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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

隠滅たまり

掲載日:2024/05/02

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんは、普段どれだけの人に見られているか、意識しているかい?

 他人は、自分のことを恐ろしいくらいに見ていない、という意見を聞くことがあるものの、一方で怖いくらいに見ているという声もある。

 私が考えるに、たまたま目を向けた瞬間に、何をとらえるかが大きいと思うのだよね。

 仮に、向いた先にいたのが赤の他人だとしても、それが犯罪であったり、命や尊厳にかかわる行為の最中であったり……当の本人が「見られていないだろう。いや、見ていないでほしい」と願うことを、じかにまなこにとらえてしまう恐れも。


 そいつは、互いにとってあまりうれしいことではないだろうな。

 目にしてしまった側としても、印象をぬぐうことはできなくなり、目にされた側だって平静ではいられない。

 ときに、それが事故であったとしても、恐ろしい報復行動に出てしまうかもしれないな……。

 私が以前に友達から聞いた話なんだが、耳に入れてみないか?



 友達のクラスメートが、息せき切って教室へ飛び込んできたのは、春先のことだったらしい。

 いつになく慌てた顔でもって、開口一番に告げるのは、「『お玉が池』がカエルを食べた!」ということだったという。

 全国探すと、ちょくちょく名前を見かけると聞く「お玉が池」。友達の地域だと、通学路途中の道路わきにある、大きい池のことだった。

 あやまって人が中へ入らないよう、辺りに柵が渡されているらしいが、せいぜい大人ひとり分の高さ。その気になれば乗り越えられてしまうそのガードの向こうで、クラスメートは見たのだという。

 お玉が池のふちにちょこんと座っていたカエル。それが池へ引きずりこまれてしまった瞬間を見たのだという。


 ただ、それだけを聞いたなら、カエルが飛び込んだのだろうとみんなが思うだろう。事実、友達もそうだったようだが、クラスメートは違うのだと熱弁する。

 たたずむカエルの足元に、水の紐らしきものが絡みついて、そこからカエルを引っ張り込んだのだと……そういって、はばからなかったんだ。

 想像力豊かなメンツは、その様をイメージしてちょっとブルッてしまったみたいだけど、友達としてはまだまだ眉唾物。

 そのようなこと、起こるはずもないと、踏んでいたのだけど。


 午後から、学校の近辺は雨降りになった。

 帰るまでの数時間のうちにやんでしまい、雨具のない面々は胸をなでおろしたものの、そこかしこに水たまりを残すには十分だったようだ。

 その日の友達は用事があって帰りが皆よりも遅くなってしまい、下校時間ギリギリで門の外へ出た。

 家に帰るまでの、1.5キロほど。水たまりもいまだ健在なものも多く、いくつかそばを通る機会もあったのだけど、ふとあることに気付いた。


 水たまりが、いやに濁っている。

 底が見通せないほど、泥とかが溶け込んでしまうケースは多いが、今回はそこまでいかない。

 油分だ。かすかに油めいた膜が、水面に浮かんで広がっている。

 今も吹いているかすかな風を受けて、水面ごとゆらゆらと漂うそれは、つい先ほど何かが漬かっていたと思わせる、真新しさをにおわせていた。

 それがひとつやふたつなら、たまたまかとも思えたろう。

 けれども、友達が帰る道筋のおおよそ半分を過ぎるまでに見かけた、大小の20個あまり。ことごとくが同じ状態だったとなれば、さすがに怪しんでしまう。


 ――事故にしては、範囲が広くないか? 誰かのいたずらかな。


 そんなことを考えながら、家近くの交差点間近まで来たとき。

 ふとわきに目をやると、そこにも水たまりがあった。

 これまでとは違い、油膜の気配が見えない、澄んだ水面。その底のアスファルトの凹凸もはっきり確認できる……。


 その瞬間。友達の目が見えなくなった。

 いきなり目を閉じたかのような感覚だが、そのような命令を脳は発していない。はっきりくっきり、まなこは開いているはずなんだ。

 なのに、これまで映っていた見慣れぬ景色は暗闇に染め上げられて、それきり。

 代わりに耳朶を打つのは、水が跳ねる音。源からして、自分が顔を向けていた水たまりのあたりと思しき方向だが……。


 そう考える間に、ふと視界は戻ってきた。

 完全にではない。まるで水に潜った直後のごとく、おおいに濡れて歪んでいた。とっさに袖で拭い、ちょっと離してみて、つい声をあげそうになった。

 袖はにじんだ赤に染まっていたんだ。あわてて指を目の近くにあててみると、これらの赤は瞳そのものから、こぼれてきていると察せられたとか。

 でも、にじみこそすれ、痛みはない。

 目のあたりを拭っていき、ようやく赤みがほぼ取れきったときに、友達は改めてかの水たまりを見やる。

 そこには先ほどまでなかった、油膜が広がっていたらしい。

 しかも、これまでのものとは違い、そこにはほんのりと赤みさえも浮かんでいたのだとか。


 次の日。

 学校で同じようなことを、帰り道に体験した人はかなりの数にのぼった。

 せいぜい数秒間ほど、視界が急に隠されて、戻ってきた時には出血とともに、ぐしょぬれになっている……そのような事態の体験が。

 そして、あの池でカエルが引きずりこまれたと証言したクラスメートは、その日を境に二度と学校へ来ることはなかったそうなんだ。

 その子の近所に住む他のクラスメートによると、両目をしっかりと隠すように包帯を巻いている姿を、ちらりと見たのだとかなんとか。


 池が自分の醜態をさらしたのを悟り、それを見た「目」を、ああして水たまりを通じて探していたのかもしれない。

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