3 学園生活
よろしくお願いします。
「ところで、リミル、今日も学園はお休みするの?」
黙々と食事を進めていると、お母様が聞いてきたので、反射的に顔を上げる。
「今日も、ですか? 私は学園を休んだつもりはなかったのですが‥‥‥」
私の返答を聞いたお母様が不思議そうに片眉をあげた。
「昨日、学園は普通にあったわよ? お休みしたんじゃなかったの?」
私は驚いてスプーンを取り損ね、床に落としてしまう。
「え、てっきり、休みだと‥‥‥!」
だって、お姉様とお兄様は同じ学園に通っているし、そのお姉様たちが昨日はずっと家にいたのだから、学園はお休みのはずだ。
それなのに、どうして‥‥‥?
お姉様とお兄様を交互に見つめると、二人は目を泳がせたのち、フイっと顔を反らした。
え、これってやましいことをしているときの反応よね?
どういうことなのかしら? やっぱり、お母様の言う通り学園はあったということ?
「お兄様、お姉様、どういうことなのでしょうか?」
ズイっと顔を近づけると、二人の目があっちこっち移動しているのがよく見える。
「あ~、まあ、なんだ」
「こ、子供は知らなくていいことなのよ~‥‥‥」
「お兄様、お姉様! お答えくださいませ!」
私がさらに詰め寄ると、二人ともとうとう観念したように口を開いた。
「まあ、なんだ、あれだ‥‥‥」
言いづらそうにするお兄様を押しのけ、お姉様が説明し始める。
「昨日、私もルイルもリミルも本当は学園に行かなければだったのだけれど、リミルが倒れたのが心配で、行かなかったのよね」
お姉様の説明を聞き終わった私は、目を真ん丸にした。
「そうだったのですかっ!? でも、お兄様とお姉様は行ってくださってよかったのに」
「リミル、レイルの言葉を信じてはだめだぞ? レイルもルイルも、ただ単に学園をサボりたくて、リミルを口実にしているだけだから」
突然口をはさんできたお父様の言葉を聞き、私はじとりとした視線をお兄様とお姉様に送る。
「~♪」
わざとらしく口笛を吹き始めたお兄様を見て、私はため息をこぼしたのだった。
△▼△
結局、今日は学園に行くことになった。
行きたくないとまるで子供のように駄々をこねる兄姉を前に、どれだけ私が苦労したことか。
まあ、最後は私の粘り勝ちで学園に行くことが決まったのだけれど‥‥‥。
もうあんなことはしたくないわ‥‥‥。
そして、当然だが。
お兄様とお姉様が駄々をこねていたせいで、一時限目に間に合わなかった。
二時限目の途中に入ってきた私に、みんなは何か言いたそうな表情だったけれど、授業中のため、何も言われることなく席に着いた。
――――のだが。
「リミル~。どうして遅れたの~? ルル、リミルがいなくて寂しかったんだよぉ?」
先生の目も気にせず、私にすり寄ってくる少女。
位は公爵令嬢で、私より身分は下なのだが‥‥‥。
" 階級が上の者に自ら話しかけてはいけない " という当たり前のルールを知らないのだろうか。
いつもは教室に入った時にみんなに挨拶をするのだが、今日は私は誰にも話しかけていないのだ。
そして、この教室内では伯爵令嬢の私が一番上の位なので、他の誰かが自分から話しかけることはできないのだが‥‥‥。
どうやら、この少女はそんなことも知らないらしい。
一瞬顔をしかめるも、さらに体をくっつけてくる彼女に向かって、私は無理やり笑みを向けると、丁寧な言い方で " お願い " する。
「ルルさん、少し離れていただけませんか?」
まあ、ルルより私のほうが位は上なので、これは実質 " お願い " ではなく、 " 命令 " だ。
そして、自分より位の高い者の命令を背くことはできない。
そう、できないはずなのだが‥‥‥‥。
「やぁ~ん、ルルはリミルと居たいのぉ~。離れちゃやだもん」
‥‥‥‥‥貴女、やっぱりこの言葉の意味を分かっていませんよね!
これは " 命令 " なの!
貴女が却下できるようなモノじゃないんだからあぁーっ!!
私は心の中で憤慨するが、公爵令嬢という身分を持つ手前、感情のままにふるまうことは許されないため、授業に集中することにする。
そもそも、先生が注意してくれれば早いのだが、この女、デキるらしく、先生の大のお気に入りの座に位置しているのだ。
なので、滅多なことでも起きなければ先生がこの子を注意することはない。
私はこれからの学園生活を思い、深くため息をついたのだった。
閲覧ありがとうございました。