2 前世の私
よろしくお願いします。
朝日が眩しい。
私は窓から入ってくる光によって目を覚ました。
ぼんやりとする頭で、昨日思い出した前世の記憶について考える。
前世の私は――― " 川島凛音 " として生活していた。
前世で住んでいた世界は、ここと似ているようで全く違う、『地球』という場所。
さらに言えば、私は、地球の『日本』という国で生活していた。
日本には階級などはほとんどなく、貴族というものが存在しない。
なので、階級が上の人に自分から話しかけることはできない貴族社会とは違い、誰でもいろいろな人に話しかけることができる。
一見、それは良いことに見えるだろう。
だが‥‥‥裏を返せば、それは " 相手を『階級』という力で無理にでも遠ざけることができない " ということになる。
前世の私は人に懐かれやすい顔と性格をしていて、四六時中、人に付きまとわれていた。
それが私には嫌だったのだが、自分を好いてくれている人たちにそんなことを言えるはずもなく、結構辛い思いをした。
例えば。
私を好きになった男子たちが意地悪をしてきたり。
あぁ、女の子に好かれたこともあったかしら。
その時はその子がメンヘラ化してしまい、男子の意地悪よりも大変だったわ‥‥‥と、私は思わず遠い目になる。
とまあ、こんな感じで、私はあまり人付き合いにいい思い出がないのだ。
だからこそ、今世は人間関係でのトラブルを極力避けるたい。
そのためには、嫌われることが必須だろうと私は考えている。
ただ、嫌われる方法がわからないのだ。
どうすれば嫌われ者になれるのだろうか。
意地悪をするのは好きではないのよね‥‥‥。
思考を重ねるうちに頭がだんだんとハッキリしてきて、目もさえてくる。
‥‥‥そうだわ。
そもそも、今の私は人気者ではないかもしれないじゃない!
前世の私と今世の私は違うもの。
私は学園の中の自分をイメージする。
教室に入って‥‥‥挨拶をして‥‥‥みんなも挨拶を返してくれて‥‥‥それから、私が読書をし始めようとすると必ず誰かが話しかけてくるから、読書ができなくて‥‥‥結局談笑した後、ホームルームが始まって‥‥‥‥‥‥‥‥あら?
こ、これは好かれている範囲には入らないわよね?
人気者に‥‥‥入らないわよね?
え、は、入らないわよね。ええ、きっとそうよ!
私は無理やり自分を納得させると、体を起こす。
そろそろ考えるのはやめて、魅惑のもふもふを堪能しようと思ったのだ。
「アース、起きてる?」
私がアースに呼びかけると、本棚の裏からアースがのそのそと現れる。
アースは何故か、私が寝入った後に眠るのだ。
だから、私はアースが寝ている姿を見たことがない。
しかも、毎回違う場所で眠るものだから、毎日かくれんぼの鬼をしている気分だ。
「おいで、アース!」
私が両手を広げると、アースは嬉しそうに駆け寄ってくる。
私は飛びついてくるアースを受け止め、もふもふな毛に顔をうずめる。
あぁ~‥‥‥。
朝はやっぱりこれだわ‥‥‥。
私はさらに顔を毛の中にうずめ、アースのお日様のようなにおいを十分に堪能する。
しばらくするとアースが嫌がりだしたので、私は大人しく手を放す。
床に着地したアースは、一言「にゃー」と鳴き、優雅に去っていった。
シェフにご飯でもねだりに行くのだろう。
「私もお腹が空いてきたわ‥‥‥ご飯、食べないと‥‥‥」
のろのろと亀のような動きで部屋を出ると、ばったりお兄様と行き会った。
「どうぞ、お手を」
お兄様がうやうやしく手を差し出してくるのを、私はきょとんと見つめる。
‥‥‥これはお兄様なりの遊びなのかしら?
微動だにしないお兄様をもう一度見つめ、やっぱり遊びだわと判断した私は、肩を軽くすくめてからドレスのすそを持ち上げ、会釈する。
そしてお兄様の手を取ると、お兄様は流れるように私をエスコートし、リビングへ連れて行ってくれる。
最後にお兄様に「ありがとうございました」というと、小さく笑って「どういたしまして、プリンセス」と返された。
まあ、私のお兄様は本当に紳士ね!
お兄様の妹に生まれてよかったわと思いながら、私は食事の席に着いたのだった。
閲覧ありがとうございました。