9話「爆誕!異世界産業革命!!科学幼女たち、電力インフラを整える」
9話「爆誕! 異世界産業革命!! 科学幼女たち、電力インフラを整える」
「……では、プロジェクト“エネルギー革命α”を開始する!」
「名前はともかく、ついに始まったわね……」
科学拠点α・中央工作室(元・魔王の玉座の間)。
今やそこは完全に研究施設と化し、かつての禍々しい装飾はすべて撤去され、代わりに配線コード、回路盤、風車模型、そして意味不明なカラフルなスライム電池の残骸が並んでいた。
「まずはこの川だな。水力発電にちょうどいい落差がある」
「この土地、意外と地形が都合良すぎない? いやありがたいけどさ」
「そこは“世界設定補正”ってやつだよ、きっと」
「なにそれこわい」
拠点の裏手には、小さな川が魔王城の断崖を流れ落ちる天然の滝があった。
しかも下流には水車を設置するのにぴったりの天然岩盤と、加工しやすい粘土土壌。
まるで「ここに水力発電を作ってください」と言わんばかりの神設計である。
「OK、銅線は地中を這わせる。絶縁体はあの変な透明なスライムの粘液を利用してコーティングする」
「この前の“スライムの涙”ね……なんか涙にしてはやたら粘ってたけど」
「その代わり絶縁性能は優秀よ? これで直流送電ラインが構築できるわ」
元・魔王城の大広間には、小型タービンと手製の水車が設置され、轟音とともに回り始めた。
──カラカラカラ……ギギ……ゴゴゴ……
「きたきたきたきた……!」
発電機に接続されたテスター(※ユイの手製)に小さなランプが点灯。
「点いたぁぁぁ!!」
「これが……科学の光……!」
その瞬間。
「おお……おおおおおおおおお!! 神託だぁぁあああああああ!!」
「なにごと!?」
近くで農作業をしていた村人たちが騒ぎ出した。
彼らの視点では、「魔王の城から神の雷(雷魔法)らしき光が放たれた」ように見えたらしい。
「村に伝わる予言の光と一致しておる!」
「ついに第二の光が訪れたぞー!」
「この幼女たちは選ばれし存在に違いない!」
「えっ……」
「えっ……」
「……神格化されるの早くない?」
こうして、魔王城跡の発電所は「神の塔」として勝手に崇められることになった。
──だが、科学幼女たちにとってはこれはむしろ都合が良い。
「信仰≒予算だ」
「信仰≒治外法権だ」
「信仰≒村人は勝手に手伝ってくれる」
「怖いこと言ってるよこの子たち……!」
その日の夜。リリカが焚き火を囲みながら言った。
「ほんとにやっちゃったわね、発電」
「リリカ先生……どうして、追って来たんですか?」
ユイが聞くと、リリカは少し懐かしそうに笑った。
「んー……なんとなくね。昔を思い出してさ」
「先生、昔も私たちの“爆発”とか“煙”とか“物理的暴力”とか……全部後始末してくれたじゃないですか」
「でも、楽しかったよ? あんたたちの“本気”を見るの、好きだったし」
それを聞いて、全員ちょっとだけ照れる。
「……なら、今も見てくれる?」
「何を?」
「この世界に“科学”という選択肢を、提示するところを」
その言葉に、リリカはにこりと笑った。
「……任せなさい。全力で“見守る”わよ、保育士として」
「監視じゃないですかー!」
「でも先生ならいいかも……」
「監視というより保険よね。火事起きたら消せるし」
「火事起こす前提で喋らないで!?」
こうして、“科学によるインフラ整備”は第一段階を終えた。
次の目標は通信と、教育。
そして何よりも、魔法の常識を塗り替えるための“学校”だった。