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リビングドール・リスタート  作者: 魚缶
序章∶人形の体
2/3

状況整理、大事

 状況把握に努めること五分。

 存分に絶叫した後、俺は一先ずこの部屋の探索を済ませた。


 そこでわかったことは一つ、俺は骨を基盤に生み出された生き人形(リビングドール)だと言うことだ。


 リビングドール、それは大魔王の魔力から生まれるごく一般的な魔物……つまり、人類の敵の一つ。

 明確な意思は持たず、ただ命令されるがままに動くバケモノ、ってやつだ。


 どうやらこの部屋は、そのリビングドールの研究室のようで、部屋のあっちこっちに残骸が散らばっていた。



「なるほどな……」



 声が異様に高いのも、この人外級の美少女な見た目が故、と言ったところだろう。


 ……わかったことはたったこれだけ。


 ここがどこに位置しているのか、そもそも今がいつなのか。

 誰が俺をこんな体にしたのか、わからないことはいっぱいだ。



「取り敢えず……服だな。服」



 人形の体と言えど、素っ裸なのはあまりよろしくない。

 と言うわけで、そこら辺に落ちていた布を拾い上げ、敵なロープを腰に巻いて適当な服にした。


 これで一応隠せているはずだ。



「さて。探索といこうか……ん?」



 一つでも多くの情報を得るため、この部屋から出ようとしたそのとき、突然部屋の外からドタドタと慌ただしく走る足音が聞こえてきた。


 経験則から急いでいるのは確実……と言うか、こっちに向かって来ているような。



「……あー、これもしかして、隠れたほうがいいやつか?」



 これまずいやつでは、と思ったのも一瞬の話。


 逃走、という行動に移すまもなく、誰かが勢いよくドアを開けた。



「うぉおおおおおおお!! やはり成功だッ!! 俺の研究成果が実ったぞおおおおおおお!!!」



 と騒がしく部屋に入ってきたのは、白衣を着てメガネを掛けた不潔気味の男だった。


 身長は結構高めで普通の人間のように見える。

 少なくとも、人間が敵対していた種族、魔族とかそういうのではなさそうだ。


 男は興奮気味に小走りで俺に近寄ると、後退りする俺の腕を掴んで持ち上げる。

 俺は抵抗しようとするまもなく、軽々しく持ち上げられてしまった。



「よしっ、よしっ!! 変な異常はなさそうだ。君、喋れるか?」


「え、あっ、は、はい?」


「は……ははははっ!! よし、よしよしよしッ!! 完璧だ!!」


「完璧……?」



 そうっ! と男は声を荒げると、勝手に一人語りを始めてしまう。


 曰く、この男はリビングドールの研究者であり、明確な自我を持つリビングドールを生み出すために、人として生きることをやめ、人類を裏切って大魔王軍についたらしい。


 何こいつ人間裏切ってんだよ、とか思ったがそれは一旦置いといた。


 で、俺が数百回目の研究成果とのことで。



「やはり偉人の骨を使ったのが良かったか」


「い、偉人……!?」


「そうだ。どっかの偉人の骨、と言われて貰ったのが君だ。何か覚えてないか?」


「な、なんも、覚えてない……です?」



 大嘘、全部覚えてる。

 しっかり、ぜんぶ、覚えてます。


 アルバー、英雄になるため数多の戦いの末、大魔王を討ち果たした男。

 それが俺。


 だが英雄だよ、なんて言ってどうする。

 こいつの言っていることが本当ならば、俺のいる場所は多分大魔王軍の本拠地。


 そこに英雄の記憶が持ったリビングドールが誕生した、なんてなったら大騒ぎ間違いなしだろう。


 それに、どう利用されるか分かったものではない。


 と言うわけで、ここは知らぬ存ぜぬを貫き通させてもらいます。



「そうか、それならそれでいい。多分体のほうが経験として覚えていることがあるだろうからな」



 経験が体に染み付く、ってやつか。



「一先ず、大魔王様への報告を……」



 と言って、散らばっている部屋の中から何かを探そうと荒らし始める。


 俺はどうするべきか悩んで、取り敢えず今さっきまで寝ていたところに座ることに。


 敵の本拠地かもしれない、と言うのであればあまり下手に動くべきではないだろう。



「っと……そうだ、忘れていた」



 突然、男は紙を一枚手に取って俺の方へと近づいてきた。

 なんだなんだと警戒していると、手に持っている紙を右目の前に垂らす。



「なにを……?」


「ちょっと我慢してくれ……よッ!」



 と言う勢いづいた声とともに、思いっきり掌で紙を押しつけてきた。


 ……いや、どちらかと言うと殴った、と言ったほうが正しいかもしれない。



「ぅぎゃああああああああッ!!? て、てめっ、な、何しや──何してッ……!?」


「あれ、痛かった?」


「い、痛くはなかった……です、けど……」



 だからといって急にやっていい行いではないだろ。


 そんな俺の考えを知らない男は満足気に後ろに下がると、俺に向かって言い放つ。



