5話 砂糖と爆薬と、泣き虫研究者
5話「砂糖と爆薬と、泣き虫研究者」
コノハ達が“理系幼女カルテット”として再結集してから、三日が経った。
小さな木造の小屋を拠点に、彼女たちはこの異世界の理不尽な魔法文明に、科学という名の反逆を仕掛けていた。
今日も快晴。窓からは心地よい風が吹き込み、どこかの農夫が「じゃがいもが意思を持ったぁぁぁ!!」と叫びながら走っていく姿が見えるが、それは置いとこう。
──ラボに響く、けたたましい爆発音。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
「おいサリー!? お前またやったな!? 何入れた!!?」
「え!? え!? 入れたのは砂糖とちょっとした硝酸グリセリン……って、あれ!?」
「“ちょっと”が一番あぶねぇやつなんだよ!!」
小屋の中、真っ白な煙の中から、泣き声が響く。
「ふぇぇぇ……目が痛い、服もススだらけぇぇ……!」
泣いているのはハルナだった。サリーが開発中の“エネルギー保存式爆発スイーツ”の暴発に巻き込まれ、髪に砂糖がこびりつき、今や焦げたキャラメルヘアーと化している。
「ひっく、うわああああんっ……!」
「ちょ、ハルナ!? ごめん! ごめんごめん! サリー先輩が悪かったあああ!!」
「ふえぇぇ……もう、爆発やだぁ……」
サリーは急いでハルナの手を取り、ハンカチで涙を拭きながら何度も頭を下げていた。
「でも、あれは私の意思じゃなくて、ほら! この異世界の砂糖が予想以上に純度高くてさ!? 爆薬として理想的すぎるっていうか!?」
「理由になってないぞ、お前」
コノハは顔をしかめながら、爆発痕を調べていた。小屋の柱が焦げており、再補強が必要そうだ。すでに3回目の爆発である。
「やっぱりこの世界のショ糖結晶、構造が不安定すぎるな……エネルギー出力としては申し分ないが、安定剤が必要だ」
ユイが壁に作った黒板に、化学式を書きなぐっていた。
「だったらグリセリンじゃなくて、この世界の“マナ水”とか使えばいいんじゃねぇの?」
「マナ水は揮発性が高すぎる。前にお前が投げて爆発したアレだよ」
「うっ……」
サリーが俯く。実は昨日も小規模な火災を引き起こしていた。
そのときも泣いたのはハルナだった。
「もうぉ……泣くと、お腹すくし、甘いの食べたくなるしぃ……」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ハルナはススまみれの顔でカバンを開ける。中から取り出したのは、小さな包みに入ったチョコクッキー。
「あ、私の非常食! それ!」
「だって、甘いの食べないと、泣き止めないもん……」
「食べていいよぉぉぉ!! 私が悪いからあああ!!」
サリーが土下座する勢いでハルナにチョコを差し出した。
「まったく……このアジト、今じゃ完全に保育園じゃねぇか……」
コノハが呆れたように言うと、ユイも肩をすくめる。
そこへ、ようやくハルナの泣き声が静まり、もぐもぐとチョコを頬張りながら一言。
「うぅぅ……今度は、甘い爆薬にしてください……」
「爆薬に甘さ求めんじゃねぇ!!!」
全員が全力でツッコんだ。
──そんなふうに、科学と魔法とスイーツが交錯する中で、今日も一日が過ぎていく。