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悪役令嬢リリアンヌ 百回転生記  作者: 南蛇井


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軍事国家編 また同じ顔ぶれね

空砲が響きわたる訓練場。候補生たちの怒号と靴音が、乾いた砂塵を巻き上げていた。

 リリアンヌは迷彩塗装の装甲車の影から状況を見ていた。

「――弾薬庫の火薬、量が合わない?」

 副官が青ざめた顔で報告する。

「さっきの点検では確かに――」

 その瞬間、爆音が響いた。訓練場の片隅に置かれた予備弾薬が小規模に爆ぜ、黒煙が立ちのぼる。

 誰もが訓練用の模擬爆薬だと思ったが、火薬の匂いは本物だった。


 数時間後、臨時査問会が開かれた。

 リリアンヌは軍服の詰襟を正し、静かに席に着く。

「候補生リリアンヌ・フォン・アルノー」

 冷たい声で名を呼んだのは、監査役のイザベラだった。鋭い瞳が彼女を射抜く。

「あなたが弾薬庫の管理に関わっていた記録がある。さらに――」

 机の上に置かれたのは、ベアトリスの私物の工具袋。爆薬の残渣が検出されたという報告書が添えられていた。

「待って、それは――」ベアトリスが立ち上がるが、イザベラの冷徹な視線に押し黙る。


 そこに、視察中の王女シャルロットが現れた。

「どういうことなの? 士官学校で爆発騒ぎ? しかも暗殺未遂だなんて」

 彼女の声は平静を装っていたが、緊張が走る。

 イザベラが続ける。

「現場にいたのはリリアンヌ候補生。証拠も揃っている。規律違反、そして王女殿下への危険行為。弁明は?」

 リリアンヌは静かに視線を上げた。

 その表情には動揺も恐怖もなく、むしろ呆れすら浮かんでいる。

(はいはい、また“断罪イベント”ってわけね)

 内心でため息をつきながら、唇だけでつぶやく。

「仕組まれている……そういうことね」

軍旗が掲げられた法廷室は、ひやりと冷たかった。

 候補生たちが傍聴席に並び、緊張に息を詰めている。

 中央の証言台に立たされたリリアンヌは、背筋を伸ばしたまま表情ひとつ変えなかった。

 監査役イザベラが、軍服の肩章をかすかに揺らしながら立ち上がる。

「候補生リリアンヌ・フォン・アルノー」

 冷徹な声が、天井の高い室内に響く。

「証拠はすべて揃っている。弾薬庫への不正侵入記録、爆薬残渣の検出、そして視察中の王女殿下の動線を狙った痕跡……」

 彼女は手元の資料を机に叩きつけるように置いた。

「軍規違反と王女暗殺未遂――弁明はあるか?」

 ざわめきが広がる。

 ベアトリスが傍聴席で身を乗り出すが、周囲の視線に押さえつけられた。

 シャルロットは王女の立場で席に着き、言葉を発せずただ見守っている。

 リリアンヌはゆっくりと視線を上げた。

 その瞳は、恐怖ではなく諦観にも似た静けさを宿している。

(はいはい……今回も“標的”は私、ってわけね)

(証拠まで完璧に揃えてくるなんて――まるで最初から仕組まれているみたいじゃない)

 彼女は一言も発さず、法廷室に沈黙が落ちる。

 その無言は、逆に挑発のようでもあった。

 イザベラが眉をひそめる。

「沈黙をもって罪を認めると解してよいのだな?」

 リリアンヌは小さく肩をすくめ、口角だけで笑った。

(断罪フラグね……でも、ここで首を垂れるほど素直じゃないわ)

士官学校の大講堂。

 候補生から上官までぎっしりと詰めかけ、公開尋問が始まろうとしていた。

 断罪の空気が張り詰め、誰もが“罪人”を見る目でリリアンヌを見下ろしている。

 その扉が勢いよく開いた。

 リリアンヌが堂々と歩み入り、その後ろにはふらつく足取りで支えられたひとりの男――弾薬庫の倉庫番。

 マルグリットが懐から小瓶をしまいながら、のんびり笑っている。

「な……その証人は意識不明のはずでは?」

 イザベラが眉を上げる。

 リリアンヌは証人を前に立たせ、周囲を見渡して声を張った。

「聞かせてあげるわ。この場に集まった全員にね」

 倉庫番の兵士が震える声で告げる。

「……弾薬庫に仕掛けをしていたのは――○○中尉でした……! 私はその現場を見て……」

 ざわめきが一斉に広がった。

 前列で顔色を失う○○中尉。

 リリアンヌは指先で何かを弾くような仕草をして、机の上にひらりと封筒を投げた。

「罪を着せるつもり? 残念、証拠はこっちにあるのよ」

 封筒から現れたのは、上官が計画を指示する書簡の写し、そして音声記録の水晶片。

 ベアトリスが用意した“逆探知の罠”で記録された、爆薬に細工した瞬間の音声まである。

 会場がどよめく中、リリアンヌはわざと軽くウィンクした。

「模擬戦の爆薬? あれ、私たちが仕込んだ“おとり”よ。本命の仕掛けを追跡するためにね」

 イザベラが唇を結び、王女シャルロットがわずかに頷く。

 追い詰められた○○中尉が逃げ出そうとした瞬間、憲兵に取り押さえられた。

 会場の空気が一変する。

 リリアンヌは証言台の前に立ち、静かに宣言した。

「――以上で、私への嫌疑は晴れたわね?」

 観衆の中から拍手がわき起こり、そのまま彼女の勲功式と昇進勅令へと場面は移っていく――。

雲ひとつない王都の空。

 荘厳な王宮前広場に軍楽が鳴り響き、整列した士官候補生と観衆のざわめきが一斉に静まる。

 壇上に立つのは王女シャルロット。その背後で掲げられた軍旗が風をはらんだ。

「リリアンヌ・フォン・アーデルハイト候補生。

 貴殿は王国の防衛に寄与し、陰謀を未然に防ぎ……よって、ここに昇進を命ずる」

 高らかに読み上げられる勅令。

 リリアンヌは軍礼の姿勢をとりつつ、内心でため息をついた。

(断罪イベント、回避完了……。でも、また同じ顔ぶれね)

 横目に見れば――

 イザベラは渋い顔で「規律違反なし」を認め、

 ベアトリスは「ほらね、私の実験が役に立ったでしょ!」とにやにやし、

 マルグリットは「よかったぁ、薬が間に合って……」とのんびり笑っている。

 いつものメンバーが、それぞれ別の役柄で、まるで舞台の配役を変えただけのように。

 軍楽が再び鳴り響き、観衆が歓声をあげた瞬間――

 視線の端に、オスカーが立っていた。

 整列する候補生の中で、ただひとり意味ありげな微笑を浮かべている。

 それは祝福とも、別れともつかない、不自然な笑みだった。

(……やっぱり何か、変。ループの糸を操ってるのは――)

 思考がそこまで至ったとき、祝砲が轟いた。

 その音にかき消されるように、オスカーの姿が群衆の中に紛れて消える。

 リリアンヌは勲章を胸に受け取り、観衆の歓声に軽く微笑み返した。

(次の舞台がどこでも――私は踊らされない)

 軍楽がクライマックスに達し、幕が下りる。

 ――軍事国家編、終幕。

 そして、次の転生世界――現代学園の影が、静かに忍び寄っていた。

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