12話「ハルナ、初めての"火球魔法"。でもそれ理論的に可焼爆弾では!?」
12話「ハルナ、初めての“火球魔法”。でもそれ理論的に可燃爆弾では!?」
「は、はじめての、かきゅうまほう……!」
魔法学園・初等部の実習区画、その第六訓練場。砂地のコートに小さな的がぽつぽつと並ぶ中、ハルナは両手を前に出し、ぷるぷる震えていた。額には汗、口はへの字、目はうるうる。
その様子を見て、リリカがやさしく微笑む。
「大丈夫。ハルナちゃんならできるわよ。さっき理論も覚えたでしょ?」
「うん……でも、こわい……」
手を繋いでいたサリーが、少しだけ前に出る。
「大丈夫よ。失敗しても私が消火剤ぶち撒けるから」
「それ、逆にこわいんだけどぉぉぉ!?」
なお、この“火球魔法”の訓練には、コノハ、ユイ、サリーも付き添いとして見学中。とはいえ、彼女らは魔法を“科学的に理解する”ことに夢中だった。
「ふむ……火球魔法。魔力を熱エネルギーに変換して、空中圧縮で射出……なるほど、これはいわば魔力転換式の燃焼球だな」ユイがペンを走らせながら呟く。
「加熱→着火→膨張→推進力。この流れ、まんまテルミット式可燃爆弾と似てるじゃない」サリーは自分のノートに、“理論上の熱量計算”の走り書きをしていた。
「うん。つまりこの火球、投げる速度と点火タイミング次第で“爆発”にもなるってことか……なるほど、兵器としての応用価値が高い」
「こわっ」
リリカが小声でボソッと呟く。
生徒が魔法の初歩を学んでる傍で、元科学者たちがガチで“戦術兵器”として分析している構図である。
◆◇◆◇◆
「それじゃあ、ハルナちゃん、もう一度深呼吸して」
「ふ、ふぅぅ……」
「両手をこう、はい……魔力を集めて、“ファイア・ボール”!」
「ふぁ、ふぁいあ……ぼーるっ!」
ポフッ!
――火が出た。
掌から、ほんの小さな火の玉がフワッと浮かび上がった。赤く、ぽわぽわとした子猫のような火球。それが空中をくるくると回って──
的に当たらず、地面にポトリと落ちた。
ボンッ!
予想以上に爆発した。
「え!? えええ!? ええええええ!?」ハルナが悲鳴をあげる。
「わっ!? 火球ってあんな燃えるの!?」サリーが慌てて前に出ようとするが──
「待て! 見ろ! 地面に爆燃痕ができてる! ということは着弾直後に高圧反応が──」ユイが分析を始めた。
そこに割り込むようにコノハが走り出す。
「完全に“爆縮”だ!魔力の流れ、さっきの回転と落下角度、燃焼点との相互作用! やばいこれ、魔法の名を借りた純粋な爆薬じゃねーか!!!」
その時、横でハルナがしくしく泣き始める。
「こわかった……火が、バンッてして……わあああああん!!」
「よしよし、ハルナは悪くないわよ~、初めてにしてはすごく上手だった!」リリカが抱きしめて宥める。
そして──
◆◇◆◇◆
数分後、訓練場の片隅では、なぜか小さな溶鉱炉が設置されていた。
「よし、火球魔法の魔力を純粋な熱源として利用して、鋳造プロセスに応用できるかを検証する!」
「じゃあ私はその“魔力燃焼エネルギーの分光分析”やるから、プリズム装置準備するわね!」
「私も“着火タイミングと爆発力”の検証やる~」
リリカは顔を覆ってうなだれた。
「この子たち……もう完全に魔法の意味履き違えてるぅ……」
◆◇◆◇◆
その夜。魔王城──もとい、科学拠点αに戻った4人とリリカ。
ハルナは布団の中で「も、もう火の魔法はやらない……」と呟いていたが、隣でコノハがそっと言った。
「でもさ。あの火球、上手く制御すれば“推進剤”としても使えるぞ?」
「……それって、空飛ぶやつ……?」
「ロケットっていうんだ。いつか、お空にも行けるかもな」
「……わたし、がんばる……!」
かくして。
魔法世界に科学の火が灯った。
次なる計画は、“魔力を動力源に使った科学装置の実験”。
リリカは頭を抱える日々となるが、それはまた、別の話である――。