3話 クソジジイ!この美少女(幼女)科学部集結せり
3話 クソジジイ!この美少女(幼女)科学者集結せり
翌朝。
コノハのラボには朝から緊張感が漂っていた。というのも、ユイが「今日、お前に会わせたいヤツがいる」と、妙に神妙な顔をして言っていたからだ。
(まさか、転生組が他にも?)
昨日、銅と亜鉛とレモンで電気を起こし、ユイと再会し、奇跡的な「科学の再起動」を果たしたばかり。まだ興奮が冷めやらぬ中で、次なる展開が来るとは思ってもみなかった。
そして午前十時。ラボの木の扉が開く。
「よっ、相変わらずバカみたいな顔してんな、クソジジイ」
その一言で、空気が変わった。
コノハはぎくりと振り返った。その声、その口調、その罵倒のセンス。
「ま、まさか……川上……」
「せいかーい!」
声の主は、ふわふわのピンクの巻き髪に、やけに自信満々なドヤ顔を浮かべた、4歳児くらいの美少女だった。目が鋭く、態度はまるで先輩風吹かせる大学院生そのもの。
いや、間違いない。
「川上……!? 川上弘美……!!」
コノハが驚きで硬直していると、サリーはふふんと腕を組み、彼の隣にトコトコと近づいてくる。
そして、その後ろから、ぴょこっともう一人、小さな影が顔を覗かせた。
「黒谷先生……じゃなかった、コノハちゃん? 遥です!宮本遥ですっ!」
「おおっ……遥くんも来たのか!?」
思わず目頭が熱くなるコノハ。見た目は3歳くらいの、幼くてふわふわした茶髪の少女。手にはキャンディを握りしめて、少し不安げに、それでも嬉しそうに微笑んでいる。
─宮本遥。かつて自分たちの研究所に来たばかりの、新人研究者。25歳の若さで黒谷ラボに所属し、努力と根性で食らいついてきた子犬系女子。
その遥が、今はまるで“ほんとうの子犬”のように小さな体でぴったりとサリーに寄り添っていた。
「こいつらは偶然、俺が近所の川で実験してるとこに来たんだよ」
ユイが淡々と説明する。
「最初は驚いたよ。川上が“爆発で転生した”って言い出してさ。そこに遥くんもいて……それ聞いた時、もしかして黒谷も……って」
苦笑いを浮かべるコノハを他所に、
「お前が一番、探すのに苦労したんだぞ……」
ユイは軽くため息をつきながら、コノハの頭をぽんと叩く。
「どこで何やってんだよ!って思ってたら、 レモン片手に金属握って電気通してる幼女とか、さすがにお前しかいないだろうが」
「お前だって、豆電球光らせてたの見てなかったら、俺だって気づかれてないぞ」
幼女二人が理系マウントを取り合うという異様な光景に、サリーが大声でツッコむ。
「なにその会話!? かわいくねぇよ、全然かわいくねぇよ!!」
「私はかわいいけどね♡」と遥が満面の笑みで言うと、サリーは「お前は天使」と即答し、二人はぴとっと抱きついた。
「なんで……なんで俺以外の3人、すでに集合してんだよ!!!」
と叫ぶコノハに、全員が爆笑する。
─だがその直後、誰からともなく、笑いが少しずつ静まり、空気が落ち着く。
「でも……こうして全員無事だったの、奇跡だね」
ユイがポツリと呟く。
その言葉に、コノハもサリーも、そして遥も静かに頷いた。
──あの爆発。
たった一杯のブラックコーヒーが零れて、起きた大事故。ラボは吹き飛び、自分たちは生死不明のまま、あの世か異世界かすら分からぬ空間に転がり落ちて。
目を覚ませば、知らない世界。子どもの体。名前も変わり、性別すら違う。
でも今ここに、また4人で――いや、4人の科学者で、再び集まれた。
「なぁ……黒谷」
「ん?」
「また、やるか。俺たちで。この世界に、科学を叩き込もうぜ」
「ああ。もちろんだ、水谷」
コノハとユイが笑い合い、サリーと遥も、その背中を追うように小さく手を握った。
少女たちの姿で、ジジイたちは歩き出す。
世界を変えるために。
いや、科学で“魔王”をワンパンするために。