表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

30話「水道調査と悲劇の再来――幼き科学者、再び攫われる」

30話「水道調査と悲劇の再来――幼き科学者、再び攫われる」


王都復興作戦、水道インフラ調査日。

リリカ、魔王ルーク、そして電気工学の天才にして泣き虫幼女ハルナの3人は、旧王都郊外の水利区画に足を踏み入れていた。崩れた水門、苔むした導水路、そして無数の苔と雨水を湛えた溝。ここが、王都の飲料水の中核を担っていた――とは思えない惨状である。


「……これはまた、原始的ですね」

リリカが小さく漏らす。水道管という概念はなく、雨水をそのまま地下水路で引いていただけ。ろ過装置も存在せず、濁った水が村の端へと流れ込んでいる。


「衛生観念が、ぶっ壊れておるな」

魔王ルークが眉をひそめる。だが、隣のハルナは違った意味で顔をしかめていた。水の冷たさ、ぬかるんだ足元、湿った空気、そして心の中に巣食う――かつての“誘拐”の記憶。


「……リリカ、手、つないでて……」

「うん、ハルナ。離れないでね」


リリカがぎゅっと彼女の手を握る。その小さな手には、微かな震えが宿っていた。



調査中のすれ違い


「ハルナ、ちょっとだけ、あっちの小屋を調べてくれる? 私たちはこっちの導水部を見てくるから」

リリカの指示にハルナはうなずく。


「う、うん、わかった……」


数メートルの距離、見渡せる距離、ほんの数分。


だが――それが運命の分岐点となった。


「……あれ? ハルナ?」

数分後、視界から幼女の姿が消えていた。


「っ!? ハルナ!?」


リリカが叫ぶ。魔王が顔を上げる。二人が駆け戻ったその先、小屋の扉が開け放たれ、中には誰もいなかった。


ハルナが、消えていた。



緊急連絡と絶望


すぐに魔法通信を使い、魔法省および騎士団に連絡が取られた。


「調査中に少女が誘拐された。協力を求む」


しかし、返ってきたのは信じがたい返答だった。


『事件としての優先度が低く、現在対応不可』


リリカは硬直し、魔王は拳を震わせた。


「……は? 子供が攫われてるんだぞ?」


魔王の瞳が、久しぶりに“本来の”それに戻っていた。燃えるような紅の双眸。だが、さらなる一手を打つしかなかった。


リリカが書類を引っ掴み、魔力封印の通信石を握る。


「……魔法省大臣、レオ・グランゼル様をお願いします!」


数分後、直接つながった。


『……リリカ君? どうしたのかね、そんなに慌てて――』


「ハルナが誘拐されました。魔法省も騎士団も、対応不可と言いました。」


通信石の向こうで空気が変わった。


『…………誰だ? そんな判断をしたのは。』


言葉の端が震えていた。次に聞こえたのは、大臣の怒声だった。


『全隊に通達! 緊急出動だ! 魔法省精鋭10名と騎士団から可能な限りの人員を出せ! すぐだ!!』



戦いの始まり――静かなる導火線


手短に謝罪を述べたレオ大臣の指示により、動き始めた魔法省。


その間にも、ハルナの消息はつかめなかった。

リリカは唇を噛み、魔王ルークは剣を抜いていた。


「必ず……見つける。誰一人、逃がさん……」


この日の午後、魔王城地下では臨時指令本部が設置された。大臣直属の魔導師部隊、騎士団約400名が出動準備を開始。犯人の痕跡、足取り、目撃情報――全ては、ここから始まった。


リリカはつぶやく。


「ハルナ、必ず……あなたを、取り戻す……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