4話名前封印の儀
4話 名前封印の儀
──再会の興奮が少し落ち着いた頃。
コノハたち四人は、ラボの床に丸く座っていた。といっても、ここはかつての研究所ではない。魔法の世界の片隅、木造でできた小さな物置小屋を魔改造した“理系アジト”である。
レモンの皮の香りがほのかに漂い、中央のテーブルには、銅と亜鉛の簡易電池で発光する小さな豆電球がぽつんと灯っている。
「それにしても、やっぱり全員性別まで変わってたとはなぁ……」
コノハが苦笑しながら呟いた。
「黒谷が女体化してんの、正直一番ウケたけどね。あんた、超絶ツインテール似合ってるよ」
「うるさい。お前のピンクドリルも大概だ」
「はーい、ケンカしないで〜」
とハルナが間に入り、サリーの袖を引っ張る。
「でも、みんなに会えて本当に嬉しい……!」
「遥ちゃんはさぁ……全然変わらんね。泣き虫なのも、甘えんぼなのも」
「ふええ……川上せんぱい〜」
そんなやりとりの中で、ふとユイが立ち上がった。
「……なぁ、お前ら」
その真剣な声に、三人が顔を向ける。
「今後、前世の名前で呼び合うの、やめないか?」
「え?」
ユイはゆっくりと言葉を続ける。
「確かに、俺たちは“黒谷”とか“水谷”だった。だけど今は、そうじゃない。この世界で生きていくために、この姿、この名前で生きていくしかないんだ」
サリーも、ほんの一瞬だけ言葉に詰まり、しかしすぐに笑った。
「……そうね。アタシも“川上”って呼ばれるたびに、若返った現実を突きつけられてるみたいで、ちょっと嫌だったかも」
「私は……なんか、また“新人”って呼ばれそうで怖かったです……」
「呼ばねーよ! ていうか、そもそもお前が一番年下だよ!」
いつものノリでツッコミながらも、コノハは頷いた。
「……わかった。これからは、俺も“コノハ”でいい。こっちの名前で、お前らと一緒に歩いていく」
「俺も、“ユイ”で十分だ」
「“サリー”でよろしく〜。可愛いでしょ? ほら、語感もアイドルみたいじゃん?」
「ハルナ、頑張りますっ!」
四人は自然に、そしてほんの少し照れくさそうに、新しい名前を口にした。
コノハはポツリと呟く。
「奇妙だな……“名前”ひとつで、こんなにも自分が変わった気がするとはな」
「だって、体も見た目も全部変わってんだもん。そりゃそうなるよ」
ユイが冷静に言って、サリーがカフェオレを啜りながら笑った。
すると、ふいにハルナが立ち上がって、真剣な顔で言う。
「あの、えっと……それじゃあ、えっと、せーのって言ったら、みんなで自分の名前、言いませんか? 改めて、みたいな」
「……なんだそれ、面倒くさい」
「お前が言い出したんじゃん!」と全員から一斉にツッコミが入る。
「い、いいから、いくよっ! せーの!」
「「「「コノハ! ユイ! サリー! ハルナ!」」」」
木造の小屋の中に、4人の美少女の声が響き渡った。
今はもう、“黒谷”でも“水谷”でも、“川上”でも“宮本”でもない。
彼女たちはこの世界で、新しい名前で、再び始めるのだ。
──科学で、魔法の常識を打ち破るために。
──そして、世界をワンパンするために!