基準世界での紅茶会
中庭は静かで、噴水の水面がきらきらと光を反射している。
小鳥のさえずりが柔らかく響き、白いクロスをかけたテーブルの上には湯気の立つティーポットが置かれていた。
リリアンヌはその光景を淡々と見下ろし、心の中でつぶやく。
(また学園世界……やれやれ、百回目でも退屈な日常は変わらないわね。)
視線は紅茶会の四人の令嬢へと向かう。今日も、このお決まりの舞台が始まる。
シャルロットは背筋をぴんと伸ばし、本を片手に紅茶を傾けながら真顔で語り出した。
「やはり、この物語のヒロインにとって最も大切なのは――純真さですわ」
リリアンヌは扇子で口元を隠しながら内心で小さくため息をつく。
(また始まったわ……この分析癖、百回見ても飽きないものね)
一方、ベアトリスはティーカップをいじり、イザベラはドレスの裾を直し、マルグリットは鳥にビスケットを分けていて、誰一人まともに聞いていない。
リリアンヌの冷めた視線が、今日も“お決まりの光景”を静かに見守る。
ベアトリスは元気いっぱいに砂糖を入れすぎ、スプーンがカップの中で沈む。
「うわっ、スプーンが……!」
慌てた拍子にティーポットが傾き、紅茶がテーブルに流れそうになる。
しかしリリアンヌは一瞬でハンカチを差し出す。
「ほら、次は右手で持ちなさいな」
ベアトリスは驚いた顔でカップを押さえながら目を丸くする。
「あれっ!? すごい反射神経!」
リリアンヌは扇子で口元を隠し、心の中で淡々とつぶやく。
(百回目の練習成果よ……これもルーチンのひとつ)
周囲は何事もなかったかのように紅茶会が続く――いつもの学園世界の、定番の騒動。
イザベラは眉をひそめ、ドレスの裾を押さえながらため息をつく。
「紅茶会で卓がびしょ濡れなんて……もう、本当に油断も隙もないわね」
マルグリットは鳥をそっと手に乗せ、楽しそうに笑う。
「わぁ、この子、手乗りしてくれるの……!」
紅茶会の騒動など、まるで耳に入っていない様子。
一方、シャルロットはページを閉じることなく真顔で語り続ける。
「ヒロインの存在意義を考えれば、この事故も物語構造上、必然と言えるわ」
リリアンヌは扇子で口元を隠し、視線だけで四人の様子を観察する。
(本当に……この面子、百回見ても飽きないわね)
リリアンヌはハンカチをそっとテーブルに戻し、扇子で口元を隠して小さく笑う。
(フラグ回避? こんなの朝のストレッチみたいなものよ。百回目ともなれば、危機も余裕で楽しめるわね)
目の端で紅茶会メンバーを確認しつつ、今日もまた平穏(?)な日常が始まることを予感する。




