19話「元・魔王保育士ルーク誕生!科学幼女と育児魔法で育てる未来!校長逝きかける!?」
19話「元・魔王保育士ルーク誕生!科学幼女と育児魔法で育てる未来!校長逝きかける!?」
「──ねえ、コノハ。こっちの“赤ちゃん用ミルク生成魔法”って、栄養バランス崩れてない?」
「ちょっと貸して。あー……炭水化物過多で脂肪酸が少ないな。バランス取るには、グルタミン酸の転化式で……こう、だ!」
その日、科学幼女たちは魔導学園の秘密図書館で回収してしまった“禁断の魔導書”の解析の続きを行っていた。
もちろん、すでに魔王が復活してしまったのは前回の話である。
が──
「うむ。こうして“育児魔法”の再研究ができるとはな……我も随分と丸くなったものよ」
「いや、あなた前回まで封印されてた側だよね!?」
「しかもなんで“保育士免許”取得してるの!? その経歴どこで!?」
そこに立っていたのは、元・魔王ルーク=アナレクト。
今では魔法学園に雇われた、“新任・育児魔法講師(兼・保育士)”。
見た目は20代後半の白髪イケメン、だがかつては世界を震撼させた神話級魔族。
そして今、エプロンを着て哺乳瓶を温めている。
「こう見えて、わしは千年前にも子育て魔法研究を行っていてな──」
「いや、実験体扱いされてたんじゃないのそれ……」
「えっ」←ルーク少し傷ついた顔。
ちなみに、この人を“保育士にスカウトしたのはリリカである。
「だって、保育士不足だったし。彼、すごい魔力持ってるし、意外と真面目だし」
「え、先生この人と知り合いだったんですか?」
「うん、私が若い頃……って、あんまり変わってないか」
「変わってないですよね、先生。なんでですか?」
「そこは大人の事情よ」
それを横で聞いていた校長(世界最強)──
「うむ……あの魔王が、幼女たちに“食事の温度”で注意されている……」
「この光景、世界の均衡が揺らぐレベルでは……?」
涙ぐむ校長を、横でエレン先生がそっと支える。
「校長、泣いてます……?」
「違う……感動しているだけだ……いや、少し逝きかけたが……」←三途の川見てきた
「しっかりしてください校長ォ!」
さて、科学幼女たちはというと──
「この“寝かしつけ魔法”、音波で赤ちゃんの脳波に影響与えてるけど……調整ミスると“混乱”効果になるわね」
「つまり実質、範囲混乱魔法……?」
「それもう保育じゃないよね!?」
「大丈夫! 魔王先生が対抗魔法組み込んでくれたから!」
「寝るがよい、愛しき者たちよ……“スリープ・ミルク・シンフォニー”──♪」
部屋中に漂うミルクの香りと、胎教に良さそうな音楽の波動。
ハルナは一瞬で落ちた。
「……あの人、魔王っていうより“神話級のゆりかご”だよね……」
「世界最強の保育士とは……」
──夜、魔王(現・保育士)の部屋前。
「えーっと……おねしょの後処理、魔法でできるかな……」
ハルナがしょんぼり顔で扉をノックしていた。
だが、扉は静かに開いた。
そこには、ふかふかのタオルを持ち、膝をついて目線を合わせるルークの姿が。
「おねしょは、恥ずかしいことではない……誰にでもあることだ。わしも千年前は──」
「ほんと!?」
「……いや、それは言いすぎた。だが、気にするでない」
その優しさに、ハルナはぽろぽろと涙をこぼした。
翌朝、教職員会議。
「──で、本当に雇うのか? 魔王を」
騎士団の教官風の男が険しい顔で尋ねる。
「問題ありません。今のルーク=ナンタスカ氏には、魔族としての敵意も支配欲もなく、むしろ幼児への献身的な姿勢が見られます」
エレン先生が淡々と述べる。
「そ、それにあの科学幼女たちがルークに懐いておる……問題など、ない」
校長が半笑いで補足するが、どこか諦めの色があった。
こうして──
かつて世界を滅ぼしかけた“魔王”は、
いまや“最強の保育士”として、魔法学園の一員となった。
新たな混沌の幕開けを、誰もが予感していた──が、
当の本人たちは至って真面目に、おむつの吸収率と魔力透過性について、真剣に議論していたのであった。