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悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


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11/23

現代学園編 ほんとに学習しないわね、この世界の“仕掛け人”は

――軍楽が鳴り響く王都の広場。

 王女シャルロットの声が朗々と勅令を読み上げる。

「リリアンヌ・アシュレイ、昇進を命ずる!」

 眩い陽光、拍手の渦。

 その瞬間、視界が真っ白に染まった。


「……ん?」

 瞼を開けると、見慣れぬ天井。

 教室の蛍光灯が目にしみる。

 硬い軍靴も、きっちり糊の利いた制服もない。

 代わりに――ブレザーの袖口。

 机に突っ伏していたリリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。

(……今度は学園もの? まぁ、軍服よりは柔らかいけど)

 廊下から聞こえる昼休みの喧騒。チャイムの余韻。

 ――嫌な予感しかしない。

(さて、また“断罪イベント”ってわけね)


 ガラリと扉が開く。

 見覚えのある金髪が颯爽と現れる。

 シャルロット、生徒会長仕様。

「リリアンヌ、昼休みよ。行きましょう?」

 その後ろから、冷たい視線が突き刺さる。

 イザベラ、風紀委員長仕様。

「……あなた、また何かやらかしたんじゃないでしょうね?」

 さらに、実験器具の箱を抱えた快活な声。

 ベアトリス、化学部所属。

「ねえねえ、今日の実験手伝ってよ、面白いのができそうなんだ!」

 最後に、のんびり眠たげな顔がひょこりと覗く。

 マルグリット、保健室助手モード。

「リリアンヌちゃん、お昼寝するなら保健室に来てね~」


 ――顔ぶれはまったく同じ。

 ただ制服が変わっただけ。

(……やっぱりね。舞台が変わってもキャストは固定ってわけ)

 リリアンヌは頬にかかる髪を払い、くすりと笑った。

(いいわよ、今回も“断罪回避”してあげる)

昼休みの校内SNSがざわついていた。

 通知音が鳴り止まない。

 ――拡散されているのは一枚の画像。

 それは、リリアンヌがクラスメイトを突き飛ばしている決定的瞬間――に見える写真。

 実際は雑な加工。だが、画質を落としてアップロードされたそれは、誰の目にも「本物っぽく」見えた。

 教室の空気が、一気に冷たくなる。

 ひそひそ声が四方から刺さった。

「リリアンヌ様がいじめを……?」

「やっぱりあの高飛車な態度がね……」

「学園でもやることは同じか……」


 ドンッ――勢いよく教室の扉が開いた。

 鋭い視線を走らせながら入ってきたのは、風紀委員長のイザベラ。

「――リリアンヌ・アシュレイ!」

 全員が息をのむ。

「この学園でのいじめ行為は重大な規律違反。

 風紀委員として、クラス裁判を開催するわ」

 ざわめきがさらに広がる。

 そこへ、生徒会長のシャルロットが静かに現れた。

 彼女の冷静な一言が、教室を一層重苦しくした。

「――学園の秩序を守るため、私も臨席します」


 視線が一斉にリリアンヌに集まる。

 だが彼女は机に肘をつき、頬杖をついたまま薄く笑った。

(はいはい、“断罪イベント”ね。で、今回は停学処分ってわけ)

 動揺の色は一切ない。

 それどころか、まるで既に次の一手を考えているかのように――。

放課後の教室は、即席の裁判場に変わっていた。

 黒板には「特別クラス裁判」と大きく書かれ、机の配置は円形。

 中央に座らされたリリアンヌを、級友たちの視線が取り囲む。


「――証拠は揃っている!」

 風紀委員長・イザベラの声が鋭く響いた。

 教壇の上に並べられたスマホ画面。

 リリアンヌがクラスメイトを突き飛ばす瞬間を切り取った写真。

 続けて、いじめを示唆するチャットログ。

 さらに、数人の証言が“奇妙なほど完全に一致”している。

「画像、メッセージ、目撃談――すべてが一致しているのよ」

 イザベラは冷たく断じる。

「あなたがやっていないと言うなら、どうやって説明するの?」


 しかし、当のリリアンヌは焦った様子を見せなかった。

 机の上に軽く指先を置き、視線だけでイザベラを見返す。

(……綺麗すぎる証拠は、だいたい“作られた証拠”よ)

(ほんとに学習しないわね、この世界の“仕掛け人”は)


 そのとき、ぽつりと呟いたのは化学部のベアトリスだった。

「……あの画像、私ならもっと上手く作れるけどなぁ」

 くすりと笑う彼女の声に、教室がざわつく。

 イザベラが眉をひそめる。

「今のはどういう意味?」

「別に。ただの感想~」


 さらに保健室助手のマルグリットが、のんびりした調子で口を挟んだ。

「でもさぁ、その時間リリアンヌちゃん保健室にいたよね~?

