空中で淡く揺らめき、まるで部屋全体が呼吸しているようだ。
中央の実験台には、ガラス瓶や魔法薬の器具がずらりと並べられている。床には複雑な魔術式が描かれ、淡く紫色の輝きを帯びていた。
授業が始まる前の静けさの中で、ただ瓶の中の液体だけがぽこぽこと泡を立てている。
「ちょっと待ってて! 絶対成功するから!」
講義が始まる直前だというのに、ベアトリスは実験台に身を乗り出し、魔法薬の瓶を両手で揺すっていた。
淡い緑だった液体はみるみる紫色へと変わり、ぷくぷくと不穏な泡を立てる。
光を受けてきらめく泡が天井近くまで昇っては、ぱちん、と小さな音を立てて弾けた。 瓶の中の泡がますます大きくなり、淡紫の光を帯びて脈打ちはじめた。
シャルロットが本を閉じて眉をひそめる。
「魔力干渉値が……危険よ」
イザベラはため息混じりに実験台へ視線を投げた。
「また? いい加減にしてほしいわ」
一方でマルグリットは頬杖をつき、うっとりと呟く。
「わぁ……これ、綺麗な色……」
その緊張感のない声が、逆に爆発の前兆を際立たせていた。 瓶の泡が今にも弾けそうに膨らんだ瞬間、リリアンヌの瞳がかすかに細まる。
(あぁ、来るわね。三秒後にドカンかしら)
彼女は優雅な仕草で扇子を広げ、音もなく三歩下がる。
「はいはい、爆発ね。三歩下がって――ほら、扇子で爆風ガード」
その声に気づいて振り向いた瞬間――
――ドカンッ!!
魔法薬が破裂し、紫色の煙が大講堂いっぱいに広がった。火花が天井まで舞い上がり、煌めくステンドグラスの光を歪ませる。
「きゃあっ!?」「ちょっ、目が――!」
シャルロットの金髪は見事に逆立ち、イザベラの整った巻き髪も無惨にほどけている。ベアトリスは自分のローブをパタパタ叩きながら「うわー! でもちょっと成功っぽくない?」と妙に前向き。マルグリットに至っては、煙の向こうで「ふわぁ……ブドウの匂いがする」とのんきに呟いていた。
一方――。
リリアンヌの周囲だけ、まるで結界でも張ったかのように無風無煙。ドレスの裾ひとつ乱れていない。扇子を閉じ、肩をすくめるように微笑んだ。
(はいはい、予定調和ね。これで三十七回目)
爆発の余韻で紫の煙がゆらゆら漂う大講堂。だがリリアンヌの扇子の周囲だけ、まるで別世界のように澄んでいた。
「……また原因を解析しなきゃ」
シャルロットは髪を押さえながら、すでに冷静な分析モード。
「これでは主席の品位が疑われるわ」
イザベラは鏡の代わりに銀盆に映る自分のボサボサ頭を見て、ため息をつく。
「わぁ、煙が甘い匂い……お菓子かな?」
マルグリットは爆発の中心でくるくる回りながら、ただ感想を言うだけ。
(何度目の魔法世界かしら。そろそろ目隠しでも歩けそうだわ)
リリアンヌはモノローグで、淡々と現状を片づける。魔力で窓を開き、掃除魔法をさらりと発動。教師が駆けつける前に証拠隠滅は完了だ。




