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悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


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16/23

この盤面、誰が並べているの?

夜の空気が一瞬だけざわめく。

次の瞬間、眼前の街並みが光の軌跡を残しながら瞬時に書き換わる。ネオン広告の文字がフラッシュし、ホログラムがほのかに重なり合って弾けるように散る。

高層ビルの屋上に立つ紅茶会の面々も、まるで舞台装置のように同じ位置に再配置される。

シャルロットは権力者然とした立ち姿、イザベラは冷静な監察官の目つき、ベアトリスは端末を構え、マルグリットはカップを揺らす――

すべてが揃いすぎて不自然。

リリアンヌの視線が巡るたび、世界の“舞台装置感”が濃くなる。

まるで誰かの手で、盤面に駒が並べられるかのように――。

の光が一瞬で組み替えられ、ビル群が異なる表情を見せる。

その最中――シャルロットの視線が、ほんの刹那だけリリアンヌに突き刺さった。

それは重役としての冷ややかな眼差しではない。

まるで舞台裏から観客席を覗き込む俳優のように――“自分の役割を理解している”者の視線。

すぐに彼女は口元に微笑を浮かべ、何事もなかったかのように紅茶のカップを傾けた。

だがリリアンヌの胸の奥には、氷の棘が残る。

(いまの目……シャルロットも、“知ってる”の……?)

風を切る警備ドローンの音を背に、イザベラが何気なく口を開いた。

「規律が崩れれば……世界は壊れる。そう決まっているはずよ。」

柔らかな声色のはずなのに、その瞬間だけわずかに温度が下がった。

無意識に台詞をなぞる俳優のような――しかし、背後に冷たい知性が潜んでいる響き。

リリアンヌの背筋に、理由のない寒気が走る。

(今の……警告? それとも、ただの“役作り”?)

次の瞬間にはイザベラは微笑み、何事もなかったかのように会話を続けていた。

ベアトリスは、紅茶会のテーブルに無造作に置かれたタブレットを指先でなぞった。

スクリーンに浮かび上がる都市のデータは、時系列がねじれたように歪んでいる。

「……やっぱり、妙ね。」

彼女の声は氷のように冷たく、しかしどこか愉しげでもあった。

リリアンヌが問いかける前に、ベアトリスは淡々と続ける。

「この世界の記録、改ざんされてるわ。――痕跡が残ってる。」

画面に現れた数字は、見慣れた“過去世界”とほとんど同じ構成を示していた。

99%の一致率。

それは偶然とは呼べない精度だ。

リリアンヌの心臓が跳ねた。

(改ざん……? じゃあ、この世界は“コピー”なの……?)

ベアトリスはそんな彼女を見もせず、紅茶を一口だけ啜った。

「台本通り、ってわけね。」

マルグリットは何事もないような顔で、紅茶の表面をスプーンでゆるく回した。

カップの中の液面が小さく渦を描き、淡い香りがゆっくりと立ちのぼる。

「でも――」

彼女は軽く息を吐き、視線を上げる。

「台本があるなら、次のページを見たいわね。」

淡々とした声色。

けれど、その口元に浮かんだ笑みは、優雅さの奥にかすかな冷たさを宿していた。

リリアンヌの背筋をかすかに冷たいものが走る。

(……今の言い方、まるで“自分が芝居の中にいる”って知っているみたい。)

マルグリットは何もなかったかのようにスプーンを置き、紅茶をひと口。

その笑みだけが、長く脳裏に焼きついた。

夜景が一瞬、光の線を引いてねじれた。

ネオンの色調が反転し、ホログラム広告が別の企業ロゴに切り替わる。

――まるで舞台転換の合図。

気づけば、高層ビルの屋上に紅茶会の面々が揃っていた。

さっきと同じ配置で、さっきと同じ視線で。

リリアンヌは胸の奥がざわめくのを抑えられなかった。

(……みんな……無自覚なの?

 それとも、私以外も“役”を演じているの……?)

手元のカップに視線を落とした瞬間、紅茶の表面に淡い残像が揺れた。

――学園の中庭で見上げた桜並木。

――宮廷の舞踏会で踏んだ大理石の床。

一瞬で消えたその像が、世界の記憶が連続している証拠のように胸を突き刺す。

リリアンヌは唇をきゅっと結び、視線を上げた。

(この舞台……本当に私だけが観客じゃないの……?)

カップの中で紅茶が小さく揺れ、表面に街の光が反射した。

カメラがそこへ寄っていく――液面の向こうで、未来都市の夜景が細かなタイルのようにモザイク状に崩れ始める。

高層ビルの輪郭がかすかにずれ、ホログラム広告が滲んでは書き換わる。

一瞬の沈黙――いや、沈黙ではない。

電子音、遠くの雑踏、そして場違いな鐘の音がかすかに重なり、不協和音となって耳を刺す。

液面が再び揺れた瞬間、都市の景色は元通りに組み上げられる。

まるで舞台装置の転換を、ほんのわずかなスキマから覗いてしまったかのように。

紅茶の揺れる液面に、自分の顔が揺らめいて映る。

世界はまた組み直された――そうとしか思えない光景を見せつけられて。

胸の奥に言葉が沈む。

「……この盤面、誰が並べているの?」

カップをそっと置き、唇が自然と震える。

「私だけが駒じゃないなら……次は誰が、私の選択を見ているの?」

夜の街のネオンが一瞬だけ瞬き、まるで応えるように光が揺れた。


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