「よし、今から君の名前は《壱号(アイン)》だ!」



 そう言って男は鏡を差し出した。

 覗き込んでみると、俺の右目には《Ⅰ》という数字が刻まれている。


 なるほど……初の完成形だから、Ⅰってわけね。

 なら二体目が出来たならばきっとⅡという数字とともに、ツヴァイと言う名が与えられることだろう。



「やるなら言え……言ってくださいよ……」


「すまないすまない。どうにも思い立ったら行動しない気がすまないもので」



 どうやら俺の製作者は、風呂敷広げすぎて閉じれないタイプの人間らしい。


 そんなこんなでまた何かを探し始め、何かを見つけた男は俺に背を向けて作業を始める。

 そして手元で何か光ったかと思ったら、俺の方へと向き直る。



「よし、取り敢えずお呼びがかかるまで、やることやっとかないと……あれ、アイン、今気づいたけど、それはなにを着てるんだ?」


「服がなかったから、取り敢えずそこら辺にあるものを──と、思って……」


「一般知識、もしくはそれ以上……いや、元となった人間の持つ知識によるものか……? この辺は二体目で検証してみるか……」



 と、一人でブツブツと呟き始めた。

 完全に自分の世界に入ってしまったようなので、仕方なく俺は立ち上がると、奴に近づいて一発ビンタをかました。



「いったぁ!? な、なぐ、殴っ……!?」



 急に殴られて驚いたのか、困惑した様子でビンタした右頬を押さえて後退り。



「だって一人の世界に入ってしまう……ものですから」



 取り敢えず、敬語キャラを貫き通してみることに。


 男は、ご、ごめん、と言うと、部屋の隅に埃を被って置かれていたタンスを開く。

 するとそこからワンピースを一着取り出して、俺に手渡しした。


 広げて見ると水色を基調とした、とても綺麗な状態のワンピースだった。



「まさか、そう言うご趣味が……?」


「ち、ちがっ!? 出来た後に着るものがないと色々まずいだろっ!?」


「まぁ、それもそうですね」



 と言うわけで、俺のために最初から用意されていたものらしい。


 この手の服を着るのは久しぶりで、少し小っ恥ずかしい。


 ……いや、別にあの時も好きで着たわけじゃない。



「あれは仲間の一人が……って、誰に言い訳してんだ、俺は……」



 小声でぼやきながら渡されたワンピースに着替える。

 やはり下が開いてるのはどうにも気に食わない。


 が、一先ずここは我慢だ。

 なんせ俺の見た目は完全美少女なのだから。


 着替え終わった俺は鏡の前に立って自分の姿を見る。

 こうやって見れば見るほど完璧な造形と言えるが、中身は紛うことなき俺なのだ。


 何とも言い難い気分になってしまう。



「サイズも丁度良さそうだな。よし、それじゃあ──」



 と言って部屋を出ようとしたところで、俺は呼び止めてさっきからずっと気になっていたことを聞くことに。



「そう言えば、お名前、知らないです」


「ん? ……ああ、私の名前か!」



 眼鏡をくいっと上にあげると、左手を胸に当て鼻高々にこう答える。



「ウィリアム・エルバート。かのエルバート博士の子孫さ!」



 ……いや、誰だよ。


 誰だか知らないが高名な人の子孫らしい。

 博士っていうくらいだから、発明家とかなんかだろうか。

 だが有名な発明家、って言うならば俺にだって覚えがあるはず。


 なのに知らないってことは……単純に俺が聞いたことないだけか、俺が死んでいる間に有名になった人か。


 まぁ、骨が残ってたって言うなら、死んでからそんなに経っていないはず。


 って考えると、まぁ、そこまで有名じゃないんだろう。



「……誰ですか?」


「……知らないってことは知識と記憶は別物……行動知識だけは残ってる感じか? いや、でも──」



 またブツブツと呟き始める。

 どうにもこれは彼、ウィリアムの癖らしい。


 いたなぁ、仲間にもこういうやつ。

 一度自分の世界に入るとビンタでもしないと帰ってこないやつ。


 仕方なく俺はもう一度ビンタをかまそうとしたところで、部屋のドアがノックして開かれる。



「エルバート博士、大魔王様がお呼びです」



 そうして入ってきたのはメイド服の女性。

 どうやらさっき手元で何かしていたのは、何らかの方法で大魔王へと連絡を取っていたからのようだ。


 流石に大魔王のお呼びということもあってか、ウィリアムは自分の世界から戻ってきて、わかった、と返事を返して立ち上がる。


 そして深呼吸を一つすると、俺の顔を見て緊張を含んだ顔で言い放つ。



「……お披露目会と行こうじゃないか。これは第一歩なんだ──」



 覚悟を決めたような物言いをしたウィリアム。

 俺はこれからのことを色々考えながらも、一先ず行き着く先を決めるために、歩き出す彼の後ろをついて行くのだった。

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