16話「王立魔導学園で授業!科学は魔法か、はたまた異端か?」
16話「王立魔導学園で授業!科学は魔法か、はたまた異端か?」
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王立魔導学園──。
それはこの世界における、最高峰の魔法教育機関である。
王族・貴族・高位魔導師の子息らが集うこの学び舎に、
今日、特別枠で科学幼女四人組+保育士リリカが通うことになった。
しかも、例外的に初日から上級科目に参加できるという特待生待遇付き。
「というわけで、今日は“魔力制御基礎II”の授業に入るぞー!」
元気よく板書を始めるのは、担当の若い女教師・ミレイナ。
見た目20代半ば、快活で優しそうだが──魔導学科首席卒業の実力派である。
「魔力は感覚的に流しちゃだめよ〜。ちゃんと“イメージ”と“情動”をリンクさせること!」
「情動……またふわふわ系か……」
コノハがぼそっと呟いた。
「うむ、感情を媒介にした粒子操作は非線形で再現性が低い……」
ユイも真剣に板書しながら唸っている。
一方、ハルナは早々に飽きて、椅子の上で正座しながら
リリカの袖をぎゅっと掴んで「はらへったぁ……」とささやいていた。
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休み時間。
「なあ、あいつら……マジで特待生なのかよ?」
「あんなんガキじゃねーか……ていうか、右端の金髪、ずっとノートじゃなく数式書いてたぞ」
「左端の子なんか、“論理的には情動を排して定量的魔力制御を”って……なにそれ、異端じゃね?」
廊下には早速、ざわめきが広がっていた。
その中心にいるのは、科学幼女たち。
見た目は3〜5歳の幼女なのに、やたらノートが数式まみれである。
「ねえサリー……この“感覚で制御”って、マジでやってるの……?」
「うん、うん、魔法っぽいからやってるけど……
でもこれ、脳波ベースで制御系構築した方が安定じゃない?」
「ってことは、いけるね。“魔導量子場モデル”」
「待って待ってまだ思考実験段階だから!」
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次の授業は「炎熱魔法応用演習」。
炎属性魔法を精密に制御し、対象に与える熱量を調整するという上級科目。
講師は筋肉マッチョなベテラン魔導士、グルファード。
「よし、では前に出て、“火線”を試してみろ。お前たち、できるか?」
「火球なら昨日、ハルナがやりました」
コノハが即答する。
「ハルナ……?ああ、あのちっこいやつか? ……無理だろ、危険すぎる」
グルファードは鼻で笑う。
だが。
「……やるぅ……」
ハルナがすっくと立ち上がると、何故か背中のランドセル(科学グッズ満載)から
謎の金属筒を取り出した。
「ま、待てハルナ、それは“化学触媒加熱式点火装置”──!」
サリーが青ざめる。
ゴォォォォォ!!!!!
直径15センチの火炎放射が一直線に壁に命中。
「──やったぁ!」
満面の笑みで火炎筒を掲げるハルナ。
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!!」
グルファードが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「魔法の授業で、科学兵器を持ち込むとはなにごとだぁぁぁ!!」
「でも……制御してます。熱量計算もしてます……」
ハルナがしょんぼりした。
「で、でも、物理的には正しいんですぅ……(泣き声)」
サリーもつられて泣きかける。
「落ち着け落ち着け落ち着け!説明しよう!これは学問の自由なんだ!宗教戦争ではないんだよ!!」
コノハが慌てて止めに入る。
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結局、騒ぎは収まらず。
教員会議にて話し合われることになった。
だが──。
「ああ、あの子たちはね、我々とはまったく別方向の才能よ」
校長が一言、笑みを浮かべて言った。
「いずれ世界の法則そのものに切り込む連中だ。いまは理解されなくてもね」
そう、校長は既にその“異端”を見抜いていた。
世界の法則を、魔法を、“科学”という別の眼で再構築する未来の萌芽を。
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そしてその夜、科学拠点α。
「ぐす……わたしの火炎魔法、へんなのって言われたぁ……」
ハルナがリリカの膝の上でしくしく泣いていた。
「違うよ、ハルナ。ちゃんと自分で考えて使った魔法は、本物だよ」
リリカはやさしく抱きしめる。
「……ほんとに?」
「ほんと。ちょっと強すぎたけどね」
ハルナはにこっと笑って、ようやく安心した顔で目を閉じた。