31話「黒き影、誘拐の巣窟――救出の剣が振るわれる」
31話「黒き影、誘拐の巣窟――救出の剣が振るわれる」
夜の帳が静かに王都跡を包むころ、魔王城地下に設置された臨時作戦本部では、淡い魔導灯の光の下、魔法省のベテラン魔導士たちと、騎士団の精鋭たちが集結していた。
リリカの目の下には疲労の影がにじんでいるが、鋭い瞳に迷いはない。
魔王ルークは、鎧を身につける代わりに魔法制御装甲スーツを纏っていた。黒に金の縁取りが施されたそれは、まるで古の王が蘇ったかのような威圧感を放っていた。
「……位置、特定しました」
魔導士の一人が、魔力で封じた地図の一点を指す。
郊外の山岳地帯――森に隠された巨大な洞窟。その奥に、子供たちが監禁されている。
「生体反応、36。内、子供35。大人1名」
リリカは眉をひそめる。
「……犯人の数は?」
「約1万と推定。外郭だけでも約3千、内側に潜むのはさらに多く……」
「……は?」
一瞬、耳を疑った。
1万人。それは一個都市の住人に匹敵する。
彼らが皆、子供を誘拐するためだけに動いていたとしたら――。
リリカは思わず立ち上がった。
「どうしてそんな数が……!?」
「わからん。しかし武装も整っている。誰かが資金と組織を与えている……“意図的”に」
魔王ルークの目が細められた。
「つまり……背後にいるな。組織的に子供たちを狙ってる」
リリカの拳が震える。
「ハルナも……その中にいるのよ……!」
⸻
地獄の門を叩け――出陣
そして、夜の帳がさらに濃くなったころ。
魔法省と騎士団による合同救出部隊が、山岳地帯へ向けて出陣した。
だが、彼らの後ろには――
「待ちなさぁい!!」
杖を振りかざして現れたのは、どこかで見た帽子とローブの老人だった。
長い髭、白銀の魔導杖、そして破れかけのカバン。
「……校長?」
「なぜいる!? 作戦には呼んでないはず――」
「子供達が攫われたんだぞ!? それが教師として黙っておられるかっ!!」
校長の目に、かつて見たことのない燃えるような怒りが灯っていた。
そして彼は一言、こう付け加えた。
「……私はな、子供が……大好きでな」
一同、沈黙した。
「よし、戦力増えた。行くわよ、全員!」
リリカの指揮の下、出撃。魔導スキャンと索敵魔法で、次々と偽装結界を突破していく。
⸻
魔導兵団 vs 誘拐犯一万人
敵の巣窟。そこには、黒づくめの男たちが列をなしていた。武器を持ち、規律的に配置されている。
リリカはすぐに気づいた。
「……これは軍だわ。普通の誘拐犯じゃない」
その直後、雷鳴のような号令が響く。
「第一陣、前進ッッ!!」
三千人が一斉に突撃してくる。騎士団が応戦するも、数が多すぎる。
「援護する!」
魔王ルークが右手を上げた瞬間、漆黒の雷が天を割いた。
「断雷・黒天焦獄」
一面が焦土と化し、百人単位の誘拐犯たちが黒焦げとなって倒れる。
「騎士団は左右から包囲を! 校長、支援魔法を!」
「よしきたぁぁぁ!! 子供のためだぁぁぁ!!」
叫びながら火球を乱発する校長。リリカは冷静に前衛へ飛び込んだ。
「ハルナを返して!!」
リリカの手に走る魔導の火線。
**量子光熱砲**が敵を一掃する。
⸻
そして残された者たち
戦闘が数時間続いた末、拠点内部に突入。
子供たち35人、大人1人――救出成功。
一人ひとり、無事を確認しながら保護されていく。
だが――
「……いない。ハルナが、いない!」
数分後、現地指揮官が震える声で報告する。
「残された敵の記録によると……別の部隊が、子供2名と大人1名を、南東の拠点に運んだとのことです……!」
「……!?」
リリカの顔が一気に青ざめた。
「また……連れ去られたの!? ハルナが!?」
⸻
憤怒の追撃部隊
「リリカ、見つけた。足跡の残留魔素、追える」
魔王ルークが地面を指差す。残留魔素――足跡の魔力がまだ微かに残っていた。
それをなぞるようにして、魔王は小さな光の糸を作る。
「このまま追える。すぐに」
「……行くわよ」
その時だった。
「私も行こう」
校長が真顔で歩み寄ってきた。
「わしの可愛い生徒たちがさらわれたまま、帰れるか!」
「……意外と、情熱的ですね」
「子供は国の宝だぞぉぉぉ!!」
再び叫びながら、魔王、リリカと共に走り出す校長。
ハルナ救出のための、真夜中の突撃が始まった――。