プロローグ
新シリーズです。
よろしくお願いします。
それは、私、リミル・アレクスがのんびりと読書をしているときに、突如起こった。
「えっ? 何この記憶は!?」
明らかに私の記憶じゃない情報が、次々と頭に流れ込んでくる。
突然部屋のど真ん中で叫んだ私に、家族の訝し気な視線が集中する。
「リミル、どうしたの?」
お姉様が不思議そうに読書の手を止め、聞いてきた。
ダラダラと冷汗が止まらない。
「あ‥‥‥えへへ‥‥‥。な、なんでもないです。いきなり大きい声上げてすみません~‥‥」
私は混乱しながらもへらりとした笑みを浮かべ、そそくさと自分の部屋へ向かった。
やってしまったな‥‥‥、と思いながら自室のドアを開けると、ふわふわの塊が顔に飛びついてきた。
「わ、アース! 危ないでしょ~」
私は愛猫のアースを顔から引きはがし、床に下ろした。
オッドアイの瞳が、愛くるしく私を見つめている。
くぅ~っ、うちのアースちゃんは何て可愛いのかしら!!
私はアースの可愛さに身もだえしながら、自室に足を踏み入れた。
途端に嫌でも目に入ってくる、全く整理されていない机。
ベッドの上にはぬいぐるみが適当にほっぽり出されており、挙句の果てには床にまで物が散らばっている。
整理されていないのに、使いやすいから不思議よね~。
そんなことを思いながら、私はベッドにダイブする。
「さあ、まずは状況を整理しなくっちゃね」
私は先ほど入ってきた情報を、ゆっくりと頭から引っ張り出す。
‥‥‥‥‥ふむふむ、なるほどね。
先ほどの記憶は、川島凛音という女性の記憶ね。
‥‥‥あら? 随分この世界と景色が違うわね。
えーっと。チキュウ?って言うのね、その場所は。
私は一旦ベッドから飛び降り、足元にじゃれついてくるアースを踏まないように気を付けて机に歩み寄る。
「確かここに‥‥‥。あ、あったわ」
私は新品のノートとペンを取り出し、取り合えず状況をノートに書きつけてみることにする。
――――――――――――――――――――――――――
この記憶は、川島凛音という女性の記憶である。
彼女が住んでいるのは " チキュウ " という場所であり、この世界とは違うものの可能性が高い。
〈川島凛音と私の共通点〉
・猫を飼っている
↑ 猫を溺愛
・読書が好き
――――――――――――――――――――――――――
‥‥‥わかっていることは少ないわね。
そして―――――恐らく、この記憶は私の前世のものなのだろう。
根拠として、二つの理由が挙げられる。
一つ目。記憶の中の風景は、私は見たことがないものだったけれど、何故かとても懐かしく感じた。
二つ目の理由としては、私と " 川島凛音 " の共通点が、『猫を飼っている』、『猫を溺愛している』、『読書が好き』というものだったことだ。
私は貴族社会でも有名な『猫好き』、『読書好き』である。
それはもう周りが引くほど、猫と本が大好きなのだ。
そして、その部分が共通しているのであれば、この記憶は前世の私と見て間違いないのだろう。
前世の強い欲求などは今世にも残るっていうし。
もっともっと読書をしたり、猫を可愛がったりしたいという前世での欲求が、今世にも影響しているのではないだろうか。
ただ‥‥‥腑に落ちない部分がある。
どうして私は、この記憶が流れ込んできて、直感的に『これは私の前世の記憶』とわからなかったのだろう。
しかも‥‥‥私の頭に流れ込んできたのは、断片的な記憶だけ。
私の前世の記憶なら、生涯の記憶の全てが流れてきてもおかしくないと思うのだけれど‥‥‥。
あれ? というか‥‥‥。
「そもそも、なんで私は前世のことを思い出したのかしら?」
これが一番の疑問よね。別に、思い出さなくてもよかったのだと思うけれど‥‥‥。
うーんと考え込むも、結局結論は出なかった。
なので私は、考えることを放棄し、この現実味のない出来事を前向きにとらえることにした。
「よし‥‥‥! 前世の私(川島凛音)はかなりの人気者だったみたいね。でも、そのせいで結構辛い思いをしたみたい。今世も同じ思いはしたくない‥‥‥はっそうだわ! 今世は人間関係で辛い思いをしないように、前世の記憶を思い出したのじゃないかしら!? きっとそうだわ!」
私は腕を振り上げ、宣言した。
「これから私は、悪役令嬢を目指すわ! みんなから嫌われ者になって、トラブルのない人生を送るのよ!!」
「にゃ~」
足元のアースが、私の言葉に同意するように鳴いた。
閲覧ありがとうございました。