14話「ハルナ、初めてのおつかい!(元25歳ですよね)」
14話「ハルナ、初めてのおつかい!(元25歳ですよね)」
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「さあ、今日のおつかい担当は……ハルナちゃんですっ!」
「ふぇっ!?」
突然の宣言に、ハルナは目を丸くした。
科学拠点αの朝。
いつものように朝食後のタスク分担会議をしていたところ、リリカが楽しそうに指を立てたのだった。
「えっ……わたしが……?」
「うん。王都の広場で開かれてる朝市に、このリストの品物を買ってきてね♪」
そう言って渡されたのは、羊皮紙に丁寧な文字で書かれた買い物メモと──
「これと、これと、これも持っていきなさい」
と、ユイが出してきたのは──
•小型超音波バーストスピーカー(通称:泣き声ブラスター)
•自走式警報発煙筒(通称:コケたら煙)
•GPS魔法石(通称:いまどこスコープ)
•護身用びりびりスティック(見た目はただのぬいぐるみ)
「……なんか、すごく物々しいんだけど……」
サリーが苦笑しながら言う。
「3歳児ひとりでおつかいなんて、普通なら犯罪だよ……」
ユイは真顔で呟いた。
「だいじょぶ、ハルナちゃんならできるよね?まるでCIA装備持って!」
コノハが背中をぽん、と叩く。
ハルナは心細そうに見上げながらも──
「……うん、がんばる……!」
と、小さく拳を握った。
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その日。
3歳幼女、ハルナ。
元25歳理系研究者にして、現在はぬいぐるみ型電撃兵器とGPSを装備した”対犯罪仕様”の科学少女──。
ついに、人生初の“おつかい”へ。
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王都の朝市は、すでににぎわいを見せていた。
野菜や果物、焼きたてのパンの香り。
行き交う人々の笑顔。
しかし。
この世界における“3歳児の単独外出”は、常識的にアウトである。
「……あれ、あの子……ひとり?」
「え? うそでしょ……」
「いやいや、まさか。人身売買とかあるし……」
数人の大人たちが心配そうに見守る中──
一方、怪しい男たちもその存在に目を留めていた。
「おい、あれ……めっちゃちっちゃいぞ。いい獲物じゃね?」
「運びやすいし、黙ってりゃ売れるだろ……よし、いくぞ」
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「こんにちはぁ……にんじんください……」
ハルナは小さな声で、精一杯の勇気を出して野菜屋のおじさんに話しかける。
「おおっ、えらいねぇ! こんな小さい子が……ひとりで?」
「……うん。おつかい……なんです」
感動したおじさんはにんじんをおまけしてくれた。
だがその直後──
「なあそこのお嬢ちゃん、ちょっと来てくれないかなぁ?」
後ろから、怪しい男が声をかけた。
「こっちに楽しいお菓子があるよぉ?」
「……え?」
ハルナが一歩下がった瞬間──
ブチィィィィィ!!!!!
ぬいぐるみが火花を散らして点火。
「ぴぎゃあああああああああ!!!!!!!!」
誘拐犯の一人が叫んでのたうち回る。
次の瞬間──
ドゴッ!!!
小さな拳が、泣きながら誘拐犯の顔面にめり込んだ。
「……こわかったのぉぉぉぉぉ!!!!!」
涙を流しながら、ハルナは犯人をボコボコにしていた。
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その頃。屋根の上からそれを監視していたのは──
保育士リリカ。24歳。だが神話級魔法使い。
「ふぅ……今回は出番なしかと思ったけど……」
リリカはため息をつきながらも微笑む。
「よくがんばったね、ハルナちゃん」
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そして夕方、科学拠点α。
「……かえってきましたぁぁぁ……」
ハルナは目を真っ赤に腫らしながら、買い物袋をぎゅっと握っていた。
「にんじんと、トマトと、にくと……おかいもの、ちゃんと、したぁぁぁ……!」
号泣しながらコノハにしがみつく。
「……おつかい、完了だな」
コノハはそっと頭を撫でた。
「えらかったわよ、ハルナちゃん」
サリーも微笑んでハンカチを渡す。
「うん、3歳(元25歳)とは思えん行動力だよ」
ユイも素直に認めた。
「よくがんばったわね」
リリカは静かに微笑んだ──が、内心では追跡魔法と狙撃魔法を10秒おきに準備していたとは誰も知らない。
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こうして、ハルナの“初めてのおつかい”は、涙と電撃と誇りで幕を閉じたのだった。