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悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


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17/23

私は、自分で選ぶ……

 夜の街がざらつくような電子ノイズに包まれた。

 ネオンが明滅し、通りを行き交う人々の輪郭が一瞬だけぼやけ――次の瞬間、まるで誰かが舞台の背景を入れ替えたかのように、建物の配置すら別物にすり替わっていた。

 高層ビルのガラス窓には、過去世界の断片がフラッシュのように走る。

 王宮の回廊、学園の教室、庭園での紅茶会――その全てが夜の都市に重なり、ひどく不気味な多重露光となる。

「……記録の整合性が崩壊してる」

 ベアトリスが携帯端末を睨みつけ、低く呟いた。

「99%一致じゃない……もう、100%だわ」

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 むしろ――沈黙の中で、シャルロットとイザベラが一瞬だけ視線を交わす。

 その目は、紅茶会の仲間のものではなかった。

 まるで自分たちが“役”を演じていると知っているかのような、醒めた光が宿っていた。

 リリアンヌの背筋に冷たいものが走る。

 ――みんな、本当に無自覚なの? それとも私以外も……“役”を演じてるの?

 高架下の闇に、ネオンの光が波打つ。

 ホログラム広告の映像がざわめき、文字や映像が微かに崩れた瞬間――そのノイズの裂け目から、オスカーが静かに姿を現した。

 宮廷風の礼服と、未来都市のメカパーツが奇妙に組み合わさった異形の装い。

 まるで時代の継ぎ接ぎのように、過去と未来が彼の身に混ざり合っている。

 視線はリリアンヌにまっすぐ向けられ、声は穏やかだが、確実に張り詰めた緊張感を含んでいた。

「……久しぶりだな、リリアンヌ。」

 その一言だけで、街の空気が一瞬止まったように感じられた。

 背景のネオンは、まるで彼の存在を映すかのようにちらつき、街の音も微かに吸い込まれる。

 リリアンヌの心臓が、胸の奥で小さく跳ねた。

 ――彼はただの観客じゃない。何かを決め、動かす存在。

オスカーの視線が夜の街を切り裂くようにリリアンヌを捉える。

 彼の声は低く、しかし冷静さを保ったまま、言葉はひとつひとつ重みを帯びて響いた。

「……この舞台は、もう崩壊寸前だ」

 ネオンの光が彼の輪郭を揺らし、都市の雑踏が遠のくように感じられる。

 そして、さらに言葉が続く。

「君が“役”を演じ続ければ、終幕にたどり着ける。だが、壊すこともできる」

 リリアンヌの胸が小さくざわめく。

 声の冷たさの奥に、どこか迷い――葛藤が隠されていることに気づく。

「もし壊せば……君自身も、消えるかもしれない」

 暗闇に吸い込まれるような緊張感。

 選択を迫る言葉が、街全体の光を重く支配する。

「百回目は――君が選べ」

 その瞬間、リリアンヌの心に熱い決意が芽生える。

 もう誰かの駒では終わらない――自分で、この舞台を選ぶのだ。

リリアンヌは一歩後ずさり、夜の街のネオンが彼女の瞳に反射する。

 震える声で吐き出した。

「舞台を完遂させて私を終わらせる? それとも壊して全部を消す? …そんなの、選べるわけない!」

 しかしオスカーの視線は揺らがず、静かに、でも確実に告げる。

「選ばなければ、舞台が勝手に選ぶ」

 その言葉が、リリアンヌの胸をぎゅっと締めつける。

 鼓動が耳元で響き、街の喧騒すら遠くに感じる。

 内心では、彼女の葛藤が渦巻く。

(駒のままで終わりたくない……でも壊せば、みんなも消える……)

 夜風に揺れる髪の先まで、決断の重みが押し寄せる。

 そして、視線を真っ直ぐに前に向けた。

 「私は、自分で選ぶ……」

リリアンヌの視線が高架下のネオン街をさまよう。

 オスカーは静かに、しかしその声だけは胸に突き刺さる。

「選択肢は二つだ」

 一呼吸置き、低く続ける。

「断罪イベントで散る……それがループの完遂だ。舞台の勝利だな」

 リリアンヌの心臓が跳ねる。

「もう一つは……転生そのものを破壊する。舞台は崩れ、君も、みんなも――消える」

 背を向けるオスカーの肩越しに、残響のように響く言葉。

「どちらにせよ……百回目で決着がつく」

 その瞬間、街のネオンが一斉にノイズを走らせ、オスカーの姿は音もなく掻き消えた。

 リリアンヌの胸に、決断の重さだけが残る。

 そして、風が揺らす紅茶会の残像が、未来の選択を暗示していた。

高層ビルの屋上。夜風が髪を揺らし、ネオン街の光が波のように都市を包む。

 下を見下ろす紅茶会のメンバーは、まるでいつも通りに動いている――だが、リリアンヌの目にはどこか演技じみて映る。

 そして、一瞬、街のネオンが止まり、巨大スクリーンに数字が走る。

 「99→100」

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる感覚。

 過去のループ、東洋宮廷、学園、未来都市――すべてが、彼女の目の前で重なり合う。

 リリアンヌは紅茶のカップを握り締め、低く、しかし確かな声で自分に言い聞かせる。

「もう駒のまま終わる気はない……」

「私が選ぶ。百回目の舞台で。」

 夜風にのせて、決意の言葉が静かに都市を駆け抜ける。


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