6話「再会と再開ーー科学という言葉の重み」
6話「再会と再開――科学という言葉の重み」
静寂を破るように、「バチッ」と音を立てて、火花が弾けた。
「……できた」
コノハが両手で掲げたのは、小さな金属板と銅線とレモンで構成された、原始的な電池だった。
「見て、ユイ。起電成功。レモン電池から電圧取れてる。……この世界でも科学は通用する!」
嬉しそうに報告するコノハの顔は、かつてブラックコーヒーを片手に研究棟を徘徊していた天才の面影を色濃く残していた。
「ん……感電しないでね」とユイは口元を抑えながら笑った。
「さすが理論バカね。計算通りだわ」
サリーが後ろで呟き、ユイは「わあ、ピカピカした……すごーい!」と純粋?に拍手していた。
※ちなみに今日はハルナは、眠くなってしまい、お昼寝のため帰った。
だが。
「おい……見ろよあれ……」「なにあれ……魔法じゃないのか……?」「子供が光を出してるぞ……!」
農道を通りかかった村人たちが、驚いた顔でこちらを見ていた。
「すごい……子供が……電気、電気を出してる……」「……あれは魔法か? いや、でも呪文は……?」
「魔法じゃ、ないんだよ……これは──」
「──科学だよ!!」
コノハが思い切り叫んだ。
どこか懐かしい、決して譲らないあの声だった。魔法も呪文も使わない、ただの幼女の、だが確かな信念が込められた声。
そして――
「……っ!」
遠くの林道の影で、その言葉に反応した誰かがいた。
赤茶色の長い髪を揺らし、ローブをはためかせて走ってくる女性。
驚きのあまり足が止まるコノハ。
──それは、彼女がこの姿になってから、まさかの再会だった。
「その言い方……間違いない……黒谷……!!」
女性の足取りが止まる。見下ろす相手は、5歳程度の小さな少女。
しかしその瞳に宿る光は、60年前と寸分違わない。
息を呑むコノハの横で、ユイがポソリと呟く。
「……ヤバイぞ、あれ……」
「うん……間違いない……」
サリーも青ざめていた。震えてる。
この二人にとっては、ある意味“恐怖の思い出”だった。
そして、その“恐怖の具現”が──柔らかく微笑んで口を開いた。
「──久しぶり。黒谷。……変わってないわね、魂は」
「あァァァァァァァァァァァァァ!!!」
震えながらコノハ達が口を開く。
「まさか……リリカ……先生……(リリカ姐……(サリー))」
小さな声だった。
だがそれは、60年ぶりに交わされる、確かな再会の言葉だった。
リリカがその言葉を遮るように、しゃがみこんで目線を合わせてきた。
「……黒谷。それに水谷に、川上も。嬉しいわよ。もう会えないと思ってたもの」
「いやいやいや……先生こそ……若っ! え!? 24歳!? どうなってんだこれ……」
「こっちに来てからの話は、あとでゆっくり……だけど、その口ぶりだと……みんな前世を覚えてるのね」
ユイが警戒するように距離を詰めた。
「あなた……本当に、先生なのか? 記憶もあるのか?」
「ええ、あるわ。全部。あなたたちが爆発事故に巻き込まれた日、私もほんの偶然で、こっちに来たの」
「じゃあ……」
コノハが言いかける。
「でも、これからは──」
リリカが微笑みながら、小さな声で言った。
「この世界では“名前”は大事。前の世界の名前は、ここでは捨てなさい」
「……そうだな。俺もそう思ってたんだ。もう“黒谷雄一”じゃない……コノハだ」
「ユイです……」
「サリーでいいわ」
少しリリカはくすりと笑う。
「……よく来てくれたね、みんな」
その瞬間、緊張がふっとほどけるような感覚に包まれた。
リリカがゆっくりと立ち上がり、小屋の方を見て言った。
「さて、そろそろ始めましょうか。“科学による世界改造”を」
「はい先生!!」
「違う、保育士です!!」
「えぇえぇえぇえ!?!?」
こうして、臨時として、保育士リリカが正式に着任した。