 ほら、頭痛がどうとかでベッドで寝てたじゃない」

 一瞬、証言の整合性にほころびが走る。

 教室のざわめきが二重三重に広がった。


 それでもイザベラは声を張り上げる。

「静粛に! 風紀委員として断じて見逃さない!」

 リリアンヌは頬杖をつき、ふっと微笑む。

(いいわ、そのまま勢いよく断罪してちょうだい――

 私が逆転するタイミングが、もっと鮮やかになるから)

 教室の空気が張りつめていた。

 風紀委員長イザベラの声が再び響く。

「証拠は揃っている――いい加減、認めたらどう?」

 しかし、リリアンヌは動じなかった。

 ゆっくりとポケットからスマホを取り出す。

「揃っているのは、“仕組まれた証拠”よ」

 その声音は驚くほど冷静で、挑発的ですらあった。


 同時に、校内放送のスピーカーがパチリと鳴る。

 ――『あの王女気取り、次のターゲットにしようぜ』

 ――『画像とチャット、俺が仕込んでおく』

 男の声が教室中に響いた。

 クラスメイトたちの視線が一斉に動揺に揺れる。

「まさか……!」

「この声、○○じゃないか!?」

 リリアンヌは唇をかすかに吊り上げた。

「アップロード元のログは全部押さえてあるわ。

 証拠を“作った”のは、あなた――ライバルくん」


 そこへベアトリスが、化学部特製の機材を持ち込む。

「ついでに、証拠画像なんていくらでも捏造できるって見せてあげるよ~」

 彼女がスマホをかざし、わずか数秒で別人を犯人に仕立て上げる“リアルタイム加工デモ”を披露した。

「ほら、イザベラだって簡単に悪役にできちゃうよ?」

「やめなさい!!」

 教室がどよめく中、証拠の信憑性が完全に崩れていく。


 最後の一撃は、のんびりとした声で放たれた。

マルグリットが診断書をひらひらさせながら――

「ねぇねぇ、これ見て~。リリアンヌちゃん、その時間保健室でぐっすり寝てたって記録、残ってるよ~」

 真犯人は言葉を失い、教室は静まり返った。


 リリアンヌは立ち上がり、勝ち誇ったように宣言した。

「――以上で、“断罪イベント”は無効化完了。

 さて、次はどんな茶番が待ってるのかしら?」

 その声に、シャルロット(生徒会長)はかすかに微笑む。

「やれやれ……また君に借りができたね」

 イザベラは悔しそうに唇をかむ。

 屋上に集まった4人――リリアンヌ、ベアトリス、マルグリット、そしてシャルロット。

 紙コップに紅茶を注ぎながら、リリアンヌが言った。

「断罪回避の紅茶で乾杯よ。……でも、また同じ顔ぶれね」

真犯人は机に崩れ落ち、声にならない言い訳を繰り返していた。

 噂も証拠も、一瞬で瓦解する――停学フラグは無効化だ。

 生徒会長シャルロットが席を立ち、柔らかく微笑む。

「事実が明らかになって良かったわ。学園の名誉も守られたしね」

 風紀委員長イザベラは腕を組んで顔を背ける。

「……今回は見逃す。でも、次はこうはいかないわよ」

 それは負けを認める宣言でもあった。

 ベアトリスが元気よく手を挙げる。

「やっぱり私のデモ実験が決め手だったよね!?」

 自画自賛に教室の何人かが苦笑する。

 マルグリットはのんびりあくびをしながら、

「紅茶飲もー、もう眠いよ~」

 と全てを丸く収める一言。


 放課後、校舎の屋上に4人が再集合。

 紙コップに注がれた紅茶が、西日の光を受けてきらめく。

 リリアンヌはカップを軽く掲げ、

「――断罪回避の紅茶で乾杯よ」

 と声をあげた。

(モノローグ)

「さて……次はどんな舞台? 軍服より柔らかくて、ブレザーよりマシなのがいいんだけど」

 笑い声が風に乗る中――

 フェンスの向こうで、一瞬だけ不自然な笑みを浮かべるオスカーの影。

 その視線だけが、次の転生世界への予兆を告げていた。

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