32話「科学と絆の救出作戦!再会、そして──あの人が」
32話「科学と絆の救出作戦!再会、そして──あの人が」
夜明けは、まだ遠い。
真夜中の山道を、三つの影が駆けていた。リリカ、魔王ルーク、そして老魔導校長。その背後には、瓦礫と灰と血の匂いを残した戦場――黒づくめの誘拐軍団1万人との死闘の跡があった。
残る標的、子供2名。
そのうち1人は、リリカ達の大切な子供──ハルナだった。
「あと1キロ……反応あり。複数、魔力強い」
魔王が淡々と告げる。
リリカは、すでに発動させていた魔力強化式を最大出力にし、足音も立てずに林を飛ぶ。
そして、谷を越えた先にそれはあった。
古代遺跡のような石造りのアーチを潜った先に、深い地下へと続く洞窟。そこに張られていたのは、三重の防御結界。無理やりに破ろうものなら爆発すら起こしかねない。
「細工が雑ね。数だけの軍団にしては、妙に手が込んでる」
リリカは眉をひそめた。
「……魔法絶対主義か?」
ルークが呟いたその時──。
「おぎゃああああああ!!」
突然、内部から赤子のような泣き声が響いた。
リリカは即座に結界へ指を突き立て、魔力で軌道を撹乱させながら**転移刃**を投擲。結界を一瞬だけ「空ける」ことに成功し、その隙に三人が突入した。
⸻
奪還戦、第二幕
地下は、奇妙に広く、まるで古代都市の遺跡だった。
高い天井、崩れかけた石柱、魔法紋で照らされた通路。
その中心に、檻があり――子供たちが囚われていた。
その中には――
「……! ハルナ!!」
リリカが叫ぶ。
檻の前には十数名の黒装束の魔法使いたち。そして、巨大な召喚獣――まるで異界の蜥蜴が闇から立ち上がる。
「侵入者を排除セヨ」
異様に冷たい声が、空間に響いた。
すぐに交戦が始まる。
「ルーク、右! 校長、後衛頼む!」
リリカは結界砲を取り出し、最初の敵魔導士に向けて撃ち込んだ。炸裂した光が敵の防御魔法を砕き、粉塵が舞う。
「オラオラオラァァァ!!」
校長が全力で火炎球を撒き散らしながら、同時に捕縛魔法を展開。敵が少しずつ動きを封じられていく。
「その子達は返してもらうぞ!!!」
魔王ルークが右腕を振り上げる。
雷鳴が轟いた。
「神雷・封獣轟断!」
召喚獣が悲鳴を上げ、雷の渦に呑まれていく。
だがその隙、敵の一人がハルナを抱えて逃走しようとした。
「逃がさない……!」
リリカが踏み込み、敵の背後に瞬間移動。
反転しながら放つ一撃――
「フラクタルブレイド・零式」
青い光の刃が、空間ごと敵を断ち切った。
「……ハルナ!」
崩れ落ちた敵の腕から、ハルナが解放される。目に涙を浮かべながら、彼女は震える声で呟いた。
「……リリカ……たすけに……きて、くれたの……?」
「当然よ、バカ」
そして、リリカの胸に飛び込む。
「うわああああああああん!! こわかったぁぁぁぁああん!!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔が、リリカの胸元に押し付けられた。リリカは微笑みながらそっと頭を撫でた。
「……よくがんばったね。もう大丈夫だよ、ハルナ」
⸻
そして、再会
救出された子供たちの中には、もう一人、リリカたちが見覚えのある顔がいた。
「……あれ?」
泣きながらハルナが指差した。
「く、くるみ……? くるみちゃん?」
「え?」
リリカが振り返ると、そこには金髪エルフの少女がいた。
「ハル……?」
そしてサクラは、小さなお菓子袋を取り出しながらにっこりと笑った。
「遥に、これあげようと思ってたんだよ。チョコまん、好きだったでしょ?」
「くるみぃぃぃぃぃいいいい!!!」
号泣するハルナ。二人は抱き合った。かつて大学で、昼休みにお菓子を交換しあった電気工学部の友人。
「私はサクラ。元・山田胡桃。前世は25歳の女。エルフになって帰ってきたよ」
そして――
「な、なんでお前がここに」
別の子供がいた。黒髪、鋭い眼光。リリカが思わず後ずさった。
「……グレイ」
「……宮本武蔵だよ。リリカ先生」
それは、かつての科学部の一員。老年の物理学者だった人物。なぜか幼女として転生し、今目の前にいる。
「うわああああああああああああ!?!?!?!?」
リリカは倒れた。
⸻
魔王城での再会
そして、数時間後――。
魔王城の大広間では、サクラとグレイが皆の前に立っていた。
ハルナの目は、泣きはらしたように赤い。
「……この人は、サクラちゃん。前の世界で、私のお友達だった人。お菓子いっぱいくれて……優しかった」
「それと……グレイちゃんは、元・宮本武蔵先生。物理学の変態で、コノハさんの――」
「ま、ま、まままままままま宮本武蔵ぃぃぃ!?!?!?」
カフェオレを飲んでいたコノハが、魔王ルークの顔面に盛大に吹き出した。
「あ。すいません魔王様」
「いや、慣れた……」
「お前……! まだあの“無から筋肉が生まれる理論”とか信じてんのか?」
「うるさい! あれは進化の理論的補完だッ!!」
「筋肉は概念じゃねぇッ!!」
殴り合いが始まる。幼女二人による格闘が繰り広げられ、リリカが仲裁に入る。
そして──
「うっ……うっ……ひどいよ……そんな言い方しなくても……っ」
不意にコノハが泣き出してしまう。
「……黒歴史なのに、馬鹿にしないでよ……私、がんばったんだよ……!」
リリカは静かに彼女を背負い、外へ連れていく。
夜空の下、リリカの背中でコノハは静かに泣いていた。
⸻
保育士の誓い
その様子を、サクラは静かに窓から見ていた。
すると、後ろから歩み寄る気配が。
「……見てたのか」
魔王ルークだった。
「君、保育士に興味はないか?」
「……え?」
「君のような目で、子供を見守る者が必要だ。あの子たちに、君の優しさが必要なんだ」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、サクラは小さく微笑んだ。
「……いいですね。やってみます。遥を守るためにも、あの子たちを育てるためにも」
こうして、サクラは保育士兼教師として、魔法世界に新たな使命を持った。
そして、すべての裏で暗躍する者たちの影も、静かに浮かび上がっていく。
「……科学など、野蛮だ。魔法こそが、真理なのだ」
中央貴族の奥深くにて、謎の魔導士たちがうごめき始めていた――。